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上場会見:プライム・ストラテジー<5250>の中村代表、“野良システム”も統合管理

22日、プライム・ストラテジーが東証スタンダードに上場した。初値は付かず、公開価格の1390円の2.3倍程度の3200円の買い気配で引けた。Webサイトを作成・管理するCMS(コンテンツ管理システム)であるWordPressの動作を改善する製品群「KUSANAGI Stack」を提供。WordPressを高速かつ高セキュリティで安定稼働させる実行環境である「KUSANAGI」のほか、Webサイトの表示を高速化する「WEXAL」や戦略AI「Onimaru David」も開発し、出願済み知的財産のライセンスも行う。中村けん牛代表が東京都内で上場会見を行った。

中村代表は事業の特長や収益構造、Webシステムの運用トレンドなどと自社の今後の成長について説明した
中村代表は事業の特長や収益構造、Webシステムの運用トレンドなどと自社の今後の成長について説明した

―初値が付かなかったが、所感は
テクニカルな事情もあるとは思うが、やはりKUSANAGI Stack事業に対する投資家からのかなりの期待であると受け止めている。その期待に応えられるように精一杯取り組んでいく。

―上場の狙いについて、グロースではなくスタンダードでの上場であることも含めて教えてほしい
当社はWordPress専用のインテグレーター(としての活動)が結構長かった。KUSANAGIを2015年に発表したが、その段階からビジネスモデルが大きく、少しずつ変わるようになってきた。

その過程で、取引先が大手の企業、パートナー事業者がグローバルなクラウドプラットフォームになってきて、エンジニアも、今まではWebアプリケーションの開発などをしていく人間が必要だったが、OSやAIの開発をしていくようなハッカータイプのエンジニアが必要になってきた。当社のその時点での社会的な信用や採用上のプレゼンス、取引先との信頼関係にギャップが見られるようになり、それを解決するために上場を考えるに至った。

「利益成長しながらガバナンス体制を確保する」ということは、スタンダード市場に一般的に言われる話だと思う。当社は、知的資本を形成してそこからなし崩し的に収益を実現させていくという考え方の会社だったので、プライム市場やグロース市場と比べると、そういった多様性を受け入れて、自分たちの個性を発揮しやすい市場ということでスタンダード市場を最終的に選んだ。過程としては、いろいろな事情もあって紆余曲折して、元々はマザーズやグロースも検討したが、最終的にはスタンダードを選ぶことにした。

―2019年の秋から2021年の11月期まで売り上げの伸びが平らな感じで、昨年度や今走っている期の見通しが急速に右肩上がりとなってきたのは、マネージドサービスが方向転換するきっかけがあったのか
マネージドサービスの視点では、高速化やセキュリティの目的のために顧客のシステムを保守運用し、1件ずつ契約するタイプのものが元々主流だった。例えば、大学の合格発表でサイトが落ちるとかはあってはならず、メディアサイトは高速か否かが死活問題になる。

今、足元で最も多くなっているのは、事業会社が持つWebシステム、これはWordPressだけではないが、WordPressが3~4割ぐらいでほかのものも全部含めて、例えば数十件のWebシステムを全て一括で統合管理するタイプのものだ。これはデジタルガバナンスやWebガバナンスというが、もう少し分かりやすい言葉で言うといわゆる「野良システム問題」がある。

いわゆるベンダーが放置してしまった、もしくはいなくなってしまった、担当者が異動してしまって稼働しているが、一体誰がどうやって管理しているかよく分からないサイトやシステムは、結構な割合である。実際に当社が預ってみると大変なことになっていて、頻繁にクラッキングされていたサイトなどもあり、そういった社会課題がある。それに対応するのがCMSプラットフォーム統合サービスだ。比較してもらうと分かるが、1件1件の話と例えば数十件というのはケタが違うニーズになる。

我々はAIや自動化技術を使っているので労力はほぼ変わらない。そういう部分で生産性の差が出ている。

―CMSプラットフォーム統合サービスが2021年から2022年にかけて立ち上がってきたので、売り上げの伸びの原動力の1つになったのか
そうだ。KUSANAGIマネージドサービスの黎明期には、私がトップセールスとして3ヵ月間で50商談ぐらい行った。それで年額1億円ぐらいの契約を取ったが、その後伸び悩んだのは、組織や人員構成の問題で失敗したからだ。受注したものの納められない、なかなか良い品質で出せない、プロジェクトが炎上するということが続いた。

人員もかなり入れ替わって、辞めた人間も多かったし辞めさせた人間もいた。紆余曲折と先ほど一言で話した部分だが、そういったことを通過していく過程で、生産性、技術を使ったレバレッジをかけていくことに舵を切った。それがWEXALやDavidという技術に繋がっていくが、それをそのまま社内システムに全部導入した。

