株式・債券の発行市場にフォーカスしたニュースサイト

上場会見:クオルテック<9165>の山口社長、過去の評価から未来の予見へ

28日、クオルテックが東証グロースに上場した。初値は公開価格の2540円を8.03%下回る2336円を付け、2397円で引けた。電子部品の不良解析や信頼性試験などの受託と、レーザ加工・表面処理(めっき)技術を中心とした微細加工を手掛ける。電子部品・半導体製造に関する品質改善コンサルティングを提供する太洋テクノサービスとして堺市で1993年に設立した。山口友宏社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

信頼性評価事業の検査メニューと一貫提供のためには設備のみならず人的財産も非常に重要になると話す山口社長
信頼性評価事業の検査メニューと一貫提供のためには設備のみならず人的財産も非常に重要になると話す山口社長

―初値の評価は
池田康稔管理本部長:公開価格は2540円で初値が2336円だった。偶然8%相当の手数料を除いた引受価格と同値となった。終日株価を見守るなかで2400円を行ったり来たりという状況が続いている。28日以前から米国の影響もあって、日経平均も少し下がっている影響も多少あるのだろう。

公開価格を下回る初値が付いたスタートだが、決してそれを悲観的に捉えてはいない。今後いろいろな形でIR活動を続けるので、業績の足跡を残すことで、株価についても長いレンジでしっかりと上昇に向けて訴えていきたいという気持ちを新たにした。

山口社長:投資家からの厳しい評価と厳粛に受け止めている。今後、株主からの期待に報いたいその一心だ。経営努力をしていきたい。

―大株主だったライジング・ジャパン・エクイティ第二号投資事業有限責任組合とはどのような関係か
元々、我々がIPOを目指す時に、その当時、創業者がIPOのサポートをしてもらえるパートナーを探していて、その時に選んだのがライジング・ジャパン・エクイティだった。パートナーとして一緒にIPOを目指すなかで、参画した当初から、IPOと同時に全株を売り出す方針だったので、方針に変更があったわけではない。IPOへの活動を始めた時に、未熟な部分というか、理想と現実のギャップをいろいろ教えてもらいながらサポートしてもらい、感謝している。

―ライジング・ジャパンをパートナーとしてIPOを考えた時期は
2018年頃だ。

―パートナーとして参加してもらうことで、IPOが具体的に目標としてあったのか
元々、創業者がIPOを目指しているなかで、更なる成長のためには、もうIPOしかないと決断した時期が2018年だった。

―上場を準備する段階で苦労したことは
準備自体が全て苦労だが、会社のルールを変えるにあたって、社内の意見が10対0になることはない。例えば、年間休日を増やしたが、賛成が多数を占めたわけではなく、反対する者もいた。これからの人口減が叫ばれるなかで、若者に選ばれない会社は枯れていくという考えで年間休日を増やした。

採用の応募人数が増えてきた。上場活動のなかでいろいろと細かいルールを変え、どんどんホワイトになってきた。そうしたことが、若者に選ばれる会社になっていくことだと凄く感じた。この方向性は間違っていない。さらに、今の就職活動は父母がけっこうキーになっている。上場企業か否かでは上場企業を勧める。この面でも凄く優位性があると思う。

―売り出しで、ライジング・ジャパンは株主でなくなるが、今後の関係は
関係性は途切れるが個人的な人間関係自体は途切れるわけではない。

―投資家の間で業績のボラティリティが論点になったが、現状と今後は
池田管理本部長:売り上げの総額は、過去から30億円前後で現在に至っている。2021年6期以降、セグメント情報を開示してきたが、信頼性評価事業の部分については、過去から年率10%弱の成長を維持し、車載産業を中心に伸びてきている。

トップラインがあまり変わっていない背景には、微細加工事業、レーザー事業の低迷がある。過去にiPhoneを中心に大きな受託を得ていたが、iPhoneが液晶画面から有機ELに変わって、我々の顧客から離れ、その穴を埋めようとここ数年間いろいろ経営努力をしてきた。米中摩擦などで、中国の顧客の案件も入ったが、補填できなかった。また、コロナ禍やウクライナ情勢などで、ここ数年で低迷期を迎え、過去と比較して4分の1程度にまで縮小した。

今後、日本の顧客が復活してくるため、信頼性評価事業の堅調な伸びに加えて、微細加工事業も、これから来期以降に巻き返して再成長というフェーズとなると見ている。

営業利益については、2018年、2019年に、微細加工事業が大きく毀損したことと信頼性評価事業での先行投資の負担で赤字だったが、2020年以降に営業利益の改善を図ってきた。特に、信頼性評価事業で売り上げの伸びと連動した形で営業利益を生み出している。微細加工事業についても、非常に固定費率の高い事業体であるため、売り上げが再成長してくれば、その営業利益も加算されていく。着実に伸ばしていきたい。

