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上場会見:グリッド<5582>の曽我部社長、数式でデータを作る

7日、グリッドが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格の2140円の2.3倍である4925円の買い気配で引けた。AIを活用した計画最適化事業を行う。社会インフラに関わる業務を数式化し、シミュレーターを開発してデジタル空間上で業務の動きを再現。その結果から得られるデータを基に最適化アルゴリズムを開発し、業務システムに組み込む。曽我部完社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

ビッグデータに依存しないため、AI企業と比較されることは少ないと話す曽我部社長
ビッグデータに依存しないため、AI企業と比較されることは少ないと話す曽我部社長

―初値が付かなかった
株主が新しく一気に増えて、一般投資家が株主になったことで価格が付かなかったのは嬉しいことでもある。過剰な企業価値のようなものは求めていない。実態に合った株価であるべきだ。我々の実力を見定めてもらい、適正な株価に着地していくだろうが、瞬間的なバブルのようなものは望んでいない。成長に従って株価が上がっていく経営をしたい。

―このタイミングで上場した狙いは
上場は2019年ぐらいから、このタイミングに合わせて準備してきた。証券市場、株価が非常に好調なタイミングに偶然当たったが、何年も前から準備してきた。さらに顧客も増えて、社会インフラの計画業務を支援していくと、技術だけではなく、会社の体制も含めて顧客に信頼される会社であるべきなので、上場のプロセスで会社の体制も含めてしっかりと成長してきた。今日をスタートに、企業価値を上げながら5年後、10年後に良い会社になったと言われることを目指したい。

―経歴や趣味を聞きたい
趣味は、仕事が好きだということになる。目論見書などでは、AIの会社なのに「おいおいおい」という経歴が出てくるので、投資家も含めていろいろな人から質問されることが多い。

初めは花の小売業で働いて、インターネット黎明期だったのでITに関わる仕事をし、新しい事業を作って20代を過ごしてきた。元々自分で事業をしたかった。30歳を過ぎた頃に、会社を辞めて新しく仕事をしようと思ったのがきっかけだった。

当時、自分の会社を作ろうとしたが、実家に帰ると父親が間もなくがんで亡くなり、父親が個人でやっていた会社があったのでその屋号を継いで、物流の仕事をしていた。2009年に新しくエネルギーに関する仕事をしたいと考えて創業した。

新しく事業を作るメンタリティーがある。AIに関しても、2014年ぐらいに九州にメガソーラーの発電所を作ったので、アルゴリズムを使って発電所が系統にどれだけ電気を流すのか計算しようした。当時、私の兄弟が大学で教えていて、彼と協力しながらアルゴリズムを書いた。太陽光発電の時も、電流も電圧も分からなかったのでフレミングの法則から勉強したように、数学も一から勉強した。新しいチャレンジが好きなことが私の特長なのだろう。

■“できなかった”を実現
―上場企業として、今後の日本や世界に、どのような価値をどう提供して貢献するのか
インフラの計画最適化をしている。皆が当たり前に感じるだろうが、水道の蛇口をひねれば水が出るし、コンセントにつなげれば電気が点く、物が欲しければすぐに手に入る日本で、電車はいつも普通に走っている。これは当たり前のようでいて当たり前ではない。

その背後には必ず、インフラを支えている会社がいて、そこで働く人たちがたくさんいる。そういう人たちがいろいろと苦労しながら、我々が当たり前と考えているものを実現してくれている。そういう人たちに目を向けた時に我々が貢献できることはたくさんある。

世界を見ても、日本のインフラは素晴らしい。効率を誇り、これだけ高度化されたインフラを持つ国は世界を見てもなかなかない。ここで実績を残して貢献していくことが、社会全体が使うエネルギーコストを下げることにもなり、より快適な生活を支える技術にもなる。そこに向き合って社会に価値を届けていきたいのが1つ目だ。

一方で、過去にチャレンジをして、今まで誰もできなかったことを1つひとつ実現してきた自負もある。誰かの真似ではなく、誰もできなかったようなことにチャレンジしながら、それを実現していくことも、会社のカルチャーとしてはやっていきたい。新しいチャレンジもしながら皆が驚くような成果を出していくのも、企業としてはすごく重要だ。そういう会社であり続けたい。

―誰にもできなかったこととは。具体的に
海上輸送計画や電力会社の発電計画などは、過去にやれていそうでやり切れなかった領域だ。外から見ていると「当然やっているだろう」と思われるが、なかに入ると、できないことがたくさんある。

そこには人が必ず関与し、いろいろと考えて最終調整をしながらインフラのオペレーションをしているのが実態だ。完全にやり切っている会社はほとんどいない。必ず誰か人が関与しながら、大量の人がそれに向き合って仕事している。

