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上場会見:プログレスTG<339A>、ノウハウとデジタルの接着剤

3月28日、プログレス・テクノロジーズ グループが東証グロースに上場し、中山岳人社長が東京証券取引所で記者会見を行った。初値は公開価格の1950円を1.54%上回る1980円を付け、1615円で引けた。設計力強化や製品開発などメーカーの支援を行うソリューション事業と、最先端のデジタル技術を駆使し、ソリューションを提供するデジタルツイン事業、企業にエンジニアを派遣し、設計や開発支援を行うエンジニアリング事業を手掛けている。

事業の特徴や強み、今後の海外戦略について話す中山社長

―初値が公開価格を1.5%ほど上回っているが、受け止めは
少しだが上回り、買ってくれた人たちがしっかりいて、本当に嬉しい。我々自身が黒子のようななかで、重要な技術で絶対伸びると分かっていても、そういうものを情報開示し、皆や投資家や様々な人と話していかないと、理解は進んでいかないだろう。

―株主還元の方針について
当面は配当を考えていない。まず、会社をしっかりと成長させていきたい。いくつかの投資で、企業価値向上のために全力を注ぎたい。

―プログレスTGが入ることによって、どのような製品が出来上がったのか。なにか事例はあるか
「この製品がうまくできた」というのではないが、例えば、今までベテランの人が1ヵ月かけてできていたことが、中堅の人だと3ヵ月かかり、若手だと作れない。そのような難しいものづくりは、ノウハウやすり合わせなど経験がないと、どんなデジタルツールをどれだけ与えてもできない。それを我々がベテランのノウハウをデジタルで可視化し、与えられた最新のデジタルツールにしっかりつなげて、使いこなせるようにする。そうすると、ベテランから新卒まで全員が、全て30分で今まで出てきたことが可能になる。顧客の持っているノウハウと最先端デジタルを接着剤のようにつなぎ合わせると実現できる。

そうすると、仕事にかけられる時間がぐっと短くなったり、できないことができるようになる。今まで以上にいろいろなことを考えて、面白いワクワクする技術開発ができるようになるので、様々なアウトプットができる。そういう役割だ。

―複数の会社がしのぎを削っているなかで、バックオーダーを多く受けているとのことだが、それが縛りにならないのか。顧客を増やしていけるのか
縛りにはならない。顧客は固有の技術や特色をしっかり持っていると思うが、それをデジタル技術を活用して効率化する部分は、業界プロダクトが汎用化された技術とデジタルをつなげるということだ。同じ自動車メーカーでも、全てのメーカーに対して同じことを提供できるし、逆にお願いされている状態だ。同業界の競争相手の顧客のなかにも全て要望されて入っていく。顧客からすると基盤技術で特色あるところは、自分たちで考え、棲み分けをうまく作る。例えば、自動車で言うと、車の乗り味やデザインは本来の特色だが、AIを使って形を考えるとき、AIは手段だ。我々は手段を徹底的に磨いて、使えるように渡す。手段側なので、顧客の固有のものは縛りになっていない。

―意識する競合は
日本に競合はいない。そこの接着剤役は存在していないが、欧州には、そのようなことを専業にしている会社がある。それがドイツのFEVとオーストラリアのAVLで、大学の研究所から出てきたオタク集団のようなデジタルを専門にしている自動車業界の会社だ。

―上場にあたって、ウィンボンド・エレクトロニクスと丸紅I-DIGIOホールディングスが親引け先だが、受け止めは。また、これまでの関係と、今後どうなっていくのか
まず、ウィンボンド・エレクトロニクスは3社で1つのグループになっているが、今まで関係は全くない。ただ、彼らは半導体で、半導体は特定のパソコンや携帯にしか入っていなかったものが、今はあらゆるプロダクトに入ってきており、製品を成り立たせるためのインフラの部品の一部のようになっている。

半導体メーカーからすると、それを最後にどのような形で使ってもらえるか、エンドユーザーがどう使うかを考えてはいない。メーカー側に使ってもらうだけのデバイス屋としては、AIと一緒で、デバイスメーカーが、「半導体には汎用性があるため、いろんなことに使ってもらえると、世の中のいろいろな課題が解けるのではないか」という接着剤的な役割としての機能が、自分たち(半導体製造企業)にも足りていない状況だった。そのなかで、我々のような会社が存在したほうが世の中のためにはもっと良くなるだろうと、「半導体デバイスをもっとこういう風に使ってもらったらきっと良いのに」と思っているのに、なかなかそれを誰も供給してくれないという課題があった。販売商社はあっても、当社のようなエンジニア会社が日本にないため、応援したいという話だった。

三菱電機<6503>やパナソニックホールディングス<6752>の半導体事業を丸ごと買収し、もともと日本の技術を使って始めた台湾の会社が、日本を応援しているオーナーであるところから、そのようなことをやってくれる会社を応援したいようだ。様々な可能性を開く接着剤的な役割として、一緒に様々なメーカーを応援したい。そんな思いで連絡をもらった。

