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上場会見:スタートライン<477A>、多様社会と業界健全化

22日、スタートラインが東証グロース市場に上場した。公開価格の480円を94.79%上回る935円の初値を付け、1085円で引けた。西村賢治代表が東京証券取引所で上場会見を行った。

障害者雇用の課題解決について説明する西村代表

―初値の受け止めは
期待を背負っていることを改めて確認した。より緊張感を持って今後も期待に応えられるよう頑張りたい。

―どのような企業になっていきたいか、目標などについて
「誰もが自分らしく生きられる社会にする」。そういったことを会社の事業を通して何か貢献したいと思い、スタートした。その思いは今も変わっていない。私としては、1人でも多くの人が、スタートラインという会社を通じて自分らしく生きることができる社会に、アップデートできるよう貢献する会社でありたい。

―今後の出店について具体的には
サテライト型のサービス、特に「BYSN」(コーヒーの焙煎業務を通して障害者の職域開発とスキルアップを支援する)の引き合いが強いこともあり、このサービスを皮切りに東海エリアや九州、北海道、東北などの都市に出店していきたい。現在、新潟県三条市にも1拠点だけ展開しているが、三条市は人口9万6000人程度で、決して大規模な都市ではない。しかし、ここでも約120人の雇用が創出できているので、10万人以上の都市をターゲットにしていく。関東にも多く進出しているが、関西でも梅田や京都の中心だけでなく、郊外や周辺の都市まで幅広く検討している。1つの地域に集中するドミナント戦略と合わせて、複数のサービスを広げていきたい。

―社会的意義のある事業かと思うが、社会的な課題解決と収益のバランスについてどのように考えているか
例えば、福祉の領域で言うと、いわゆる公費を使った事業、税を原資とする領域では、志を持ち専門的な勉強をしてきた人たちが数多く活躍していると思う。そこに対して税が投入されることは、国民のコンセンサスや理解、納得もあり、日本の制度として確立されたものだと理解している。

しかし、私は創業時からその分野ではなく、民間のなかでこの事業を成立させることを目指してきた。例えば、認知の障害がある人への支援や、企業の課題解決といったものは、民間ベースのインフラ的な形で社会実装されるべきだ。税を使わずに、サービスを受ける企業側が、その価値に対して費用を負担する。この仕組みを事業として成立させることができれば、社会課題を解決すると同時に、そのサービス自体に永続性が生まれ、要はサステナブルな社会インフラとして定着していく。これが一番の理想だ。

こうした観点から言えば、収益性が低く、継続できるか不透明なサービスでは、世の中に変革を起こすことはできない。そのため、あえて創業時から民間企業や株式会社としてやることを決め、しっかりと自立し、必要な収益性を確保することを重要視してきた。その収益性は、高ければ高いほど良いというわけではない。稼いだ利益をどう還元して活用していくか、従業員への還元、株主への還元、当然未来に向けた先行投資や会社の蓄え。これらを総合的に判断し、その時の社会情勢を踏まえ我々の実力値を見誤ることなく、適正に推進し、サステナブルな状態を維持していきたい。

―福祉に関連する事業は、国からの公費が収益の一部になっているわけではないのか
セグメントで言えば、売上の約99%は民間企業からのもので、福祉事業は1%弱。公費によるものはほぼ無いに等しい。

―障害者を雇用することで、企業は国から何らかの補助金(助成金)を貰うことはできるのか
様々な助成金がある。そのなかの1つに特定求職者雇用開発助成金という助成金があるが、大中小企業問わず一定の要件を満たせば貰える。これを貰っている会社は一定程度あるだろう。ただ、我々は雇用助成金ありきでサービスの使用を促すような営業は一切していない。貰っている会社はあるかもしれないが、チェックは特にしていない。

―上場の目的について
上場の目的は2つある。これまで事業を成長させていくなかで、ボトルネックになると思われたものがいくつかあった。まず、出店に伴うオペレーションだ。これについては財政基盤が整ったことで問題はなくなった。2つ目は、支援員の採用と育成で、これを体系化する基盤をどう作っていくかも課題としていた。これも現在は一定の解決を見ている。また、顧客ニーズについては、市場が非常に活性化しており、この点は考えなくてよい状態だ。こうしたなかで残っていたボトルネックが、当社の財務体質、資金調達と社会的信用の2点だった。

この業界で上場している企業が2社あるが、専業としている上場企業は、当社が初めて。この2社に対し、これまでは信用の部分で負けていた。それ以外の部分では、我々が優位にあると自負している。今回のIPOを通じて、この財務基盤と社会的信用を確実に手にしたいと考えてきた。これらを解決した今、さらなる飛躍的な成長を遂げることができると認識している。

