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上場会見:アップコン<5075>の松藤社長、床を支え電柱を折れにくく

2022年12月26日、アップコンが名証ネクストに上場した。初値は公開価格の1200円を21.87.%下回る1000円を付け、860円で引けた。住宅や工場、倉庫、店舗などの建物で、地盤沈下を原因として生じたコンクリート床の沈下や傾き、段差、空隙を、完全ノンフロンのウレタン樹脂と小型機械を用いた独自の「アップコン工法」で修正する。松藤展和社長に上場や今後の展開などに関して、1月12日に聞いた。

宇宙開発への応用の可能性に関する質問に対しては「話があれば協力したい」と答える松藤社長。ウレタンは元々断熱材なので月面上の昼夜の寒暖差に対応できるのではないかと話した。新しい材料であることから多様な性質のウレタンを作ることができ、沈下修正のみならず、いろいろな展開があり得るという。
宇宙開発への応用の可能性に関する質問に対しては「話があれば協力したい」と答える松藤社長。ウレタンは元々断熱材なので月面上の昼夜の寒暖差に対応できるのではないかと話した。新しい材料であることから多様な性質のウレタンを作ることができ、沈下修正のみならず、いろいろな展開があり得るという。

―昨年の12月26日に上場し、年も明けたが心境は
年末に上場し、すぐに正月休みに入ってしまい、当社は1月4日からスタートしたが、全員が揃い日常が戻ってきたのは今週からだ。ただ、昨年に引き続き、顧客からの問い合わせは増えたままの状態が続いており、営業の人間も飛び回っている。

当社は1月末が期末で、2月から期首という境目のところで、施工がほぼ埋まっている状態なので、良い期末、来期21期の良いスタートが切れている。

―事業の概要は
工場や倉庫、店舗、住宅、あるいは公共の道路や港湾、空港、学校などの床の沈下修正を、特殊な硬質発泡ウレタン樹脂の発泡圧力を使ってフラットに戻す単一セグメントの事業を行っている。また、ウレタンを使った新工法の研究開発も同時に進めている。

―そもそも、日本の地盤はそんなに沈んでいるのか
日本だけでなく、世界中(の地盤が)下がっているが、その沈下に気がつくのか、あるいは問題視するのかという点で、国や個人によって違いが出てくる。

例えば、東日本大震災が(発生して)今年で12年になるが、千葉県の浦安市では液状化現象で家が傾いた。皆大騒ぎしたが、家が傾くということは、家が建った時から日本全国でたくさんある。地震では一気に傾くので、昨日の真っ直ぐな家と今日の斜めの家が違うというのが分かる。例えば、水田の近くに建っている住宅では、軟弱地盤で圧密沈下がじわじわと起こり、10年ぐらい経ったら、「何か傾いているよね」と気がつく。毎日だと気がつかない。

傾いている家は、それなりにたくさんある。住宅に限らず工場や倉庫、店舗、道路も含めて、それを問題視するか否かがスタートとなる。我々は直すことはできるが、それが問題視されなければ、我々の仕事もない。啓蒙活動から始めて、施工を行うことが重要になってくる。

―今回の上場の目的としては、1つには、沈下によって傾いているという問題を世のなかにアピールするものもあるのか
いくつかあるが、社会的認知度を高めることが1番の目的となる。TOKYO PRO Marketに2021年7月に上場したことによって、それなりに認知度が高まってきた。上場による認知度の高まりを実感したからこそ、もう1つステップアップしようと昨年12月に名証のネクスト市場に上場した。

―株式の流動性が足りないと見られているが
名証ということ自体で流動化(に課題)があることは分かっていた。元々、目指していたところは東証マザーズだった。そこが難しいことからジャスダックに変更した。準備をしていた時に市場再編があり、ギリギリのところで流動比率の点で難しかったので、ステップアップしながら(進める)方向に変えて、TOKYO PRO Market、名証ネクストと来た。