それがハイパーオートメーション技術になって生産性が非常に上がった。生産性が上がるとキャパシティが空く。その分受注を取って納められるという順番になってくる。それが足元の状況だ。

―競合の認識について
直接競合する先は、いわゆるCDN(Content Delivery Network)事業者だ。Fastlyやアカマイ・テクノロジーズなどのCDN事業者は、いわゆるキャッシュを使うタイプの高速化技術を用いたサービスを提供している。一緒に仕事をする場合もあるが競合になる場合がある。

―3~4年前の話になってしまって、今どういうことになっているかというのもあるが、メディア企業、もしくはメーカーなどいろいろなところでオウンドメディアを閉じる動きがあったと思う。野良システムの話も含めて、そういった事象はビジネスとの関わり合いではどのような影響があるのか
オウンドメディアを閉じるという話を含めた、いわゆるWebメディアがここ数年縮小傾向になってきているのは当社の肌感覚としても合致している。元々紙から電子という流れがあるなかで、電子1本でやっていく、屋台骨を支えていくことはできないという状況に、この2~3年ぐらい前から各メディア大手から中小のオウンドメディアのところまで流れが広がっていて、我々としてもメディアの顧客の比重は年々低下傾向にあるという影響はある。

―それに勝る需要がほかの業界やセクターからあるということで、今後も成長していける見通しか
それはCMSプラットフォーム統合サービスの話で、野良サイトの問題だけの話ではなく、自動化の技術に関するニーズの大きさでもある。Webシステムは世界中のあらゆる所に点在している。それを集約するのではなく、遠隔制御自動化技術を用いてコントロールすることによって、そのままガバナンスやセキュリティなどいろいろな課題を解決できる。自動化技術のニーズの広がりが背景にある。

―TAMの広がりについて。KUSANAGIマネージドサービス単体でも、ライセンス事業やハイパーオートメーション事業を含めてでも構わないので教えてほしい
マネージドサービスの部分だが、年間でおよそ1600億円程度の市場規模と認識している。これは当社の平均の顧客単価と潜在的な顧客数とを掛け合わせる、もしくは、足元の成長エンジンになっているのはCMSプラットフォーム統合サービスだが、これが大手の事業者で年額2億円弱。例えば仮に平均で1億円弱とした時に、上場企業のグループの約半数程度が最大限と考えると、おおむね似たような水準で1600億円前後になると考える。

ライセンス(事業)は、これも同様の考え方で、グローバルなものになるが、先の1600億円は、当社がリーチ可能な国内のマネージドサービスの保守運用のマーケットサイズというニュアンスだ。国内では大体1億円のライセンス、特に知的財産を提供していて、そこから計算すると、グローバルで年額1200億円程度のマーケットがあると考えている。
特に、北米での今年の夏以降の展開を見ると、ライセンスは国境による障壁が非常に低い。かつ特許が実現できるとなると、北米の市場は日本の15倍程度の大きさがあるので、その辺りへの導入を見込んでいる。

ハイパーオートメーションに関しては、現段階では市場規模という水準で当社のリーチできるようなスコープをまだ想定していないが、今言ったような1つの柱になるような水準(となる)。なぜかというと、ハイパーオートメーションを実行した時に、最終的な実行環境はKUSANAGI(を利用すること)になる。KUSANAGIのマネージドサービスなどに、全く別の用途で同様の需要が生まれることを考えると、保守運用のサイズと同等程度(の市場規模)は見込める。

―ハイパーオートメーション事業が現時点でどのようなものになるか完全には明らかにされていないが、同様の事業は他社も取り組んでいるようだ。競合優位性になりそうなものは何か
私が実際に実現しているハイパーオートメーション技術とその効用を解説している動画をYouTubeで2本ほど上げている。「中村けん牛、ハイパーオートメーション」で検索すると出てくる。両方1時間ずつあるので、時間があればそれを見てもらうのが1番詳しい。

何をやっているかというと、当社は採用活動でダイレクト・リクルーティングの手法を使っている。一般的にダイレクト・リクルーティングがどうやってなされているかというと、毎日条件に合うような人たちを検索して、履歴書やプロフィールを確認し、その人をスカウトするかどうかを判断していると思う。当社が行っているハイパーオートメーション技術の活用例としては、このダイレクト・リクルーティングの部分を全てAI(による)自動化で実現させる。今、休職しているエンジニアのデータが30万件あって毎日更新されるデータベースがあって、(AIの)「David」が(必要な人材を)見つけてきて、人事に対して指示をするので、その部分の当社の業務がなくなった。

