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上場会見:AeroEdge<7409>の森西社長と今西CFO、切削も積層造形も

4日、AeroEdgeが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格の1690円の2.3倍となる3890円の買い気配で引けた。次世代航空機エンジン「LEAP」の部品である低圧タービンに用いるチタンアルミ製ブレードを製造する。LEAPは、仏エアバスと米ボーイングの中小型航空機に採用されている。低圧タービンは、エンジンのファンを回転させる部品の1つ。航空機エンジン大手の仏サフランと2015年に契約し、栃木県足利市の菊地歯車から独立して設立。森西淳社長と今西貴士CFOが東京証券取引所で上場会見を行った。

技術営業の立場から成長産業を眺めて航空産業に商機を見いだし、事業を開拓してきたと話す森西社長
技術営業の立場から成長産業を眺めて航空産業に商機を見いだし、事業を開拓してきたと話す森西社長

―初値が付かなかったことの受け止めは
高い評価を得て率直に嬉しいし、非常に感謝している。一方で、会社のトップとして、また会社として、株価で一喜一憂せずに我々がやるべきことを今後もブレずにやっていき、その結果として投資家や世のなかに、配当や還元ができていくのだろう。しっかりと地に足をつけて活動していきたい。

―6月から東証グロースの指数が上がっていて、この時期の上場が良かったとかそのようなものはあるか
私個人としては良かった。

今西CFO:成長するための新しい案件に投資するために上場した。このビジネスの進捗のなかで、このタイミングでの上場がもうまさに一番良いタイミングだった。

―このタイミングで上場した経緯は
森西社長:ビジネスの成長、またそこに合わせて上場する。それは非常に重要で、まさに今日はそのタイミングだったと感じている。その一方で、このコロナ禍がなければ、ひょっとするともっと早く上場できた可能性はゼロではない。ただ、そういったところも含めて、コロナ禍という期間を徹底的に社内の改善に充てることができた。

負け惜しみではなく、コロナ禍でのリセットが会社のものづくりの体質をより強くしてくれた。そのような部分も含めると、コロナ禍を経験した今だからこそ非常に良い環境で、良い状況で上場ができた。成長のタイミングも合わせて今がベストだった。

―調達額はいくらか
今西CFO:オーバーアロットメントもあり最終的な額は確定ではないが、最終的に7億円強だ。

―調達資金の使途は。新工場に大半を使うのか
工場と設備の投資に充てる予定だ。

―調達資金で建設する工場は、有価証券報告書に記載されていた本社第2工場か
そうだ。

―新工場の設備内容やコンセプトは
森西社長:顧客の製品なので、話せることは少ないが、産業では航空宇宙分野になる。本社工場も今日の時点で最新工場だと自負しているが、今後成長し、また今日のニーズに応えるためには、今日よりもセキュリティを向上させていかなければならない。ハードやソフト、建物や中のシステム、場合によっては装置も全てセキュリティを今よりも強化していく。

今の工場もそのまま停滞させるのではなく、同じように刷新していく。新工場のコンセプトは、高精度加工で温度管理などが重要とよく言われるが、どちらかというとセキュリティ管理がポイントだと見ている。

財務面のトピックに関する質疑に答える今西CFO
財務面のトピックに関する質疑に答える今西CFO

―有価証券報告書には、新工場の建設時期が2024年6月で、投資予定金額が約18億円との記載があった。予定は現時点でどうなっているのか
今西CFO:現時点では記載している通りの進捗をしており、もし修正があれば適宜開示したい。

―上場の目的に関して、高校生の採用に向けて信用力を補完していきたいとのことだが、人材戦略も含めて聞きたい
そこにフォーカスして答えると、上場の目的の大きな理由の1つとして人材獲得がある。栃木県足利市というある種のローカル(な場所)で活動しているが、日本全国のみならず世界からも優秀な人材を獲得したい。高校生に関して、我々はAeroEdgeを若い人の働く場所としたい。企業は人を育てる場所だと考えている。そういった所では、高校生の親に安心してもらい、就職を後押ししてもらえる基盤が必要で、今回の上場が親も含めて家族の安心材料になるだろう。

―新工場への投資への資金調達が1つ大きな目的としてあって、それと並ぶ感じで人材育成も目的としているのか
上場の目的は大きく3つで、製造業なので設備も含めて投資をしていく。そのための資金の獲得だ。2つ目は、人材を獲得していく。3つ目は、我々はグローバルで大手メーカーと取り引きしているので、信用力や与信力の向上。この3つが我々の上場する大きな目的となる。

―チタンアルミブレードをAeroEdgeと海外の会社の2社で作っており、AeroEdgeのシェアが35%だ。今後は数字をどの程度引き上げたいのか
多ければ良い、少なければ良いということではなく、ベストなバランスが重要だ。我々は1つのトピックとして、コロナ禍でドラスティックな改善ができたことで原価の低減とキャパシティの拡大、簡単に言うと製造の効率化ができた。

今日準備した設備で、今日以上のシェアに対応していけるので、投資を伴わないのであるならば、シェアを拡大していくことがベストだ。LEAPというビジネスにこれ以上の投資をせずにマーケットのシェアを上げていけるところまではしっかりと上げていきたい。