さらに市場をアップしていこうと思っているので、現在ネクスト市場で流動性が低いのは百も承知で、株主には申し訳ないが、逆に持っていて良かったと言われるような会社にしていきたい。

―投資家の見方として、参入障壁を評価する一方で、営業力に課題があること、原料価格の高騰が気になるという意見もあったが
一見簡単そうに見えるが、トレーニングに時間がかかることで、参入障壁自体がメリットでもありデメリットでもある。当社としてはメリットを享受しながら、社内では、5年かかる(トレーニング期間)をもう少し短縮できないか日々改善していこうと考えている。

営業力に関して、現在は(営業人員が)飛び回ってるということは、人が少ないというのもある。ただ、特殊なサービスを展開しているので、カタログに載っているものを、そのまま見せて売れるビジネスではないので、営業人員は、技術部と同じような形で最初にトレーニングをしなければならない。営業に関しても長期的スタンスで考えて、現在2人が技術部でトレーニングを受けている。

まず、営業のトレーニングではなくて、自分たちが行う施工を自ら習得する。予定では来年の2月に技術部から2人が営業に配属される予定で、その条件のもとで彼らは入社している。2024年採用の新卒に関しても技術部だけではなく、同じような条件で営業の人間を採用しながら、徐々に増やしていく。マンパワーを計画的に充実させる。経営企画部があるので、そこでターゲットを絞りながら、広報活動の新たな施策を打って、両輪で営業・販売力を高めていきたい。

材料の高騰については、昨年に値上げが材料メーカーから2回あった。1回目はウレタンショックと言われて、米国の工場が全焼してしまった。ウレタンはいろいろな化学物質が集まってできる材料だが、そのうちで重要なものを、世界でほぼ独占してる会社が米国にあり、そこが火事で燃えてしまった。我々だけでなく世界中のウレタンを使っているメーカーがみんなダメージを受けた。当社はメーカーからまだ守られていたが、大口の顧客は、受注制限を受け、材料がないから施工できないというようなゼネコンもあったようだ。

それから、昨年の後半に円安になって、(ウレタンの原料は)元は石油製品であるため、その影響を受けたことで材料費が上がった。ただ、20期にはメーカーから我々が購入する材料費は上がったが、内部で吸収しているので、顧客には今のところ影響はない。その分、利益を若干減らしている。今回、一般市場に上場して株主もいるので、その点も鑑みながら、いずれかのタイミングで値上げをすることは考えてはいる。値上げをして売り上げが減るというのは非常にリスクもあるので、タイミングや方法を模索している。

―いずれかのタイミングで価格転嫁の可能性があるのか
諸物価も上がり、国が人件費も物価以上に上げようという方針もあるので、我々も人件費を上げていくことは社員にとってもちろん良いことなので、バランスをしっかりと考えて将来に向けて取り組みたい。

―マーケットの動向をどう見ているのか
業界というまとまったものはない。我々は市場を民間と公共で分けていて、民間の1つの住宅(戸建て)という分野では、他工法と比べて、当社のアップコン工法が工期・工費ともに競争力が非常に高い。年間3億円ぐらいの市場が毎年生まれてくる割には、(当社は)そのシェアを1割も取っていない。まず3分の1である1億円(のシェア獲得)を近々に目指したい。

マーケット自体は大きい。例えば、工場や倉庫、店舗では、既存のコンクリート打ち替え工法が主に採用されている。まずは、アップコン工法の1番の特徴である「業務を止めなくても施工ができる」ことを、ネクスト市場上場をきっかけに認知度を高めて、地盤が下がっているが何もしていない顧客(の意志)を一歩押していける形でのマーケティングを展開していきたい。

公共工事に関しては、国が国土強靱化政策を打ち出しており、その流れには乗っていると見ている。国は、コンクリートでできたものはコンクリートで直していくのが大原則であるというか、それ以外を考えていないところに、営業活動を通じてウレタンでも直せることを示して、少しでも切り崩していきたい。