それぞれの計画領域で、一言で書いてしまうと「〇〇計画」になってしまうが、それを実現しているレベルとクオリティは全然違う。今までできなかった、やりたかったけどできなかったことを顧客と一緒にプロジェクトを進めながら実現してきた自負がある。新しい顧客と出会って、1個1個作っていきたい。

■ビッグデータいらず
―ビッグデータを使わないAIのメリットは
元々、機械学習やディープラーニングなどをやっていた。皆はセンサーから時系列で何かしらのデータを集めている。多くの会社で“ビッグデータ集めるの大好き”な時代があったので、会社のなかにひたすらデータが溜まっていた。

一般的にAI企業は、データをモデルに入れて機械学習して、分類・回帰する。それが画像なのか文字なのか、音声なのか数値なのかという違いはあるものの、我々からすると、ただのデータだ。そういうものをモデルに入れていく。

我々もビッグデータをたくさん扱ったが、凄く偏りがある。分布では、ある特定のところに、ただ偏ったひたすら同じようなデータが出てくる。そうなってしまうと、過去に起こっていないことは、そのなかには当然生じない。そういうことを再現できない。

過去に大量に起こった同じような状況から、何かを回帰あるいは認識するのが、機械学習だ。そうなると過去に人がやらなかったことはデータとして生まれてこない。人がやっている範囲の特定の限定の事象だけが、ただデータとして貯まっている。これがビッグデータの良いところでもあるが、課題があるところだ。

インフラのオペレーションを再現して最適化しようとすると、過去のビッグデータだけでは不十分だ。例えば、海上輸送で、「ある拠点を3ヵ所潰したときにどうなるか」という課題に対し、ビッグデータだけでは、その拠点を潰した実績がないため、潰していないことが前提のデータしか出てこない。仮に、「拠点を5ヵ所増やしたらどうなりますか」では、もう本当にデータがない。データがないとモデルが作れないので、「何もできません」ということになる。

電力会社の例では、発電所を新設する、潰すという時にデータがない。そうすると、「何ヵ所も潰した時のデータはあるのか」というと、ない。新しい燃料効率に変わったとか、新制度に変わった時にどうしたら良いかとなると、これまたデータがない。ビッグデータは非常に良い側面もあるが、新しい事象が発生した時に、突然弱くなるのが大きな課題だ。

インフラの計画を、「ビッグデータがないと立てられない」という話になると、オペレーションが絶対に回らない。我々は数式で全て再現してデータを作り出す。

■発電事業者に少しずつ
―電力会社の提供先を確認したい。
ロゴの利用が承諾された会社を開示している。

―大手電力ではどれぐらい入っているのか
何社中何社という言い方は難しい。ほぼ全部の電力会社が当社を認識しており、具体的な話をしている会社も、そうでない会社もある。今は需給の部門を中心に需給計画を立案しているが、TSO(送電管理・系統運用者)の部門でも同じような計画を立てているという話も聞く。

新電力でもこういう計画に一部取り組む会社もあるだろう。旧一般電気事業者(自社エリアで電気の供給が独占的に認められていた電力会社)でなくとも発電所を大量に持つ事業者に少しずつ広げていこうと進めている。

―計画立案は、電力需給計画の燃料調達計画が今のところメインか
細かい話をすると、需給のなかにも、当日、翌日という断面と、週間の断面、年間の燃料も含めた年間の計画がある。それぞれやることが異なり、そこに対するエンジンをそれぞれ持っている。システムも分かれている。

―メンテナンス計画や火力+連接水系最適化はこれからか
火力+連接水系は取り組んでいる。

―どういうイメージの計画か
例えば、火力発電所だけの運転計画だけでは、電力会社の火力ユニットだけの計画になる。ただ、電力会社は水力系を持っていて、水力と火力を同時に解くのは難易度が高い。そのような取り組みもしている。

―既に提供しているのか
今、一緒に取り組んでいる。

―どこの電力会社か
北海道電力だ。

■“フィット&ギャップ”
―特定産業向けのインダストリークラウドである「ReNom APPS」の導入イメージについて。SaaSなので、最初からコンサルティングをしていくよりは手離れが良いイメージだが、投入する際の人的リソースはどのようなものになるのか
世にあるバーティカルクラウドのように、「ログインしてスタートしてください」というものではない。アプリケーションとエンジン、インフラが共通化されている。

取り組んでみて「そういうことなんだ」と気がついたことがある。例えば、何かの輸送計画を立てようとした時に、いろいろな会社と話していると、計画は「こういう風に立てて、こういう情報を見て、こういうものを比較しながら、その是非を判断したいのだな」ということを抽象化していくと、ほとんど同じようなことを言ったりする。電力会社向けのシステムも同じで、発電の計画を評価しようとすると、「大体こういうふうに見たいんだな」というものが共通になっている。

