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上場会見:note<5243>の加藤CEO、「note」の“街”に賑わいを

21日、noteが東証グロースに上場した。初値は公開価格の340円を53.24%上回る521円を付け、439円で引けた。クリエイターが文章やマンガ、写真、音声、動画などのコンテンツを投稿・販売し、ユーザーはコンテンツを応援・購読できる“街”としてのメディアプラットフォーム「note」の運営を手掛け、メディアのインフラであることを標榜する。企業のオウンドメディアとしての機能も持つ「note pro」も提供。有料契約数は564件、ARR(Annual Recurring Revenue、年間経常収益)は3億4024万円(2022年8月末時点)。加藤貞顕CEOが東京証券取引所で上場会見を行った。

加藤CEO(右)と鹿島CFO(左)。加藤CEOは、ネット上のメディアのボトルネックについて情報の流通・配布やファイナンスにあるとして、それらの課題に対応するCtoCメディアプラットフォームの拡大と、それに連動するBtoBプラットフォームの成長の絵姿を説明した
加藤CEO(右)と鹿島CFO(左)。加藤CEOは、ネット上のメディアのボトルネックについて情報の流通・配布やファイナンスにあるとして、それらの課題に対応するCtoCメディアプラットフォームの拡大と、それに連動するBtoBプラットフォームの成長の絵姿を説明した

―上場の理由は
私は出版の出身だが、出版社には上場している会社もあればそうでない会社もあり、していない会社のほうが多い。メディア企業もそうで、それが一般的な話だろう。我々はメディアというよりは、プラットフォームだ。プラットフォーム上で利用者がメディアを運営している形のサービスと思う。そうであるのでインフラという言葉を使っている。

プラットフォームとして、より広く大きく皆に使ってもらえる場所にすることを考えると、それなりの規模を目指すイメージになる。そういうことをやろうとする場合は、上場という手段が適切だと考えたのは大きい。それは資金調達も、信頼を獲得することも、いろいろ仕組みの整備によって会社を強くすることもそうだ。様々な意味で「note」というプラットフォームを誰もが使うことを目指す場合には、上場が選択肢の1つであると考えた。

―公開価格340円ということで、2022年4月の資金調達(1株当たり2602円)の時から考えると大幅なダウンラウンドでの上場になったと思う。改めてこのタイミングで上場することを決断した背景は
「note」というプロダクトは創作のインフラのようになるサービスと考えており、そもそもかなり長期的な視点で取り組んでいる。直近の市場は確かにそれほど良いタイミングではないという意見もあり、我々としてもそこは議論した。長期的にやる事業であるので、やるべき時にやろうと今回のタイミングで決断した。

―市況が厳しいことは理解しているが、個社要因や投資家の評価の仕方の違いなどは
鹿島幸裕CFO:私の見解としては特に当社固有のものはない。マクロで見たときに社会全般、米国を始めとする金利の動向が株式マーケット、特にグロース株にかなり大きく影響して、当社だけでなく上場グロース株も影響を受けた。株価が昨年と比べて下がっている会社が多いと理解している。

当社もグロース株で、その意味では将来に向けてどんどん成長していく会社だと思っているので、将来の成長や利益の部分が、金利上昇によって、割り引かれている割合が大きくなっていると理解している。

―ダウンラウンドだが、既存の投資家にどう説明し、理解を得られたのか
マーケットの地合が良くない状況で、上場するのが良いかどうかは、社内や投資家との間で議論した。いろいろな意見があったが、最終的には加藤CEOが先ほど話したように、「note」がインフラとなるために、長期的な成長を目指すために今上場するということで納得して応援してもらい上場に送り出してもらえた。既存投資家には非常に感謝している。

―2013年9月に第1回目のストックオプションを発行している。税制適格ストックオプションは付与決議から10年以内に行使しなければならない。行使期限が迫っているがストックオプションの行使期限も上場の決断に影響しているのか
鹿島CFO:技術的には、仮にストックオプションが失効、あるいは失効しそうになった場合には、また再発行できる。ストックオプションが要因となって上場を選択したということはない。

