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上場会見:ドリーム・アーツ<4811>の山本社長、難しいことをノーコードで

27日、ドリーム・アーツが東証グロースに上場した。初値は公開価格の2660円を12.97%上回る3005円を付け、3070円で引けた。同社は、大企業に特化した業務デジタル化SaaSプロダクトを開発・販売する。業界横断的に利用可能なノーコード開発ツール「SmartDB」は基幹系システムの周辺にあるMCSA(Mission Critical System Aid)領域で使われる。業務のデジタル化による効率化や情報共有、DX推進基盤となるシステム整備を目的とする。山本孝昭社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

世界規模でのサプライチェーンのリセットなどで大企業の業務が変わり、あるいは新しく発生することから需要はさらに拡大すると話す山本社長
世界規模でのサプライチェーンのリセットなどで大企業の業務が変わり、あるいは新しく発生することから需要はさらに拡大すると話す山本社長

―初値の感想は
逆風のなかで注目され、取引量も決して少なくなかった。取引額としては全部で100億円近くまで行き、今日はそれが1番グッときた。パブリックな存在になり、社会でそれだけの取引の対象になったことが、上場セレモニーで鐘を打った時よりも感慨深かった。

―創業26年で、このタイミングでの上場は、ようやくといった感じか
ようやくとも言える。だが、IPOに対してがっついてはいなかったし、自然体だった。とはいえ、まったり仕事をしていたわけではない。仕事に対しての情熱と思い入れは全く衰えることはなかった。

株主構成を変えるなどIPOの準備もしていた。(隣席に座っている)牧山公彦専務は、CFOとして20年前に同じ会社の目論見書を書いた男だ。また、その時からずっと有限責任監査法人トーマツに監査をしてもらっていた。株主の構成を変えて、かなり希釈化していた経営陣のシェアを7割強まで持っていくことなどに、15年かかった。そういう意味では、虎視眈眈と狙っていた。

経営者として苦しかったのは、クラウドが脚光を浴びてから、(実際には)使われない時代がとても長かったことだ。クラウドは我々のようなパッケージベンダーにとってはとても良い。SIerを介してしか提供できないビジネスモデルから脱却できる。価値を提供する側からは、産業構造を大きく変える意味がクラウド化にはあった。コロナ禍によって、これが一挙に広まった。

―コロナ禍の時期に利益が減少しているようだが、コロナ禍で影響が出たのか
それは逆だ。コロナ禍の影響ではなく、新しいことへの追加投資と、古いところから撤退しようとしていた。このため、プラスマイナスで赤字が大きくなった。だが、コロナ禍があったから業績が急伸した。我々にとっては神風だった。

―ノーコードで、顧客自らが業務改善を行うと、そのカスタマイズ需要をどこまで満たせるのか
MCSAは、かなり面倒な領域だ。それがノーコードでできてしまう。皆が思っているよりも遥かに難しいことができる。

ただし、システム部門の人たちは必要だ。ネットワークのセキュリティや、アクセスコントロールのユーザー台帳管理など、プロの目線でなければ整備できない部分はある。だが、基本的なビジネスロジック、どういう項目をどうハンドリングして、誰が決裁をしてといった事柄は、慣れたら業務部門の人たちが普通にポンポンできる。昔のエンドユーザーコンピューティングで、ちょっとしたことができて嬉しかったというレベルとは隔絶している。

―今回のIPOディールで、投資家はサイボウズのキントーンを競合と見ていたが、実際には業務面でかち合うことはないのか
商談でかち合うことはほぼない。キントーンを導入して満足して僕らに声がかからないことが理由の1つとしてあり得る。だが、複雑な案件ではほぼない。

おそらく、表面上はよく似ている。氷山モデルで考えると、両者はインターフェースなど見えているところでは似ている。だが、SmartDBは、5万人(の組織)やリクルートでは10万人で使っている。組織の所属や役職による権限管理が全部入っている。エンドユーザーは名前をセットすれば、その人が見られるものは見られる。権限管理上見ることができないものは存在すら知らされないという処理を、全て自動でできる。