―使っている半導体も、台湾企業から見ると、様々な人が組み込む可能性はあるのか
ダイレクトかどうか分からないが、そうかもしれない。ものすごい勢いで半導体の技術が変わる一方で、その技術を正しく伝えてくれる伝道師はなかなかいないだろう。我々のようなテクノロジーと現場の接着剤の役割の人たちにも理解してもらいたいと、様々な拡販をしている。技術のメンバーとして期待してくれていると感じる。

―株主はいまだにジャフコで、まだある程度持っていると思う。ウィンボンド・エレクトロニクスは13%程度の保有率だが、可能性の話で、これらがもう少し株を持ちたいという話はあるか
そういう情報をなにも持っていないし、私のほうで、要望も特にない。安定株主として、素晴らしい技術を持っている会社なので、そこは良いと思うが、我々としてはどこかの色が付いたりすることは基本的に考えていない。顧客の立場から見て、中立であることがとても重要だ。ただ、最先端テクノロジーの情報を得るという意味では、様々な会社と提携するのも素晴らしいだろう。

―デジタル支援の面で、どのような需要が高まるかなど今後の見通しについて。また、大学と連携して人材育成をしているが、人材面や社内向けのシステム開発など、力を入れていく投資の具体的なビジョンについて
顧客の頭のなかにあるノウハウなどのアナログデータは、デジタルデータ化しない限りAIを導入できないし、自動化もできない。まずは、人のノウハウのようなものをデータ化する特許を取っているので、今は当社のコンサルタントがアナログ的に取り組んでいるが、それをシステム化する。属人化しないよう、全員で効率的なプロジェクト推進ができるように、システム化投資で業務効率を上げ、顧客の仕事を今までの2倍、3倍速く終わらせられるように、進化していきたい。

もう1つは、人がベースとなってサービスをしていくので、きちんとした形で“産学連携”を強めていく。本社を含めて5拠点で、大学連携だと最近では新潟県にラボを作って、新潟大学と長岡大学と連携するほか、九州大学や東北大学など、いくつかの国立大学と進めている。そのなかで“人材発掘育成連携拠点”のようなものを作りたい。

また、20年かけて5つの事業ポートフォリオのなかの産業に、顧客とともに人材育成と経験を含めて入っているが、顧客のメーカーのなかでも、デジタル領域をマネジメントするのではなく、スペシャリストでずっとやりたいという顧客がいる。メーカーにいると、マネジメントに行かないと、だんだん窓際に寄せられるような雰囲気がある。そのため、ずっと技術をやりたい人が門を叩いてきていた。我々は今までそういう人をあまり受け入れてきていなかったが、顧客からのバックオーダーのなかで、体制をしっかりしてプロジェクトを作っていくという意味では、今まで新卒を毎年50~60人採っていたのを、100人や150人規模にしていく。それとともに、メーカーでも、我々の特化したこの仮想シミュレーション技術やデジタル技術を好きでやりたいというメーカーのトップエンジニアの人たちを受け入れていくために、採用に人とお金をしっかりかけていきたい。

―海外にサービスを提供しているのか。また、海外戦略はあるか
海外拠点は持っていないが、顧客が開発研究所関係を海外に持っているので、国内をベースにしながらも、アメリカや中国、タイ、欧州への日本企業の海外展開の支援は常にやっている。これをより拡大していきたい。 東南アジアや中国などのいくつかの海外のメーカーからの問い合わせも多い。丸紅I-DIGIOHDと業務提携をしたため、規模拡大から海外展開を含めて一緒に進めたい。

―自動車メーカーがメインターゲットか
日本は、戦争に負けて航空宇宙防衛産業がしっかりできなかったが、自動車はトップ産業なので、まずはそこをしっかり押さえたうえで、ほかの領域にも向けていきたい。

―関心のある海外エリアは
まずはアジアをしっかりやりたい。中国や東南アジアなどには、日本企業がいっぱい行っている。工場が進出しているが、テクノロジー開発面ではなかなか行けていない。人材育成や推進、あるいはアウトソースの活用を一生懸命トライしようとしているけど、うまくできていない。我々みたいな開発をやるメンバーと一緒に入っていければよい。

―アジアで唯一のサービスということだが、アジア以外だと類似のサービスや競合的なものは存在するのか
自動車のある領域だと、ドイツのFEVやオーストラリアのAVLなどが全世界で展開しているが、日本では言語の壁など、実際にやってみるとそんなに上手くはいっていない状態だ。逆に、我々が欧州の独特なところに入っていくとなると、そのような会社と1番競合するかもしれない。

―そのような企業との違いや差別化などの特徴は
FEVやAVLは、我々以上に 自動車に9割方特化しているが、我々は半導体や医療、重工業、ハイテクまで進めており、自動車以外の業界までまんべんなく、ある程度フォローできているので、差別化できていると思う。

[キャピタルアイ・ニュース 北谷 梨夏]