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上場会見:PRISM BioLab<206A>の竹原代表、創薬領域を開拓

PRISM BioLabが2日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の450円を8.67%上回る489円を付け、569円で引けた。独自の「PepMetics技術」を用いた新薬開発のために、2006年に設立。PepMetics化合物でペプチド(アミノ酸が複数つながったもの)をつなぎ、それらを重ね合わせることで多様なヘリックス(螺旋)構造を模倣したタンパク質を作り出す。細胞内でタンパク質が発する「疾患に関連するシグナル伝達」についての「細胞内PPI(Protein Protein Interaction=タンパク質間相互作用)」を制御して治療する薬品を開発する。AIを使って有望な化合物の探索も行う。竹原大代表が東京証券取引所で上場会見を行った。

プラットフォームに集積した化合物のデータを使うことで、合成する前から、8割あるいは9割以上の確率で物性(例えば、水溶性であるかあるいは分解のし易さなど)を予測することができるようになっていると話す竹原代表

―株価について。予想の株価よりかなり高くなっているかもしれない。今日は全体的に株価が上がっているだろうが感想を。時価総額200億円に達したということについてもコメントを
我々からコメントできるものではないが、まずは公開価格よりも本当に高く評価してもらえたことについては大変ありがたい。株価を語るうえで、どのようなタイムレンジで物事を考えるかがすごく重要だ。将来的な方向性としては、グローバルにインパクトのあるバイオテックになっていきたい。現在、我々をこのように評価してもらい大変ありがたく思いながらも、今後はより大きく評価してもらえるように結果を出していきたい。

―目指しているベンチャー像は
我々は、創薬領域を作り出していく可能性がある創薬技術(を持つ)と考えている。国境もないし、グローバルにそうしたことをしてきた実績がある会社が、現在とても大きくなっているが、そのようになる可能性は十分あると思う。そのためには、サイエンスももっと深めていく必要があり、優秀なサイエンティストに集まってもらわなければならない。日本の優秀なサイエンティストたちが集まる場にしていきたい。

―このタイミングで上場した理由は。ベンチャーキャピタル(VC)との協議や要請があったからだろうが
バイオベンチャーの場合は、ある意味、育ての親にあたるVCから今までリソースを提供してもらってきており、常にできるだけ早く上場することが求められている。それに加て、我々としても少しでも早く長期的な視点で投資をしてもらえる人たちに持ってもらう意味では、パブリックなマーケットから調達するほうが健全だろう。人材も最近本当に良い人たちがたくさん入ってきてくれているが、上場することによって、より良い人に早く入ってきてもらえるようにと、できるだけ早いタイミングでという形で進めてきた。

―PepMetics化合物の骨格になる物質はそもそもどのようなものか
飽和性・二環性の化合物になっていて、ペプチドの骨格を架橋してくっつけるものだ。ただ、ペプチド結合は使っていないので、物性としては低分子になるが、効果としてはペプチドと同じような効果を持つ。

―PPIへの結合関与具合について、結合する部分は、タンパク質がヘリックス構造を持つ部分が60%を占めるが、ほかの2種類のシート構造やターン構造について研究は進めるのか
現在、我々のフォーカスとしてはヘリックス構造で、ターン構造もヘリックス構造に似ているので、ヘリックスとターンを中心にしている。シート構造は低分子ではかなり難しい。それはどちらかというと、サイクリックペプチドなど大きい分子のほうが向いていると見ている。

―PepMetics技術を使う創薬について。肝硬変による線維化して硬くなった細胞が元に戻るとのことだったが、素人から一見して不可逆的な病変が進むような疾患に効果のある医薬品は、かなり作ることができるのか
これはバイオロジーの領域になってくるが、従来狙えなかった標的が狙えるということは、そういった可能性も出てくるのではないか。今回、肝硬変の線維化が元に戻っている状況も、Wntパスウェイ(ウィントシグナル経路)が繊維化に深く関与しているが、それを選択的に制御できるのが我々の薬の特徴だ。そういったことによって、今まで得られなかった効果が得られている。あとは標的次第なので、どういった標的を選ぶかによっては、治せなかったものも直せる可能性はある。

―創薬アプローチで、(細胞の成長・分裂を制御する酵素である)キナーゼ阻害剤と比較しているが、今後、キナーゼ阻害剤に取って代わる技術になるのか
創薬技術については、ほかのものを全部取ってしまうとか、これ1つあれば全部できるというものはないと感じている。例えば、PPIを狙うにしても、我々のモダリティーが適しているものもあれば、最近ではサイクリックペプチドでも細胞のなかに入るような技術もできているので、そちらのほうが適している標的もある。標的ごとに最も適したモダリティーは違ってくるだろう。我々としては、最も得意とする標的を選んで早く進めていく。必ずしもキナーゼ阻害剤の代替になるわけではない。

―いろいろな疾患に対応できるとのことだが、優先していく疾患領域や、なじみやすい標的分子は
疾患領域については、当社では今のところは特に限定していない。ただ、全部のリサーチをするのは大変なので、今までの実績からは、がん領域も多いし、線維症もやっている。ほかにも慢性疾患がいくつかスタートしている。

