25日、リガク・ホールディングスが東証プライムに上場した。初値は公開価格の1260円を4.37%下回る1205円を付け、1130円で引けた。X線回折と蛍光X線分析の国内トップメーカーで、研究開発支援から量産局面での機器導入までをカバーする「Lab to Fab」モデルで事業を展開する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2014年に打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」で採取した試料の分析も手掛けた。プライベートエクイティファンドであるカーライル・グループが2021年に資本参加した。川上潤社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

―株価が10%ほど下がった。ほかの半導体銘柄も下がっているが、受け止めは
株価は市場からの評価で、我々が何を言っても決まってくるものなので、それを評価として受け止めて、我々はしっかり事業をしていく。これが、高いとか低いとかそういうことではないし、我々はどちらかというと玄人受けするような銘柄だと思っているので、長期で見ていていくのが正しいと考えている。
―カーライルGの傘下に入ったことでの評価と、エグジットしたことでこれから新しく取り組みたいことは
エグジットとは言っても、カーライル・グループ今は後も主要な株主であり、非常勤の取締役の派遣を受けている。付き合い方が凄く大きく変わるとは特に思っていない。
ガバナンス体制やグローバル体制の確立を支援してもらった関係であるので、これまでも我々が主体性をもって事業をしてきた。今後もその支援を受けながら我々が主体的に事業を運営していく関係は大きく変わらない。
―カーライルGから2021年に出資を受けてから上場に至るまでに、受けたメリットは。また、資本関係は75%から4割程度まで下がるが、事業面で深めていきたいところがあるか。今までと変わらないのであればどういったところを強くしていきたいのか
2021年以降で考えると。いわゆるグローバルなガバナンス体制の確立。それから私も含めてだが、外部の経営人材の獲得が1番変わったところだった。我々はパブリックな会社になり、その責任を果たしていくということで、(カーライルGは)1株主だが、引き続き重要な株主であることには変わりはない。パブリックカンパニーとして株主と付き合っていくというものになっていく。
―経営陣の獲得というのは、例えば、X線検査装置の知見を持つ人を見つけてきてもらうということか、あるいは上場するに当たってのエクイティ周りの話なのか
特にはグローバルの各地域のリージョンCEOや、各グローバルのリーダー(Commercialマネージャーなど)だ。米国や欧州、中国のリーダーは大半が新しい人だ。カーライルGのネットワークを使いながら、グローバルカンパニーでの経験がある人たちをリクルーティングしてきた。
―カーライルGがこれまでいろいろな会社に投資するなかで、特定業界・分野では強い人は「こういうところにいる」というのを、リガクHDに紹介したのか
そういうこともあるし、一緒になって探したこともある。
―公募増資はせず、営業キャッシュフローで十分対応できるとのことだが、成長投資が必要になる局面もあるだろう。それについては
そういう局面になって資金が必要になれば、せっかく資本市場に直接のアクセスを持ったので、それを使って調達することは理論的に可能なので、検討することは十分にある。
―D/Eレシオについて
特にこれという考え方があるわけではないが、現状は1.6だ。D/EというかEBITDAとデットの比率になるが1.6は十分低いと考えている。これも必要に応じて、必要であれば上げることも可能だし、何もなければそのまま、もう少し下がっていくことになるが、ここにしなければならないというターゲットを決めているわけではない。
―IPOディールではテックスペシャリストの評価がかなり高かったと聞いているが、そういった投資家はどのような点に着目したのか
テックのスペシャリストたちからの評価は非常に高かったと思う。一見すると非常に分かりにくい、あるいは馴染みのないビジネスに見える。説明をしていくなかで、テックのアナリストが理解するうえでまず感心されたと考えられるのが、非常にディフェンシブな研究開発のビジネスで基盤をしっかり作っていて、しかもそれは世界でナンバーワンのX線技術を軸に作っていることだ。
それに加えて、半導体や次の「Lab to Fab」など非常に高成長な分野へのエクスポージャーも非常に高い。特に半導体では、これまでは技術的に中心となっている光学で半導体の形状や膜厚などを測ってきたが、半導体の構造が微細化・多層化・多材料化するなかで、光学ではやりきれないところが出てきている。
それをX線が補完していくというとても大きな技術の流れを捉えて事業をしていることで、短期的なブームではなく、しっかりしたディフェンシブな基盤があるうえに、長期的な技術の構造変化を捉えた事業をしている点が、テックのアナリストから高い評価を受けた理由だと見ている。
―売上の中国依存度がそれほど高くないことも評価されていたが、一方で中国のレガシーFabからの需要が増えている。それらを踏まえて、これからの中国マーケットとの付き合い方は
メジャーなSPE(Semi-conductor Processing Equipment)の会社は中国依存が、4~5割と非常に高い。そこから比較すると、昨年の数字だが当社はトータルで3~4%で非常に中国比率は低い。ただし、中国には非常に多くの深い半導体とパワー半導体の市場があるのは間違いない。そういう市場は開拓しなければならない。
そうしたこともあり今年は、そこはずいぶん増えていて、今後もそこからより大きな売上を上げていく。中国売り上げが50~60%になるとは思わないが、今の4%と比べたら2~3倍になっても全くおかしくない。
―半導体業界がどのぐらい成長するか議論されているなかで、改めてリガクHDから見ると、どういう風に成長していくのか。さらに、半導体ビジネスが成長できるように、何が必要なのか、これからどういう風に取り組んでいくか