―微細加工事業の対象市場拡大といったが、この事業の顧客は日本企業なのか
山口社長:エンドユーザーが海外というケースもあるが、基本的には日本のメーカーだ。

―海外のものを請けているというよりは、全体のサプライチェーンの流れで米中摩擦の影響を受けている日本企業の余波を受けているということか
そうだ。

―今後5年ぐらいの売り上げや利益成長のイメージは。パワー半導体市場が2019年から2025年にかけて年平均で23%程度伸びるようだが、信頼性評価事業でこれまで10%ぐらい成長してきた。これからは。
池田管理本部長:信頼性評価事業について、信頼性の試験を顧客がアウトソーシングに出す規模は、2022年に670億円。そのうち300億円相当で車載産業が顧客となっている。そのなかで、今後パワー半導体がEV化で使われていく。2027年の見通しで、信頼性評価事業全体の670億円が1.37倍の920億円になり、300億円の車載事業も450億円ぐらいに伸びていく。

もう1つ、アウトソーシングの比率について、顧客はおよそ半分を内製で対応し、半分を外に出している。ただ、今後の動きとしては、アウトソーシング比率は70%に拡大すると予測されている。背景としては、顧客の研究開発の技術者などが、いわゆる上流の設計やソフトウェアの部分にリソースをかなりシフトし、信頼性の評価は、外にどんどん出していく。

業界そのものが広がることに加えて、アウトソーシング比率が上がっていくという2つの要因で、我々の事業が伸びていく。今後、中長期計画もしっかり検討していくが、業界・市場の伸びに合わせたところにしっかりと食い込んでいきたい。

―営業利益は
営業利益については、信頼性評価事業の部分は、20%を超える非常に堅調な利益率をキープしている。車載を中心に10~15倍に市場が伸びていくことについて、パワー半導体を中心に投資も必要になる。人員や設備への投資も当然必要になってくるが、利益率を毀損しない形で、適切な投資回収の目線で今後も一定水準の利益を確保していきたい。

微細加工事業については前期に22%、今期予想が14.5%で、売り上げが大きく毀損した影響を受けた。今後、売り上げをしっかりと復活させることで、20%以上の利益率を達成したい。この合わせ技で全社的に2ケタの営業利益率を継続して達成していきたい。

山口社長:我々の仕事は社会的な信用力が必要。公平性や透明性、信用性などそういった部分が非常に大事になってくるので、今回の上場を機に、業界初のトップランナーというところで、更なる成長ができると思っている。

―アウトソーシングの比率が大きくなると、今まで内製化していた会社は、そういった部門を売却することになるのか
池田管理本部長:信頼性試験の競合に関して、半導体メーカーなどを中心に顧客の信頼性評価部門が独立して子会社になる動きが1つある。その部分については親会社から子会社にある程度のパイが落ちていく。その部分も含めて、670億円の市場規模となっている。

そういう子会社や部門を持っていない顧客が、いわゆる独立系の当社のようなところに、これから仕事を流していく。既に自分で抱える部門を子会社にしている企業もあり、内部に信頼性試験をする部門を抱える顧客もいる。

電子デバイスを中心にいろいろな試験をしているところ、量が非常に多くなるなかで、顧客も全てが自社で捌けるわけではない。顧客自身のリソースを、いわゆる上流設計系やソフトウェア系に大きくシフトしている状況を鑑みると、当社のような独立系の試験会社に大きく仕事が流れていく点には、一定の蓋然性があるのではないか。

山口社長:信頼性評価という仕事のなかで、第三者機関としての客観性というのは、非常に強みがある。

―パワエレ試験センターの建設に関して、集約して試験能力の増強を図るというが、どの程度増強されるのか
池田管理本部長:能力を現行の1.4倍程度に引き上げてきたい。ピークとなる2025年をターゲットにしている。パワー半導体の世界で20数%伸びていくが、足元でもパワー半導体の部分に関してのシェアが23%で、信頼性評価事業のなかでトップシェアを握っている。

今後、信頼性評価事業かつ車載産業向けに、最も注力していく部分として、今回の上場の資金についてもパワエレセンターの建設費に充てたい。能力と陣容の増強も含め、具体的な作成を練っている段階だ。

山口社長:元々、信頼性試験センターだけでやっていたが、そこでは場所が足りなくなって4号館という場所でも仕事を始めた。そこでも場所が足りなくなって、8号館の3拠点で試験することになっている。機械の設備の能力以外に、人が集約されるのはすごく大きなメリットだ。今は、例えば、1.5人工の仕事が4号館で発生したら、2人が行かなければならないなど無駄が生じている。生産性の向上という意味では集約することに大きな意味がある。

―研究開発部門の今後の展開は
少し抽象的になってしまうが、我々は「未来品質の創造」というスローガンを掲げている。信頼性評価事業というのは、あくまでも事後に起こった事を調べる事業になっている。これからは未来品質、シミュレーションやAIを使って、そういった不良や不具合が起こりそうなものを予見する技術を磨きたい。そのような研究開発がメインになっている。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

関連記事