―例えば、倉庫の分野では、施工することで、減価償却後にさらに長く使えることを訴求するような方法もあるのか
倉庫業の人は、テナントがいて物の出し入れなどで利益を上げている。例えば、倉庫を30年ごとに建て替えてたら利益が飛んでしまう。倉庫業の経営者から聞いた話では、1つの倉庫をいかに長く使い続けるか、最短でも80年もたせるという。コンクリートの表面がボコボコになっていても使い続けていく。

スクラップアンドビルドの時代から、今は、良いものは作るが、それをいかに長く使い続けていくか(が重視される)。国も、例えばコンクリートの建物は、「設計で50年ですよ」と言っていたが、50年経った建物に対して、「いや、これ60~70年持ちますね」というお墨付きを与え出した。新しいものに作り変えることは非常に難しい。

道路やトンネルも皆同じだと思う。今、新東名高速道路を作っているが、ほかではなかなかできないのではないか。例えば、新東北自動車道をこれから作るのは、需要と供給で、日本の人口は減少するのも見えている段階ではなかなか難しい。やはり今あるものをいかに維持・延命しながら長く使い続けていくかという時代には、アップコンの工法はマッチしているので、認知度をもっと高めて広めていきたい。

―事業の展開エリアは
基本は、日本がメインで、これまでの約20年の実績で、強みとしているのが北海道や東北、関東、新潟県、静岡県。九州も強い。既存のコンクリート打ち替え工法と比べて認知度が高まっているために、「打ち換えよりもアップコンでやったほうが業務を止めなくていいよね」という顧客が非常に多い。ところが、静岡県を除く中部や関西地区では「そんな工法あったの?」と言われるので、知名度を拡大していきたい。今後しばらくは、中部・関西地域に力を入れていきたい。

海外では、ベトナムのハノイにあるLac Vietという建設会社と技術提携をした途端にコロナ禍が始まって3年間丸々動いていなかったものが、ようやく今年から動き始める。4~5月ぐらいに施工を始めたいが、動き始めたことによって、別の顧客からもベトナムでいくつか話が来ている。我々が直接施工するわけではなく、Lac Vietが施工して我々は技術支援と材料供給を行う。今はベトナムの北半分だけだが、3月には当社の取締役が南のホーチミンのほうまで赴き、リサーチをしながらもう少し広げていく。一気に手を出すのではなく、ベトナムを中心として東南アジアをまずは広げていきたい。

ウレタンを使った工法は、1970年代にヨーロッパのフィンランドで発明された工法だが、それを私が習得して改良し、精度を高めた。海外では1センチメートル単位の精度で直すが、アップコンは1ミリメートル単位の精度で直す。高精度を要求するのは、先進国の半導体工場など、精密機械を使う・作る工場ほど、「10ミリ下がったからゼロに戻してほしい」となる。東南アジアでは、「100ミリ下がっているから50ミリでいいよ」という違いが今はある。一気に進める力はまだついていないので、ステップアップしながら広めていきたい。

―半導体工場などでの需要は、かなりのものを見込めるのか
既にいろいろなところで取り組んでいるが、ちょうど1月の3~4日と九州のほうで半導体の工場へ調査に行き、ゴールデンウィークの頃に施工をしようという案件があり、日本では実績がたくさんある。海外でもそういうところがあれば、当面は出かけていく形になる。

―今後の取り組みや成長目標について
上場を期に知名度を上げつつ、広報宣伝活動を行いながら売り上げを拡大していく。もう1つは研究開発だ。すぐにというものは今の段階ではないが、数年以内に市場に出ていくだろうというものがいくつかある。それらをこの1~2年かけてより現実化して新しい市場を作って売り上げを増やしていきたい。

―研究開発活動では5つの領域があるが、そのなかで特にアピールしたいものは
マーケットが大きいのは電柱プロジェクトだと思う。既存の電信柱は台風や地震で倒れてしまう。例えば、福島県で昨年3月に起きた地震で、新白河駅の近くで、電柱が何十本も折れ曲がって新幹線が通れなくなった。そのような既存の柱の強度をウレタンで高め、折れにくく、倒れにくく、曲がりにくくする。

