4月22日、デジタルグリッドが東証グロースに上場した。初値は公開価格の4520円を17.48%上回る5310円を付け、6040円で引けた。デジタルグリッドプラットフォームとして2017年10月に設立。発電家と直接取引できる電力取引プラットフォームを企業に提供している。豊田祐介社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

―株価の受け止めと、今後どういうふうにしていくか。初値はかなり高いが、株主価値の向上に向けて、どのようなことをしていくか
昨日の今日で、月初から関税を含めた株式市場も、歴史的な低迷で凄い市況だ。我々もこのタイミングで上場できるかできないか、すべきかすべきではないかをかなり協議してきた。ありがたいことにこの日を迎えることができている。投資家に期待されているからこその初値だろう。既存ビジネスも拡大の余地があるが、これに甘んじることなく、再エネと蓄電池を中心とした新規事業を誠心誠意やっていきたい。今後のさらなる成長に向けて、一同頑張っていきたい。
―「デジタルグリッドルーター(DGR)」を開発した阿部力也氏に何かあるか。また、会社設立時に多くの事業会社が出資してきたが、今後、立ち上げに関わった事業会社との関係は。配当だけなのか顧客だけなのか、さらに何かあるのか
祖業はソフトウェアのプラットフォームだけではなく、それに付随するDGRを主にやってきた。その結果、様々なことが分かってきたこともあり、ピボットして、ソフトウェアに移ってきた。蓄電池に踏み込んでハードウェアに進み、ソフトだけでは完結しないのがエネルギーの世界でもある。金融よりフィジカルに近いので、阿部先生の世界観(の実現に)は引き続き注力したいし、阿部先生と一緒に鐘を撞けたので、そこは個人的にも非常に感慨深い。
事業会社については、創業時にいろいろと実証の場を提供してくれて助かり、連携してきた。残念ながら、コーポレートガバナンス・コードなどの諸事情で上場株を持てない企業があるのは事実だが、それで取引が終わりになってしまうことはないし、引き続き密に連携や連絡を取っていく。
近清拓馬COO:プラットフォームのユーザーや戦略的パートナーという形で、株主ではなく、ビジネスの面で連携している企業がほとんどになる。コーポレートガバナンス・コードなどで売却した株主についても、事業で引き続き連携する。
―事業があまり目に見えないもので理解するのに苦労したが、投資家に訴求するにあたって注力したことや工夫したことは
豊田社長:伝わるように努力していて、「みんな思いついたらこんなのできるんじゃないの?」、「ウェブ実装とかマッチングして送り届けることはできるんじゃないの?」のような話があったときに、拠点ごとにAIを持たせるところまでは、AIに明るい人がいたらできるかもしれないが、外れた時のリスクは馬鹿にならない。
ソフトウェアエンジニアリングに当たる人だけでも、取り切れないリスクがある。例えば、電線を予約する時に100ワットの電気を使いたいと言っても、ドライヤーや電子レンジを使って、120ワットの電気を使ってしまうとする。そうすると停電が起きるわけではなく、その20ワットは電力会社の送配部隊がバックアップしてくれる。契約しているバックアップ電源は揚水や火力などたくさんあり、「火力で20ワット補填してあげるよ」と言うが、その分の対価を払わなければならない。その対価にペナルティ性があるので、正確に予測できていれば、そういう無用なリスクを取らなくて済む。予測が外れてしまうと、対価をいくら払わなくてはならないかが30分ごとに変わっていて分からない。そのリスクが高いために、この部分のドメイン知識やオペレーションを深く理解していないと、「個別に予測しましょう」だけではない世界があることを、投資家に説明している。
また、電力業界で上場している様々な会社があるなか、(電力)市場が高騰すると、「会社、大丈夫ですか?」という指摘や心配をもらうことが多い。市場が高騰したから我々の損益計算書が悪くなるわけではなく、場を提供しているだけだと説明している。電気が高騰していた2022年でも顧客の数が増え、2025年は少し落ち着いているが、市場の環境によらず、顧客の数も増えて収益も伸びているのを、納得して期待してもらえるようにしている。
―市場から得た資金は、主に蓄電池事業に集中して投資するという考えだが、具体的な目標としてキロワットでどのくらいか、案件でどのくらいか、共同出資も含めてどれくらいかなどの数字はあるか