また、足元で進んでいるのは、資本業務提携先の1社でイントラストというプライム市場に上場している保証の会社がある。「保証テック」にAIを導入して、ハイパーオートメーションを用いて審査業務などの自動化を共同開発することを公表している。

―今夏に国際特許が成立する見込みで、例えば向こう3年ぐらいで、海外売上高比率はどのぐらいまで増えるのか
ちょっと難しい質問で、あまり大きな事を言うなと言われている部分だが、事実としてあるのは、市場規模が大体15倍ぐらい違うということだ。これは単純に北米が大きいというだけではなく、英語圏の中心が北米になっているために、ホスティング事業者の金額が集中しているのが北米になっている。当社が今大手の国内の2社と契約している額は年間1億円だ。ほぼ同じ状況を仮に北米で導入した場合には15億円ぐらいになり、当社の今の売上高を超えるような水準になる。それは中長期的に目指している話なので利益計画に入っていないが、それがどの程度足元の利益計画や、1~2年内に見込まれるかという点で比率が変わると見ている。

―関連して、国内はどちらかというと、ハイパーオートメーションのエンジンを活用したビジネスの比率が高まり、海外はライセンスの売り上げがメインになってくるということか
イメージとしてはそうだ。

―さらに将来には、ハイパーオートメーションのエンジンを使った海外展開もあり得るという方向性か。ビジネスの形態には国内と海外とで時差があると思うが、海外、特に北米の展開を常に視野に入れつつ、弾を込めていくのか
その通りだ。

―ハイパーオートメーションや自動化技術を推進するに当たって採用は増やしていくのか。それともハイパーオートメーションを浸透させて、間接費を抑えていくのか
二極化していくことになると思う。タスクレベルの処理を行うエンジニアの需要は、当社としては下がってきている。それはもうAIがやる領域に変わってきている。今必要な人材は、そういったハイパーオートメーションやAIの開発ができるような、一昔前にはハッカーと呼ばれるような人たちのニーズは非常に上がっている。ニーズがあるのかといえばあるが、対象となる人材像やセグメントが変わってきている。

―ハッカークラスの人材に対してどのように訴求して呼び込みたいか
今、当社が行っている採用の手法自体が、ハッカーが興味を持ってくれる採用の仕方で、自分が例えば採用面談の時に話をすると、「あなたはAIに選ばれた人だ」という話を聞く機会はなかなかないと思う。(他社では)みんな人に選ばれて面談に来ているが、当社ではAIをDavidと呼んでいるが(AIが選ぶことで)「Davidの子供たち」(となる)。

(業務の)中身としては、ハイパーオートメーションやOS、AIの開発は、ハッカーの人たちに非常に興味を持ってもらえる内容だ。そういった意味では、今回の上場も相俟って人を集めやすい環境が整ってきていると感じている。

―中途採用が中心か
基本的に中途だ。ただ、新卒・中途という概念がないだけで、当社のハッカーの1人は、20歳台前半で、大学在学中に当社に入社しており、高校1年生からアルバイトをしていた。大学在学中に入社しているが新卒の採用ではない。新卒か否かに関わらずハッカーなので採る。そのほうが良い人材が採れると思う。

―KUSANAGIや「Onimaru」といった和風のネーミングは、どのような思いからか
日本発のグローバルなソフトウェアということで、日本語の和風の名前が良いというのは最初からあった。

―KUSANAGIという言葉への思いは
KUSANAGIは三種の神器の1つである草薙の剣であって、「草薙沙耶」というマスコットキャラクターが持っているのが草薙の剣。切れ味が鋭く「高速でセキュア」だというイメージを想起してもらいやすい。村正や政宗といった刀剣も考えていたが、商標の関係上で使えなかったので、日本古来の剣の名前ということで草薙をモチーフとした。

―株主還元の考え方は
当面は利益率、成長投資と健全性確保のためには、それを重視していきたい。当社はまだ配当したことがない。役員賞与もない。利益処分を今まで1度もしたことがない。この先は成長投資と健全性を確保することになるが、次に、例えばハイパーオートメーションみたいなところの投資が一巡したら、そのフェーズであれば、配当や株主還元のための、場合によっては自社株買いも考えている。その時のレートは、例えば30%といったような配当性向ではなく、性格もあるかもしれないが基本的にゼロなのか1なのかという話だと思う。つまり必要な成長投資や健全性のために確保している部分以外は、全部返すべきだ。逆に必要であればそこはもう1円も分配しないという考え方になる。100%か0%のどちらに寄せるかという考え方になる。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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