業務アプリケーションで、可視化画面も含めて標準的なフォーマットで基本的なものをすぐに使えるものを作っている。中のエンジンもフォーマットがあるので、そこに入力データを入れると計画が出力されてくる。インフラも、クラウド環境で共通のものがあり、基盤は出来上がっているが、顧客ごとに微妙にビジネスルールが変わり、持っているユニットやアセットが違うので、微調整して使う。

最初からフルで作るよりは、“フィット&ギャップ”という言い方をするが、違うところを調整しながらカスタマイズして導入してもらう。数ヵ月ぐらいの短めのプロジェクトで調整していくことを前提にしたプロダクトだ。

■人材には困らない
―人材のリソースについて。投資家は人材確保を気にしているようだが、社会インフラに従事している人の流動性を含め、どう確保していくのか
“ザ・データサイエンティスト”のような人たちは数に限りがあり、人材市場での獲得競争が激しい。我々が求めているエンジニア像は、情報工学出身のエンジニアよりは、機械工学や物理を大学で学び、社会のなかで、実際にメーカーで働いている人たちが我々のカルチャーにも合う。そういうエンジニアが多い。採用面では、比較的堅調に、困らずに良い人材が集まっている。

こういうことをしている会社がなかなかないのもあり、大手の会社で発電所やタービンを作っていたという人たちが来る。新しいデータを使って世のなかに貢献したい若いエンジニアも多い。データが好きというよりは社会に役立つことが好きだという人が多く、会社の考え方とも非常に合う。上場で少なからず認知度も上がるので、より良い人材と一緒に会社を成長させたい。直近は、比較的堅調に推移している。

―中途採用がメインか
90%以上が中途で、大学の研究室と一緒にいろいろなことをして、推薦を受けて新卒の人が「年間1~2人入って来るかも」という感じで、ほとんどは社会経験を積んだ人が入社する。

―2023年6月期にエンジニアの採用を加速するとのことだが、アクセルを踏む状況は続くのか。一段落するのか
従業員80~90人で、会社を成長させていくつもりなので、数は比較的着実に伸ばしていきたい。ここで打ち止めではなく、直近にも新しくメンバーが加わっているので、仲間を少しずつ増やしていく。

とはいえ、数の増加イコール売り上げの増加というビジネスにはしたくない。効率化や標準化、内部の原価を低減する仕組みで、労働力イコール売り上げということにならないように、R&Dと製品開発をする。人材の増加と売り上げ増がパラレルにならないようにしたい。

■内航船も外航船も
―ReNom APPSのうち、VESSEL(配船)の現在の受注状況と今後の展望は
出光興産の利用に始まり、直近ではセメント会社各社や化学メーカーなど、船を使う会社による利用が増えている。内航船のみならず外航船にも取り組み始めている。日本近海の内航船だけでなく、グローバルで配船や輸送の計画を立てていくことも検討している。

今までは、一部の閉ざされた日本近海の輸送計画だったが、今後は外航船も含めて取り組もうという話になっている。グローバルで使えるもので、細かい機能拡張がどんどん進む。単純に配船計画を立てるだけでなく、船の位置情報を確認するなどいろいろな機能を付帯させながら、輸送計画のオペレーションに関わる人が使いやすいシステムに育てていく。

―ReNom APPS VESSELに関する海運会社向けのアップセルとクロスセルのイメージは
海運会社は、単純に内航船と外航船に大きく括れる。載せる物が違う。液体系の荷物を載せるのと、硬い物、コンテナ線で動かすものと、載せる物の種類によってオペレーション上の制約が変わる。

一括りに外航船と言っても、載せている物が全然違うと守らなければならないルールが変わる。特化していくと細かい違いがどんどん出てくる。内航船も、ドライバルクなどいろいろなものがあり、物が変わるとオペレーションが変わるので、個別に特化していく。

■裾野が広がる
―今後の経営計画を
直近は、売り上げと利益率を上げていき、しっかりと営業利益を稼ぎ出していく。売上高に関しては、30%を維持しながら上げていく。それ以上に利益率と利益額を上げていくことも重要だ。赤字で売り上げだけを上げて「いつか返ってきます」という経営スタイルよりは、売り上げと利益を着実に伸ばす経営をしたい。我々のビジネスモデルが、社会インフラの計画を支援するので、短期的な収益を追い求めるよりは、着実に成長していく舵取りをしたい。

―成長を維持するために今後注力する分野について、3つの分野を先ほど挙げたが、どういうところを強化するのか
3領域それぞれ別の成長可能性がある。今、物流サプライチェーンの領域が比較的多い。海上輸送や陸上輸送、生産計画で、関わる産業の人たちの数が多いのでニーズが多く、致し方ない。