表面は似ているが、SMB(Small to Medium Business)系のツールにはそこまでの機能はない。例えば、月曜日の午前10時に5万人が同時にシステムへアクセスしたとする。何かやってエンターキーを押して1秒でレスポンスが返ってくるのは、裏で全部チェックがかかっていて、けっこう大変だろう。

そこは、業歴が長いなかで、少し大げさな言い方だが、涙なくしては語れないような苦労の連続があった。これは、サンプルコードは出ていない。UI/UXに関してはたくさんサンプルコードがあるので似たものをすぐ作れる。だが、氷山の沈んでいる部分は、時間のなかで粘り強くやって読み解いて工夫して試行錯誤し、やっと得られる。いまだに、たまにトラブルをやらかすので、その繰り返しだ。

―成長戦略の主力はSmartDBだが、目論見書では、事業上のリスクとして競争は激しいと記載している。継続的に利益を出していくために、この成長ドライバーだけでやっていける自信があれば、もう少し具体的に聞きたい。本格的に別な柱を作るつもりはあるのか
まだ言えないが、この1本足だけで行くとも思っていない。だが、深い杭をこれでかなり打てると見ている。SmartDBには、本当に「何に使っているんですか」という使い方がある。

例えば、セブンイレブンは商品開発の基盤に使っている。また、常石造船はやたらと大きいファイルをハンドリングしている。何に使っているか聞いたら、造船の設計業務の自動化の基盤にしている。造船ではいろいろな局面でいろいろ人が設計に携わるが、それらをファイル共有サーバーで扱い、ぐちゃぐちゃになっていた。それを全部、上長が承認して格納するといったケースマネジメントに用いる。ヤフーでは、膨大な約款や契約書の管理基盤として使っている。稟議の起案から、契約が完了してタイムスタンプが押されて格納・記録されるまでのライフサイクル全部をSmartDB上で行っている。

業務適用範囲はまだ広がる。強みはユーザー台帳を持っていることだ。かなり高度な業務で、完全にアクセスをコントロールでき、5万人や10万人をハンドリングできるうえでのユーザー台帳だ。この人はどの組織にいて、どういう権限があり、見せてはいけないもの、見ても良い、書いても良いものに関する情報が全部入っている。これは物凄いカードだ。

それを持っているので、具体的には言えないが、SmartDBを軸に第2、第3の柱はとても有利に作れる。

―パートナー戦略では、クラウドインテグレーターとクラウドソーシング、ソリューションプロバイダーの3種がある。そのうち、業種・業界特有の業務プロセスやノウハウをテンプレートにして提供するソリューションプロバイダーに関しては、投資家の間で理解がそれほど進まなかった向きもあるようだ。どのようなものか
あれは難しい。ロードショーで何回か話したが、事案を通じて気付かされた。ソリューションプロバイダーと名前を付けたが、特定分野に関するコンサルティング会社だ。例えば、一緒にビジネスをして、(他社に)SmartDBを紹介してくれたコンサルティング会社だ。

化学プラントのコンサルティング会社だった。化学プラントは作っているものが違っていても、気体や液体をパイプなどにバンバン流すもので、運営ノウハウはかなり似通っている。それを専門に手掛ける会社で、コンサルティングに際して、ノウハウの塊みたいなものを、お化けマクロのエクセルで顧客に提供していた。「もうエクセルはやらない、SmarDBでやりたい」とのことだった。SmartDBで組んだら、「めちゃくちゃいいじゃん」と、ほかの会社に紹介していた。このようなものを狙っている。

自分たちの知財をパターン化してSmartDBのプラットフォーム上に置くことは、パートナーにとって嬉しい。エクセルとの決定的な差は、クラウド上に乗っていることだ。API(Application Programming Interface)エコノミーで繋がっている。

皆がオンプレミスからクラウドに(システムやデータを)持っていく理由の1つはAPIだ。APIエコノミーで、多様な最新の業務ソリューションと繋げられる。皆がエクセルで困っているのは(情報を共有するには)メールで回すしかないことだ。それが大きなところで、イメージとして伝えられるのはそんな感じだ。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]