国の政策に無電柱化があるが、全国の電信柱を無電柱化するのは、経済的にも時間的にも実質的に不可能だ。我々も全部をやるつもりはない。ウレタンで強度をアップして倒れない電柱を作ることで、地震が起こっても緊急車両が通れる道路を作っていきたい。実験はほぼ終わっている。この1年は、販路拡大のスタートで、どこにどうするというものは出ていないが、自分たちでするのも非常に難しい。販路拡大でパートナー的な会社が現れれば早いと思っている。

―鉄塔のような通信用設備への応用もできるのか
鉄塔も、中が錆びる。錆びないように鉛の入ったペイントで防蝕している。鉛はあまり良くないので、鉄塔の空間にウレタンで何かできないかとペイント系のメーカーと実験したことはある。ただ、それがどこまでビジネスになるのか、需要の見込みとか、その辺りの検討で止まっている。

―水面下では、いろいろなことを様々なプレーヤーと試しているのか
今までは、我々から「ウレタンでこんなのできますよ」とアプローチするほうが多かったが、最近はウレタンで何かするのではないかということが知られてきており、ほかの会社から「ウレタンでこんなのできませんか」という依頼が増えている。

―SDGsの銘柄としての側面もあり、ウレタンの耐用年数はかなり長く、そのようなケースはまだ出ていないと思うが、撤去する場合にはどのような流れになるのか
実際に撤去した店舗がある。福島県のいわき市で約2000平方メートルの店舗があり、地主が(賃貸を)継続しないため、店舗も解体して更地にした。我々が、50ミリメートルぐらいの沈下修正をしていた店舗で、コンクリートの下にはウレタンがある。大きな塊は手でも除去でき、取れる部分は集めて産業廃棄物として処分する。ウレタンを1つも残してはいけないが、ウレタン混じりの土や石は分離が大変なので産廃として処分した。都道府県で値段が若干違うが、費用は2000平方メートルで60万円ほどと非常に低廉な金額だった。

現在でも、我々はウレタンを注入する時に、試験的にビニール袋にウレタンを入れてテストをし、また、(研究開発で)実験も行う。その際に出るウレタンは産廃業者で処分しているが、それらは最終的に、川崎市の扇島にある会社で、石炭の代わりに燃料になる。燃やすときに熱も出ていくが、エネルギー的には80%の交換率となる。燃焼後には灰が残り、昔は中部国際空港の埋め立てに使われていた。今は市内の会社が、その灰を集めて幼児教育用の粘土にしている。アップコンで使われているウレタンは、エネルギー的には大気中に20%が逃げていくが、物質的には100%リサイクルされている。

―そういったことを機関投資家は質問してきたか
アピールを全くしていなかったので、今後、例えば、従来工法のコンクリート打ち替え工法に比べるとCO2を90%以上削減していることなど、当社のことをどう知ってもらうのか考えたい。

東証がCO2の売買の市場をこれから作ることもあり、そういったところに当社も入っていけるのではないか。

―株主還元の考え方は
基本的なスタンスは、利益が出た時に配当を行う。還元率を固定することは、今のところできないので、やはり利益額に応じて社内留保するものもあれば、配当で出すものもある。毎年の利益額に応じた配当をしていく。来期の配当については来週以降に役員会で検討したい。利益が出たら配当として株主への還元を継続していくつもりだ。

―IR活動の方針は
オンラインでもリアルでも、特にこの1年は積極的にやろうと思う。自分たちが考えている以上に名証は積極的だ。今までのTOKYO PRO Marketではほとんど売買がなかった。ネクスト市場は日々株価が付いている状態なので、やはり株主に対しては、良かったなと言ってもらえるように、IR活動を続けながら株価も上げて会社を大きくしていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]