―投資家から見ると、現状では単独の商材を扱うことに多少不安があるようだ。今後はいろいろな製品を作っていくとのことだが、改めて意気込みを
今の1社依存や航空宇宙への偏りを、当然リスクと見ている。一方で、航空宇宙という非常に要求が厳しい分野で、世界でチャレンジできているので、その強みをあえて薄める必要はないと思っている。

航空宇宙はこの後も成長分野であることは間違いない。そのプログラムのなかではLEAPエンジンが非常に魅力的なので、そこはしっかりと基礎として拡大していく。また、同じ分野ではあるが、LEAP以外のジェットエンジンの、非常に難易度の高い部品を新工場で手がけていく予定だ。

空飛ぶ自動車も、飛行機ほど確実な将来の絵姿は、まだ見えない。だが、必ずそれが実用される社会が来ると期待している。そちらへの進出だ。空飛ぶ自動車という言われ方をしているが、飛行機産業で培ってきたノウハウがシステムも含めて非常に重要視されている。作る物は違ったとしても、経験は大きく活かせる。

技術転用の部分では、ガスタービンというエネルギー関係だ。非常に重要で、その量産は今の社会環境の改善も含めながら取り組むテーマだ。

空を飛ぶジェットエンジンと地上で発電するガスタービンで形は似ている部分もある。技術の応用が可能だと想定している。そのほかに、DXやGXといったものを交えながら、新しいビジネスを拡大していきたい。

―成長戦略の新材料の開発で、今後エンジン周辺の高温部位やセラミックの複合材であったり、どういった方向性で開発を進めているのか
今日我々が持っているビジネスは、チタンアルミのブレードだが、行っているのはチタンアルミの材料開発と内製化だ。ホームページなどでも発表しているが、チタンアルミの航空市場でのプレーヤーはそれほど多くない。加工も同様だ。我々は材料メーカーになるつもりはなくて、出口を持っているビジネス、そのさらなる上流でチタンアルミを開発している。

地政学的にも、なかなか難しい表現になってしまうが、今日のロシア・ウクライナ情勢からも、この国で作れる材料であるならば、国産化することに非常にメリットもあり、純チタンスポンジなどでは、航空機産業は、国内のメーカーが非常に強みを持っている。材料物質研究所と協力してもらいながら、開発をしている最中だ。

―チタンアルミの加工はかなり難しいとのことだが、加工技術を確立すれば、ほかの材料の加工は容易なのか。それとも、R&Dに相応の費用や時間がかかるのか
世のなかには難削材と呼ばれる加工の難しいものがたくさんある。チタンアルミができるからほかも容易ということはない。どうやってそのような技術を蓄積して自分たちのものにしていくかと言うと、ウルトラCはなくてトライアンドエラーしかない。

そういったトライアンドエラーのなかでも、我々の強みは、工具の開発や加工のプログラミングといったものを全部内製で行っている。そうして、今後もチタンアルミのみならず、さまざまな難しい加工にチャレンジしたいし、トライアンドエラーをR&Dと称するならば、まさにその通りだ。

―いろいろな取り組みで製造DXを実現してきたが、積層造形に関してはどうしているのか
積層造形も新しい技術なので、難しさというか課題がたくさんある。今はパウダーベッド方式という粉を敷き詰めて電子ビームで焼き固めていく積層技術と、粉を溶かしながら吹き付けていくダイレクトデポジション、その方式の2種類の造形をやっている。前者のものは加工が難しく、かつ新造品、新しい製品を作り上げていくのには非常に向いている。後者はどちらかというと修理事業のようなものに向いている。

新しくデザインも含めて作るビジネスと、補修をしていくビジネスを並列で開発している。それらを融合させて、各方面の市場参入を検討している。

―積層造形と既存の切削加工技術のシナジーはどうなるのか
積層が進化すればするほど、切削技術をなくしていってしまう。カニバリゼーションを起こしてしまうわけだが、その融合はなくはない。造形で完成品まで作り上げられない場合、そこに追加工という形で切削を応用していくので、十分にできる範囲だと見ている。

ただ、とても大事なことは、切削を生業としている我々が、いつか来るであろう新しい技術・イノベーションに怯えて心配していても仕方がない。自ら造形の3Dプリンターの分野に踏み出してR&Dを常に双方で取り組む。どちらがその製品や市場に対して優位性があるかを社内検証しながら進めている。その結果、技術の融合や確立が実現できると考えている。

―2023年6月期までの業績を開示しているが、もう少し中長期的な目標を教えてほしい
今西CFO:現状、2023年6月期の予想だけ出している。2024年6月期は、8月中旬頃に決算予想の開示をしたい。中長期的なところは、投資家の皆さんも含めて、社内でもいろいろ検討したうえで、将来的には開示を検討していきたいが、現時点では開示を見込んでいない。

森西社長:上場企業になったので、スタンスとしては、IRや情報開示を、適時開示も含めて丁寧に進めていきたい。今西CFOとしっかり連携しながら、より透明性を持って経営していきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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