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上場会見:JX金属<5016>、半導体・情報通信が成長の核

3月19日、JX金属が東証プライムに上場し、林陽一社長が東京都内で上場会見を行った。初値は公開価格の820円を2.80%上回る843円を付け、874円で引けた。日立鉱山として1905年に創業。「ベース事業」である金属製錬や加工などの資源事業に加えて、半導体材料や情報通信材料などダウンストリーム(川下)の電材加工事業を「フォーカス事業」と位置付けて注力している。半導体の薄膜形成に用いる金属材料「スパッタリングターゲット」は世界で6割のシェアを持つ。

投資家の期待に事業成長で全力で応え、見合ったリターンを返していきたいと話す林社長

■ブレイクスルーに商機
―初値も終値も公開価格を上回ったが、どのように受け止めているのか
高い評価を得た。これはスタートであって、この評価を裏切らないように、我々が示してきた成長の路線を実現していきたい。

―株価870円は実力値を表しているのか。それとももっと高める努力をするのか
実力値かは答えにくいが、少なくとも820円の公開価格で出てきて、それよりも高い評価を得たことは、素直に期待の表れであろうと見ている。

まず、その期待に応えなければならないし、株価がさらに上がり付加価値が高まることが目指すべき方向なので、全力でやっていくだけだ。

―年末には株価がいくらぐらいになっているのかという考えはあるのか
株価については特に考えていない。目指すべきストーリーを示して、進捗についてどう判断されるかが重要だ。その結果が株価かもしれないが、株価の決定にはそのほかの条件もある。それに一喜一憂するよりは、我々がやっていることに対しての評価をきちんと聞く機会を設けて、投資家の意見を知り、できていないものを直す。できているところについては評価を確認し、それを自信にして次につなげる。

―株式市場の環境が芳しくない背景には、米国の半導体規制のほかに、中国の低コストAI 「DeepSeek」の台頭を指摘する向きがかなり多い。低コストAIによる事業への影響は
いろいろな話題を呼んだのは事実だろうが、新しい技術ではデバイスがどんどん変わる。その点では非常にポジティブに捉えている。最先端のものが動くことに対する影響について議論もあるが、技術革新が進んでいくので、我々の材料も採用される。DeepSeekも半導体を使わないわけではないので、その部分については直接的な材料供給がある。

さらに、新しい技術が汎用的に動く時はどこかでブレイクスルーが起こる。DeepSeekのようなブレイクスルーが起こることで、デバイス側にそういうものが一気に搭載されるようになると、我々にとって大きなメリットになる。

■市場の声でスピード成長
―上場の目的とこのタイミングとなった理由は
2019年に長期ビジョンを発表しており、装置産業型企業から技術立脚型企業へ転身する。そこで成長のコアと位置付けたのが、半導体・情報通信材料分野だ。我々が属しているENEOSグループは装置産業の雄とも言える会社で、それとはかなり違う方向を目指す。

そこではいろいろな経営判断がある。どちらが良い悪いというのではなく、判断の基準も、投資の規模やスピード感も異なる。さらに成長するためには独自の判断が必要だろうといろいろ整理し、今のタイミングでの上場に至った。

―なぜ装置型産業から技術立脚企業への転身を目指すことになったのか
茨城県日立市で日立鉱山からスタートした会社であり、装置型産業としての資源・精錬、そこからダウンストリーム部門に進出して情報通信材料、半導体材料と歩を進めてきた。

長期ビジョンを検討した時に、資源事業と精錬事業、ダウンストリーム事業の環境や成長性、経営資源を検討した。2040年のターゲットと、その先も企業として存続・成長し続けるには、情報通信・半導体材料に賭けることがその可能性を最も高めると判断した。

これらを成長のコアと位置付け、資源・精錬は成長事業に対してサプライチェーン上、原材料をしっかりと供給する位置付けに変えていこうと決めた。

―これまではENEOSグループ傘下にいて、今後は単独で歩むが、そのメリットとデメリットは
デメリットはあまり考えていない。メリットは、目指すべきビジネスモデルが変わっているので、それに見合った判断ができる。マーケットに直接立つので、厳しい意見に晒されるリスクもある。