加藤CEO:純粋に長期的な視点で、基本的な話だが、上場後のほうが資金調達のし易さや、様々な取り組みを行うに際してやれることが増えるので、将来のミッション達成を目指した上では、こちらの方がいいだろうと始めた。

―競合になり得るサービスとの関係性を教えてほしい。昨今、Twitterで騒動があり、長文のサービスを作るであるとか、他のサービスを締め出すという話があり、マストドンが締め出された。創作の街である「note」への入り口が閉ざされるのではないか。考えている事や懸念点を聞きたい
Twitterの件は、まさに現在進行形であるので確かな事は言えない。だが、「note」は様々なサービスと連携し、集客してクリエイターやユーザーが使うサービスなので、様々なサービスとの連携が第1ではある。

一方、もう1つ重要なのは、「note」自身の集客力を高めることで、現在そこにも力を入れている。元々は「note」は、例えば、(誰かが)クリエイターをフォローしていて、クリエイターの活動が更新されたら通知が行って、また見に来ることが当然ある。そういう形で来るユーザーが今でも3分の1ほど存在する。あとは、検索とSNS経由の3種類が導線だ。自分自身のところで来てくれるものを強化するのは当然にやるべきことと思う。そこはAIによるレコメンデーションを強化することや、様々な機能を付けることで進めていく。SEOも強化するし、Twitterもその1つのSNSの部分だが、そこは注視していく。

―ブログサービスなどは人気の移り変わりが激しいが、末永く発展していくための差別化戦略は
それはリアルな街で考えもらうと分かりやすい。東京という場所に、(記者の)皆さんのなかに地方からでてきた人も結構いると思う。なぜ来たのかというと、多分出会いやチャンス、仕事があるからではないか。多分それは同じようにニューヨークも人気がある街だと思うし、そこはすごく大事なことだろう。

「note」も、そこにたくさんの人がいて、そこで様々な出会いがあって、仕事が生まれ、別に仕事だけでなく友達ができるでもいい。いろいろな良いことがそれぞれの人に対してあって、賑わっていけば、ほかのサービスと比べた場合に選んでもらえるし、運営としてはそこを目指している。

―ユーザーを増やしていくことがかなり(重要なのか)
ユーザー数はもちろんすごく大事な要素だが、ユーザー数が増えても出会いがなかったら、それはそれで問題だ。街はすごく賑わっているけど、自分1人だけ寂しかったら何か悲しいではないか。そこで友達ができることも、店を出したらそこで物を売れることも大事だ。

人が増えるのと、何らかのマッチングや出会い、良いことがあるのは両方が必要だ。ただ、それだけだと街のなかだけで閉じてしまう。その様子が外に伝わることも大事だし、様々なことで街が盛り上がっていく。

―今年の7月に「メンバーシップ」を開始したが、現在の使用状況や特徴的な事例は
メンバーシップは、元々幅広いクリエイターに使ってもらえるように始めたサービスだ。「note」は、これまでコンテンツを「書く」のが得意な人には非常に使い勝手が良いが、それ以外の人には、それほど使い勝手が良くないところも多少あった。メンバーシップはコミュニティを作れる仕組みなので、様々な人が使えるサービスとして運営している。

どんな事例があるかに関して、後藤達也氏(日経新聞を退職して「note」などで情報を発信している)の話は、最も特徴的な事例だ。本人も発信しているが、有料購読者数が今1万5000人を超えている。個人で報道的なことをすることが可能だと示せた。

鹿島CFO:メンバーシップという機能自体は、後藤氏はテキストを書くクリエイターだが、テキストを書かないクリエイターもたくさん利用している。例えば、相撲部屋が発信に使い、ユーザーからはタニマチ気分でメンバーシップを利用することもできる。アスリートやスポーツ選手、飲食店が使用する事例もある。芸能人による利用も広げていけるのではないか。

―炎上やコンプライアンス上問題のあるコンテンツへの対策を今後強化するのか
加藤CEO:「note」はそもそも炎上しにくい仕組を作ることを大事にしており、そこから始まると考えている。いろいろなガイドラインの整備や、そもそもそういう事が起きない仕組みを作ることを第1にしている。