尾形潔副社長:半導体全体で見ると、変動があるにしても、2030年、2040年と伸びていくと推定している。直近では、AIに牽引されるデバイスの発展が著しいが、よくサイクルと言われるのは、投資と回収のタイミングで、投資によって生産量が増えると、そこで手控えて、価格が安くなって下がる。その繰り返しだが、デバイスごとにそのフェーズが異なる。
例えば、数年前には3DNANDフラッシュメモリの投資が非常に多く、それはサーバー向けのものなどが多かったと思うが、非常に伸びた時期があった。その後、今ではAIに代表されるロジック半導体とHBM(High Bandwidth Memory)の伸びが著しくなっている。
さらに、パワーエレクトロニクスの伸びというトレンドもある。パワーエレクトロニクスに関してもEVの一時的な退潮によって投資の手控えはあるが、2030年に向けて10倍以上に伸びていくのは間違いないという市場の予測がある。それぞれのデバイスに対するフェーズは異なるが総体的に伸びていく。それぞれの技術革新を捉えていくことを目標としている。
川上社長:それから我々がやらなければならないのは、新しいノード(半導体のトランジスタなどの大きさを表す指標)がどんどん出てくるのに合わせて、そこでの新しい計測ニーズを先回りして開発し、市場に導入していくことを続けることによって、半導体の成長と一緒に、あるいはそれより早く伸びることができる。
―半導体事業について、大きな流れとして光学からX線という動きがあってという話があったが、微細化していくとX線のほうが光学に比べて有利になるのがどういう理由なのか。例えば、光学で計測していたどの領域がX線に置き換えられるのか
端的に言えばX線の圧倒的に短い波長で、光学では見切れないより小さなものや、より複雑な形状の物を見ることができる。
尾形副社長: X線の波長は、普通のX線ではオングストローム、サブナノメートルレベルで、半導体のトレンドがナノメートルやサブナノメートルに近付いてくる。光学ではミクロンやサブミクロンレベルの波長なので、ナノメートルレベルで困難が多くなってきている。
もう1つ、半導体が3D化するトレンドに対して、光では透過力が足りない。X線は非破壊で厚い物を透過できる。さらにもう1つ、光学は例えば、メタルなど反射して測れないものが多くなってくる。X線はメタルを透過する。そのような利点で、X線の役割が増えてくる。もちろん全て置き換えるとは言わないが、いろいろな分野で光学の困難を置き換えていくチャンスが生じる。
具体的には、昔、膜厚(の計測)では、光学ではエリプソメトリーという手法が多く使われていて、波長がミクロンレベルなので、非常に薄い膜で、X線でかなり置き換えが進んでいる。もう1つ3D構造の形状計測で、オプティカルスキャトロメトリ(OCD)と言われているものがあって、例えば、3DNANDやDRAMの深い形状は測れなくなってきて、X線で置き換えていく。そのようないろいろな機会を捉えてX線のシェアを増やしていく。
―リガクHDの装置が使われるのは、半導体のなかでも特に最先端のものか
川上社長:そうだ。新しいノードだ。
―そうすると米中衝突の問題があり、最先端半導体露光装置の輸出規制みたいなものがあって、最先端の半導体は地政学リスクに揺れている。例えば、規制がリガクHDに直接の影響がないにせよ、結果としてビジネスに影響することはないのか
尾形副社長:補足すると、古い世代のものでX線が使われないのではなく、例えば、膜厚や組成の測定にはX線は以前から使われており、今後も使われる。中国のレガシーFabというか古いプロセスに関しては、それらの装置を輸出している。
最先端に関してはもちろん米国発の規制があり、一時は、最先端は難しいということになったが、現在は政府の承認を得て輸出できる分野があるので、そちらを輸出していく。中国は特に内製化の流れがあるが、計測装置に関しては内製には至っていないので、そちらに商機がある。
川上社長:中国は最先端を規制されたので、資金がレガシーに行った。逆に言うと、レガシーでやっている部分の我々のビジネスで非常に伸びて、規制があるから伸びないというわけではない。
―利幅は、最先端向け(の製品のほうが)が厚いのか
尾形副社長:一般的にはそのように言えるが、レガシーFabが低利潤というわけではなく、同じレベルの利幅を得ている。
―1台いくらで、1工場にどれくらい置かれるのか
川上社長:半導体プロセス・コントロール機器は1億~5億円と言っている。もっと幅はあるがそのくらいだ。どのノードかにもよるが、1ラインに最低2台だ。
尾形副社長:プロセスごとに使うので、いろいろ採用されれば、例えば、1ラインに6台や8台という数字にもなる。
―「Lab to Fab」モデルを拡大していくとのことだが、中長期的に見てエンドマーケット別の売上高割合はどのようになるのか
川上社長:直近では21%になっている半導体プロセス・コントロール機器の売上が大きくなると想定している。ただし、これが60~70%になっていくというよりは、そのほかのLab to Fab進めることで、ほかの分野も伸びるので、バランスの取れた形になっていく。
従って、正確に何%になるという話はしないが、ポートフォリオのなかで、半導体プロセス・コントロール機器などマージンの比較的高いビジネスのシェアが大きくなるだろう。
一方で、多目的分析機器も次のLab to Fabをやっていくことで伸びていくと考えられるので、バランスの取れたポートフォリオになっていくと思う。
―配当政策について、借入金債務を圧縮するために配当をしていないが、連結純利益の30%をメドに株主への配当を実施していく方針だが、改めて聞きたい
連結最終利益の30%を目安に配当を考えていく。
―メドやタイミングは
まだ決まっていない。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
よく読まれている記事
2024年7月1日 りそなHDが5年債を準備
2022年12月16日 上場会見:スマートドライブ<5137>の北川社長、移動データ活用に伸びしろ
2024年4月5日 西鉄債:マイナス解除後・年度初の民鉄
2024年10月16日 オリックスのユーロ建て債:7年に伸ばして増額
2025年1月17日 丹青社<9743>:空間体験に付加価値、刺さる還元姿勢