電力エネルギー領域に関しても、電力会社各社からの仕事が増えているし、取引する顧客の数も増えている。このマーケットも社会インフラど真ん中なので、別の意味での成長の機会と捉えている。

スマートシティの領域は、分散電源制御や新しいまち作りが、今後活性化していくマーケットと見ているので、成長市場だろう。

それぞれの領域で成長の仕方が変わってくると想定する。どこかに偏るよりは、それぞれの領域で求められている成長の規模やステージがあり、バランス良くマネジメントしながら、せっかく3つの機会があるので、それぞれの良さを生かしながら成長したい。

―単一セグメントだが、それ以外に事業の柱はあるのか。(昨今のAIを巡る規制に関して)ビッグデータではないAIでは、どういう規制がかかってくると、単一セグメントでないことが必要になってくるのか
規制の面でセグメントを増やすよりは、より前向きに、チャレンジして新しい領域が出て、そこで事業収益が確立していくと別セグメントになっていく。

短期的には、AIを開発するための今のセグメントを伸ばしていくが、インフラの計画業務に関わっているので、事業機会はかなり広い。エネルギーに関わる仕事もやっているので、エネルギーを使った新しいチャレンジや、最近はスマートシティの領域で分散電源制御のようなことも計画業務として手掛けている。適用領域の裾野が広がる。

まず、計画を立てることに特化するが、その周辺で新しいビジネスチャンスがあれば、上場したので、新しいチャレンジをしたい。そこで事業収益がしっかり出てくれば、別セグメントとして開示しながら取り組む。直近は計画を立てることに集中しながら、事業を成長させていきたい。

―3分野か
そうだ。

■海外はプロダクトで
―海外の競合の認識は。そもそも存在するのか
我々はいろいろな分野に携わっていて、いないともいるとも言えない状況にある。電力分野では、欧州で計画最適化の取り組みをしている会社もある。一方で、アジアに目を向けるとほとんどいない。

海外を見据えて、例えば、海上輸送では、海外で同じような取り組みをするベンダーは非常に少ないし、我々は今スマートシティの領域で仕事をしている。そういうところでは、また一気にいなくなる。手掛ける計画分野によって海外の景色が全然違うという感触を得ている。

エリアによっても考え方が違う。我々の強みを生かせて、かつ求められている地域をうまくリサーチしながら、どの分野にはどのソリューションを持っていくか検討しなければならない。

一方で、プロジェクトベースで進めるのはなかなか難しいので、海外に出る時には、ReNom APPSを基に展開していくのが非常に効率的ではないか。プロダクトをベースに外に出ていくことが、海外展開の在り方だろう。

―海外展開についてもう少し聞きたい
まずは国内でしっかりと実績を出すことに集中していた。海外に出る時には。「プロジェクトベースでこんにちは」みたいなことはなかなか通じないと想定している。何らかの製品がないと話が始まらないだろうと、ReNom APPSというプロダクトを作ることを直近ではやっていた。

一部のプロダクト、一部の産業領域の計画に関してはでき始めている。ここから海外に出る良いタイミングと見ている。一部、顧客との話は、ある特定の産業領域で部分的に始まっている。海外のインフラの会社になると意思決定もすごく長いという特徴もあるので、「今日の明日で行きましょう」みたいな話にはならない。何年か後に実績を示せるタイミングが来るだろうが、話自体は、部分的に始まっている領域も出ている。

―直近では海外展開はないとのことだが、大手総合商社3社が株主にいる。構想は
海外から直接問い合わせがある。社員のエンジニアは出身地が10カ国以上で、世界中の大陸の人たちがいて、どこかの大陸には必ず誰かがいる。いろいろな国から集まっていて、海外に出やすいカルチャーではある。エンジニアは英語を普通に使い、開発の時に日本語や英語が混ざる環境なので、海外に出るアレルギーは全くない。

総合商社の支援を受けながら今日を迎えたが、良い関係を構築できている。彼らと一緒に世界に紹介していくことも比較的やりやすい。総合商社は、どこかの国の地元の財閥を含めて一緒に事業をする関係が世界中にある。

我々が行きたい国やチャレンジしたい国があると、簡単に紹介してもらえて一緒に事業を作る話もしやすい環境にある。株主との協業に関しても、上場してステージが変わるので、話し合いながらチャレンジしたい。

―今の株主構成では想定し難いが、上場に当たって買収されるリスクの認識は。将来的な買収防衛策はどうか
今の持ち株比率では、買収リスクは非常に限定的だろう。大きな買収防衛策などをを直近に急いで導入しなければならないとは全く考えていない。

企業価値をしっかりと上げていき、会社の成長にフォーカスしたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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