―導出する時の市場性の判断によるのか
そうだ。もう1つの大きな戦略は、我々の技術は、従来創薬できなかった領域を攻められる。そうするとしばらく前に流行った言葉で言うとブルーオーシャンだ。どういう戦略が最良かというと、“low-hanging fruit”と言うが、もしできるのであれば、成功確率が高く、皆が欲しいものが良い。これがレッドオーシャンでは、皆がやっているから競争倍率が高いが、ブルーオーシャンなので誰もやっていない。我々が選ぶ標的は、製薬会社が「こういうのができたら良いな」、「この標的だったら、かなりサイエンス的にも確からしい」と思っているもののなかで、低分子が見つからなくて皆苦労し、臨床試験で失敗している領域のほうが大変ありがたい。そこで早くものを作ることによって成功確率を高めていくのを、現在の戦略にしている。

―化合物ライブラリーの規模について確認したい。理論上は2億5000万種類の組み合わせがあり、現在構成できているものが2万種類、2024年の秋までに2万5000種類までに拡大していくのか
そうだ。

―現在の取り組みで、AIを使って物性予測をしているが、それを予測することで合成して何ができるようになるのか
メディシナル・ケミストリーというか、合成をするうえでは、活性と物性は2つの柱になり、活性を上げながら物性も維持・改善していく。そのなかで、AIで先に予測できれば、合成する効率(が上がる)。可能性のある化合物だけを合成することで生産性は極めて高くなる。活性についても、AIによっての予測も100%当たるわけではないが、少しでも情報が多いほうが、生産性が上がる。これを突き詰めながらトータルでの創薬の生産性向上を目標にしている。

―合成効率を上げるとは
合成する数を少なくしても結果が出る。合成自体の生産性というよりも、できる限り少ない数で良い化合物を見つける。そのために事前の情報が役に立つ。

―成長戦略の時間軸について。3年後や5年後、あるいは10年後ぐらいで、どの程度の収益を目標としているのか
時間軸を明確に示すことはなかなか難しいが、我々は既に契約しているものについては、進捗するに従ってどんどんリターンが大きくなってくることを期待しているし、共同研究開発の新しいプログラムは、できれば毎年1つか2つは増やしていきたい。自社開発のものがリターンとしては最も大きくなるだろうが、これについては、1つの目安として、それぞれのプログラムが、開始から臨床開発まで行くのに3~5年程度と見てもらいたい。既に進んでいるプログラムもあるので、それがどの段階でライセンス可能になっていくかについてはできるだけ早く、そのようなところまで持っていきたい。

―自社開発と共同開発とのハイブリッド型のモデルだが、共同開発を先行させるイメージか
現在、プログラムの数では共同開発のほうが多くなっている。ただ、自社開発についても継続的に毎年2つぐらいは新しいターゲットを加えながら、当然全部が前に進むわけではなく、途中で止まるものもあるので、数年に1回は臨床候補化合物が出せるように進めたい。

―自社開発プログラムを年に2本程度増やすとのことだが、5年経つと10本になるのか。
全部が前に進むわけではない。例えば、標的を選んでも、それがまずHit(化合物)まで本当に行くかどうか。それが今度はリード化合物に行って、リードから(次の段階へ)という3つほどのステップに分ける。それぞれで先に進める確率があるので、理論上は並行して4本程度を走らせる形になっていくと見ている。

―4本程度というのは、臨床入りしたものが4本なのか
例えば、2つ始めて、次の年にそのうちの1つが生き残る。またその次の年にやって成功確率がかかっていくので、毎年2つ始めても常に走っているのは4~5本ぐらいだ。そのなかのいくつかが最後までたどり着いて、ライセンスに至る。

―外部のサイエンティフィック・アドバイザリーには、どのタイミングで意見を聞くのか
今、最重要視しているのは、自社開発プログラムで創薬標的を選ぶところだ。この標的に対して3年から5年で数億円の投資をしていくという時に、それが適切な標的なのか否か。ここを間違えてしまうと、一生懸命に良い化合物を作っても、製薬会社が興味を示してくれない。そうするともう死んでしまうので、そういった意味では、それを担保するためにやっている。

―既に2品目は標的も選んでいるので、次の自社開発の新しい標的のために(意見を聞いている)
本当に活発な議論をしてもらい、自社のサイエンティストが考えていたものに対して、(アドバイザリーの)意見を基に修正していることもあるので、本当に大変ありがたい。

―PPIに関して。基本的に疾病の治療に関するものだろうが、シグナル伝達に作用するということで、将来的にはその技術を応用して、予防あるいは健康の維持・増進など、違った形の創薬を行う可能性はあり得るのか
予防の面もそうだし、老化に関するところだ。先程のWntパスウェイは、老化に関与していると言われている。疾患と老化は、どこからが病気でどこからが加齢なのかはなかなか難しい部分だ。そういった領域でも、効果があるものは可能性としては十分にあるだろう。ただ、我々の現在の経営の重点という意味では、重大な疾患を持つ患者に少しでも早く薬を届けることに力点を置いている。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]