短期的には、(IPOの調達資金は)オーバーアロットメントを含めて20億円で、含めないと10億円程度だと思うが、ほぼ蓄電池に投資していく。投資計画も具体的な案件を目論見書などに記載している。この20億円は高圧電源で言うと4~5件なので、10~12メガワットの規模だ。なるべく早いタイミングでやっていく。投資の計画として記載している金額だが、土地を押さえ、投資をしてしまっている部分もある。あとは東京都の補助金をもらい、プロジェクトとしてやる責務があるものは手前でやっていく。
我々はアグリゲーション(電力の需要と供給の状況を把握して、効率的にバランスを取る)事業も並行してやっているので、どこまで増やしていくかは単独ではけっこう難しいが、2030年までにトータルで100万キロワットを目指していきたい。
―アグリゲーションは昨年の12月から充放電を始めているとのことだが、そのことか
現状だと2件ほど蓄電池に指示出しをしているものがあるが、両方とも我々のアセットではなく、他社が持っているものをアグリゲーションだけしている。
―今後の成長のあり方で、蓄電池が1つあると思うが、太陽光を使用した事業者を中心に蓄電池をやっていこうという会社が多くあるなかで、どのようにデジタルグリッドらしさを出していくのか
1つはソフトウェアの開発力と、もう1つが市場の市況観だ。我々はどこまで行っても、黒川達也CTOを中心にエンジニアチームが内製化して、コアのプロダクトを全て自分たちで作り切っている。蓄電池も充放電制御とひと言で言ったが、そのためにパスしなければならない試験の多さや、現地に行く時に蓄電池メーカーとパワーコンディショナーという直流を交流に変える機械があるが、その組み合わせでできることできないこと(を確認する)。
さらにEMS(Energy Management System=エネルギー管理システム)の組み合わせがある。例えば、10件ずつあると10×10×10の1000通り程度あれば、優先順位をつけてクイックに開発し切る。Googleのような企業のエンジニアがぽっと来て、開発を明日できるかというと、そうでもない。需給調整市場の500ページにもわたる取引ガイドラインを読んで、各種要求を満たすように実装していくので、かなり泥臭い。この5年間で一緒に歩んできたソフトウェアエンジニアが、蓄電池の充放電制御を他社よりもスピーディーにこなしていくソフトウェアの開発能力は、特徴の1つだろう。
もう1つは、金融の出身者が多い。嶋田剛久CFOも私も出身はゴールドマン・サックス証券で、ほかにも投資銀行や銀行出身メンバーがいる。マーケットのリスク感応度(についての理解)やリスクのマネジメント能力(を持っている)。電気のインバランス(供給と需要のずれ)が出るとペナルティがあるが、この5年間、市場が激変するなかでリスクを管理してきた。市況のアルゴリズムやリスクマネジメント能力、ソフトウェアの技術開発力の2つを特徴として出していきたい。
―既存ビジネスの契約数や契約拠点数、契約容量が右肩上がりで伸びているが、既存ビジネス拡大に向けた営業戦略については。また、拠点数や契約容量などの数値的な目標は
契約数が伸びてきた背景は大きく1つ。電力のメニューの構造的な状況が変わって市場に連動せざるを得なくなり、その結果市場が高騰すると、電気代が上がってしまう人たちがいる。今まで以上に電力料金に対するセンシティビティが、特に法人を中心に上がっているため、少しでもコストカットできるのであればと、凄い勢いで問い合わせをもらっている。
267拠点だったのが4200拠点になり、20倍弱に増えているが、この2年で、5人だった営業人員を100人にできていない。内製化だけではなく、外部のパートナーにお願いして伸ばしてきた。
やりたいことは2つで、引き続きパートナーを主体として、戦略的に(やっていく)。今までは問い合わせフォームに打ち返す日々だったが、4000拠点も集まってくると「東北エリアの病院が困っているらしい」や「九州エリアのパン工場が危機だ」などの統計データを基に攻めた営業ができる。どの人がどこで電気代が高くて困っているかの情報がだいぶ集まってきているので、そこを中心にパートナーの営業ができる。直販の営業人員も採用をかなり拡大しているので、自分たちで案件を獲得するという2軸で戦略的に、より効率的に(進めていく)。今後はデータを上手く活用するのが、非常に大事になってくるだろう。
―狙っていく市場やシェアは、どれくらいを目標としているか
日本の電力総使用量は今だと大体8800億キロワットアワーだが、データセンター(の増加)や電化が進むので、2040年には9000億~1兆キロワットアワーになると言われている。億キロワットアワーのイメージがつかないかもしれないが、電気の使用量のようなものだ。