そのうえで、かなり様々なことをしている。AIによるコンテンツのチェックもしており、人手で確認もしている。通報対応や、プラットフォーム運営を、いかに安定して動くようにして、皆に気持ちよく使ってもらえるか、様々なことに取り組んでいる。

―レコメンド機能について、どのぐらいのセレンディピティを担保できているのか。改善の余地はあるのか
フィルターバブルのようにならないかという趣旨か。

―そうだ
レコメンドエンジンは、やればやるほど似たようなものばかりが出るようになってきて、エコーチャンバーというか、それぞれが分裂していくようなリスクがあると認識している。かといってセレンディピティがあり過ぎたら、別に見たくないものが出るようになる。

なかなかチューニングが難しい。そういった観点でいるので、当然、両方達成できるチャレンジを日々やっている。ただ、これは多分、完成というものはなく、ユーザーの利用状況を見つつ常に更新していくものだと思う。1回で出来上がるようなイメージはあまりなく、むしろユーザーが利用するに従って、例えば、私自身でも今見たいものと来年見たいものは違うと思う。ユーザーの利用に応じて変わっていくような仕組みを作っていくのが大事だと考えている。

―テック人材が人員の半数を占めていて、まだまだ増えていくのかという雰囲気ではあるが、人件費の掛け方については
鹿島CFO:当社の資産はプロダクトを作るエンジニアが中心になるので、これまでは未上場ということもあり、先行投資としてエンジニアやデザイナーを中心とした開発人員を積極的に採用してきた。そのおかげである程度、優秀な人材をこれまでに確保できた。今後については、これまでと同じような増え方ではなく、緩やかになる。コスト的にも規律がある形で推移していくと考えている。

―黒字化の条件や時期は
赤字上場だが、方針としてはトップラインを伸ばしていく。赤字幅を縮小していく予定で、そのような流れで黒字化も早期に実現したい。
加藤CEO:これまで非公開企業だったので、少数の株主に理解してもらい、投資してきた。今後は公開企業になるので、株主や市場と対話しつつ、今、鹿島CFOが話した方針で進めたい。

―今日、ロゴ変更と同時に、独自のフォントもローマ字で出したが、グローバル展開や多言語展開、ネットのサービスでは国内のみならずグローバル展開も課題になるが、中長期はどう考えるのか
フォントの話はロゴ変更と合わせて日本デザインセンターに作ってもらったが、皆に配るというよりは、今新しいNoteProというサービスをやっているが、それ以外にNote○○というサービスを出す時に内部で使う前提のものだ。

グローバル展開は将来的に考えている。メディアやクリエイターを巡るエコシステムがネット上にないという課題は、日本だけのものではない。世界中で全く一緒の課題が存在している。ここに対して我々はまだやるべきことをやっている途中ではあるが、1つの解を出している会社はまだあまりないと思っている。もう少し力を付けたら、当然世界でもやっていくべきことと認識している。

―市場再編があったが、上場準備の段階でマザーズからグロースになったことによる準備に変化はあったのか
鹿島CFO:どちらも新興企業向けの市場であるので、何かかなり大きく変わったということはない。当社としては上場に必要な準備を粛々と進めていった。

―グローバル展開するにあたり、グロースからプライムに市場を変更したいだとか、その際になぜ変更が必要なのかと感じるかを聞きたい
その時々で、会社のステージによって最適な市場があるので、グローバル展開や財務的な戦略、当社が置かれた状況などを勘案して最適な市場を選択していく。

―日本証券業協会がIPOの公開価格の決定プロセスの改善の議論をしている最中だが、今回上場するなかで課題があるのではないかという点があれば教えてほしい
私の立場からは言いにくいところもある。マーケットがかなり低迷し、投資家も保守的な状況に置かれ、環境がかなり激変すると、当社のように上場を目指している会社は、マーケットの急激な影響をダイレクトに受けてしまう。

そこがよく言われるようなIPOディスカウントの問題など、マーケットがかなり冷え込むとディスカウントの割合も大きくなるような気もする。そのような一般的に言われている問題はあるのではないか。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]