―全国展開における拠点数の目標や財政目標について
前期までの過去3期、年間に3~5拠点出店してきた。そのうえで、営業利益額が出ているわけだが、2026年3月期について上半期の段階で既に4拠点を展開している。下期には3拠点、具体的に出店が決まっている。計7拠点ということで、アクセルを少しずつ踏み始めている。出店エリアと出店数は、来期は今期以上に伸ばしていけるよう、財政基盤を強化する。

具体的な目標数字は開示していない。だが、グロース市場の新たな基準として、例えば5年で時価総額100億円以上という規定が設けられた。我々としては、当然ここをクリアしていく。株式市場におけるPERの変動要素はあるが、仮に現在の業界水準である10倍~十数倍という評価であったとしても、5年以内にその基準に到達できるだけの成長は狙っていくことを前提としている。

―エスプール<2471>は株価が低迷しているが、先行上場している企業との差別化や、市場の理解をどのように得ていくのか
外から見ると、エスプールは同業者かもしれないが、我々とは思想が異なると認識している。様々な障害の人がおり、1人でも多くの人が活躍できる社会を考えてきた。さらに、当社はより多くの選択肢を作ることを理念に掲げている。

また、10年以上前から認知や精神、発達の障害が増えてきている。文部科学省による小中高生を対象とした調査でも、約8%に発達障害の傾向があるという結果が出ており、その子たちは数年後には社会に出る。今後、認知障害の人たちへの支援の重要性はますます高まっていくだろう。我々はその領域において、長い時間をかけてノウハウを積み重ねてきた。ただ、それゆえに現時点で売上高という点では、単一サービスを展開している他社には負けている。

しかし、これからの時代はより多様な人たちが社会に進出していく。そうした幅広いニーズに応えられるサービスラインアップと、支援ノウハウを有していることこそが、今後の社会で求められると確信している。その時、我々の存在価値はさらに高まっていくと想定する。

加えて、株式市場におけるPERなどで言うと、競合他社は障害者支援の専業ではないため、現在の株価評価には他事業の影響も多分に含まれていると考えている。むしろ我々スタートラインが、この業界全体のPERを引き上げていけるようなポジションを目指す。

―いわゆる「エスプール・ショック」などによって、業界そのものに厳しい目が向けられた時期があった。まだそれはあると思うが、これに対してどう向き合ってきたか。また、社会への理解をどう得ていくかについて
この業界では、最初にスタートした会社だと思っているが、障害者雇用の分野に一石を投じる覚悟で始めた。多くの同業者が参入し、社会的関心が高まる一方で、不適切な事業運営を行う企業が存在することは認知していた。このことから、私は発起人として一般社団法人日本障害者雇用促進事業者協会を2023年に立ち上げた。現在、多くの同業者に賛同・加入してもらっている。

また、12月1日に、厚生労働省が主催する「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」に、団体の代表として初めて招集された。会議のなかでも、「この業界自体をなくせという批判的な意見があることは厚生労働省としても承知しているが、なくすことはできない」と明確なコンセンサスを得ている。では、どのように健全化していくべきか。その議論においては、我々スタートラインがこれまで実践してきた取り組みが、ガイドラインになりつつあるという意見が多く出ていた。今後は官民連携をして、ガイドライン策定を行い、その点について我々がリーダーシップを取って、業界全体の健全化を図っていきたい。

過去の事例を振り返ると、エスプール・ショックの際、メディアで厳しい批判があったが、その間も当社の業績が落ちることはなく、むしろ受注は増加していた。この部分については、一定程度の対話を進めながら、批判的な意見にも耳を傾け丁寧に対応していきたい。また、業績に与える悪影響は、ほぼないと今は理解している。

―採用や育成についてどのように考えているか
育成については、一番試行錯誤してきた。事業成長していくうえでも、最大のボトルネックになり得ると予想していた。以前は、離職率が上がったり、うまく育成ができなかったことがあった。しかし、自社で設けた研究所での研究・実践を積み重ねたことと、ツールの開発によって克服した。ツールで現場の支援員をサポートするほか、支援員は1人でやるわけではなく、支援員ができないことを社内でバックアップしたり、問題がそれでも解決しない場合は、研究所が介入するという体制を取っている。この体制に加え、支援ノウハウを技術として体系化した教育システムを整備した。

また、採用について、以前は専門職の採用に重きを置いていた時期もあったが、それでは事業成長のスピードに追いつかず、今はその体制整備をしっかり行うことに力を入れる。未経験者であっても約10ヵ月間で一定程度のアセスメントや対応ができるようになる育成環境とツールを整えた。その結果、かつては10%を超えていた離職率も着実に改善し、今期は7%台という適正な水準に落ち着いた。採用難と言われる昨今だが、当社の採用単価は年々低下しており、さまざまな施策が効果を出している。こういった体制整備が整ったタイミングだったことも、上場と併せて、さらに事業成長できるという判断に至った。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 紫乃]