我々は法人をターゲットにしており、大体3分の2が法人需要と言われている。大きいところでは6000~7000億キロワットアワーに近い部分が、ターゲットユーザーではあるが、そのなかにもリスク許容度や特別契約などで、大手電力会社との付き合いを崩すのが難しい企業が相応にあると思う。そのような企業は我々の対象にしにくいので、さらに機動的にスイッチし得る企業をSOM(Serviceable Obtainable Market)としている。そのなかでも市場に連動してしまったり、自分たちで主体的に調達してみようという企業のシェアは10%ぐらいだ。そのような市場の獲得を目指していく。
また、ダイナミックプライシング市場自体も増えていると考えており、エネルギー調達の国策のあり方も少し変わっている。少し踏み入ってしまうが、LNG(液化天然ガス)が大事だ。
再エネが増えて、さらに調整弁としてのLNGが大事。中部電力と東京電力ホールディングスが作ったJERAという会社が、国際的なバーゲニングパワーを持って、サウジアラビアやカタール、オーストラリアなど様々な場所で買ってきていたが、コロナ禍前後でコモディティ価格が暴落した。このように買ってくる長期の契約がやられて、なかなかロングポジションを持ちづらい。ただでさえLNGは液化しているので、置いておくと気化してなくなってしまう。1〜2ヵ月以内に使わないと駄目で、予測をピンポイントにしないといけないものを長期で抱え、しかもコロナ禍で価格が落ちているので、LNGの長期契約を一部手放してしまっている。
その結果、日本は国として、海外のスポットマーケットからLNGを調達するような国になり、一部エクスポージャーが増えていて、旧来型のメニューを提供できなくなっている。このダイナミックプライシング市場は、体良く横文字ではあるが、裏にあるのは日本のエネルギー調達の国策が少し変わってしまっていて、ポイントオブノーリターン(引き返せない)というか、構造が少し変わっている。そのマーケットが広がってしまうのであれば、少なくとも我々のプラットフォームでリスクや価格を抑えるプロダクトを顧客に提供していく。
近清COO:営業リソースの懸念も示してくれたと思うが、これまでの成長は5人の営業メンバーで、パートナーと連携しながらやってきた。営業リソースが、足元では12~13人で、ここ1年でかなり採用活動を強化して、拡大してきた。直近でも20人体制まで拡大していこうと思うので、それによってパートナーとの連携だけではなく、直販で顧客と対話しながらやっていく。電力のコンシェルジュ的にAIも活用するが、人が介在することでより安心感のある形でユーザーの増加を狙う。
―再エネの取扱容量のPPA(Power Purchase Agreement)が飽和しているように見えるが
豊田社長:161メガワットから165メガワットで4メガワットしか増えていないということか。
―バーチャルPPAとフィジカルPPAの取扱容量があまり変わっていない気がする。太陽光発電の適地が減ってきたせいで、PPAが飽和していると見えるがマーケットの環境は
主に案件規模の大きさが、理由の大きなところだろう。2023年7月に関西電力の需給管理業務を受託したが、これは主に低圧だ。低圧は開発難易度が低く、毎月のように開発できるので、コンスタントに増え、比較的連続性のある増え方をする。
それに対し、バーチャルPPAやフィジカルPPAは、小さいものを束ねるのが結構大変で、規模が大きい高圧や、場合によっては特別高圧になる。運転開始まで一気に積み上がる性質なので、四半期で全く積み上がらないことはあり得る。例えば、LINEヤフーがヴィーナ・エナジーと70メガワットの(バーチャルPPA契約を結び、デジタルグリッドが業務を受託したが、)まだ運転を開始していないので、(実績として)換算していない。70メガワット分が2026年のバーチャルPPAに上乗せされる。
数メガワットや場合によっては70メガワット程度のものが、非連続に積み上がるので、飽和するどころか、機会として伸びている印象だ。再エネPPAのオークションを四半期に1回開催しているが、反響は日に日に良くなっていて、足元では339メガワットの登録があって、マッチングが行われている。PPAマーケットは加熱方向だろう。
近清COO:「再エネ卸」の取扱容量が伸びているのは、プロダクトに低圧のポートフォリオがかなり多いためで、増え続ける性質がある。
[キャピタルアイ・ニュース 北谷 梨夏]
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