それをデメリットと捉えることもできるかもしれないが、専門家の目線でいろいろな事を言ってくれる投資家やステークホルダーの意見を直接聞けることで、より速いスピードで成長できると見ている。それがリスクでもありメリットでもある。

―1998年に前身の日鉱金属として東証1部に上場していた。今回JX金属として新規上場したが、その間の成長や上場が持つ意味合いは
1992年の日本鉱業での石油事業と金属事業の分離の時から、「金属単体で上場する」という強い意志を経営陣が持っていた。特に精錬・資源事業での資金調達や成長に上場は必須として、構造改革と銘打って1998年に上場した。

今回の上場で半導体材料や情報通信材料のグローバルリーダーを目指すが、成長のためには上場が最も望ましく、前回同様に構造改革で基盤を強化しながら上場した。

それぞれの目的は若干違うが、成長に必須であることを全社的に認識してきたことや、企業として存続するために必要なタイミングで必要なチャレンジをした点では、同様のことだと感じている。
上場までの間の構造改革という言い方をしたが、ポートフォリオの入れ替えを除けば、企業としてやるべきことを、さらにスピードアップして行う習慣を付けることも改革の内容で、それをより早く強く進めていく。

―成長のために上場が必須とのことだが、株式市場を成長のために具体的にどう活用するのか
1番重要なのは、会社のことをきちんと評価する投資家やステークホルダー、専門家に見せることで、いろいろなアドバイスや意見、苦言もあるかもしれない。情報も増えるので、そういったことをいかに活用できるか、と考えており、これが市場に出るメリットと感じている。

厳しい環境に置かれることは覚悟しているが、そこで得られる情報に応え続けることで、より強く、早く成長できる。今の体制では、大きな傘に隠れている部分があるので、評価も正当にされないかもしれない。一方で、厳しい指摘も受け、本来であれば成長しなければならない部分を明らかにする点に、IPOの意味がある。

―社員に対して発したメッセージはあったのか直接伝えたものはないが、今伝えるとすれば、上場に向けて構造改革プロジェクトと銘打って約2年間、マネジメントがどのようなことを考えているのか最初は十分に理解されていなかったが、粘り強く説明し、社員がそれに付いてきてくれたことに感謝したい。それがなければ上場できなかった。

もう1つ伝えたいのは、上場することによってこれまでよりさらに強く成長できると信じているが、一方でステークホルダーである専門家や顧客、いろいろな人々からの直接な意見や情報が入ってくるので、これまで以上に自分たちがしっかりしていかないと、あっという間に見放されるリスクも負っている。

そういったことを互いに肝に銘じながら、さらに成長したい。その実りが社員への対価として実現できる会社にしていきたい。

―東邦チタニウム<5727>と親子上場になるが、今後の関係は
親子上場について非常に厳しくなってきており、上場する際にも関係性を含めて東証と議論した。将来について何かを約束することは言えないものの、東邦チタニウムが我々にとって意味があるという点を挙げると、チタンの半導体用ターゲットは、東邦チタニウムの高純度チタンがあって製造できているというシナジーがある。

そのほかにも技術的なシナジーがあるので重視している。そうしたことも踏まえつつ、お互いにとってどのような関係がそれぞれの成長に最良なのか議論しながら、最終的な方向性を決める。

■半導体は回復基調
―目下の経営・事業環境の認識は
半導体・情報通信材料では、一昨年から昨年にかけて、サプライチェーン上の在庫調整が続くなか、特に半導体は景気循環に伴って需要が落ち込んだ。全体として半導体材料も情報通信材料も足元は回復基調にあり、特に最先端の部分は強い。最先端の生成AIやAIサーバーなどに使われる半導体が力強く動いている。

一方で、いわゆるボリュームゾーンの、汎用的な電子機器に用いられる半導体デバイスについては、最終消費が回復途上にある。2025年半ば以降、例えば、windows10の更新時期が来る。新しいデバイスにAI機能が乗り始め、さらに言えば半導体各社の新工場が稼働することも合わせて、成長路線に戻ることを期待している。

―ポートフォリオ戦略を確認したい。業界を見渡すと国内外でM&Aが頻発しているが、半導体材料メーカーとしてどう差別化するのか。薄膜や成膜に特化して事業を深掘りするのか、ポートフォリオを広げるのか
半導体の分野ではいろいろなM&A的な動きがあることを認識しているが、当社は今持っている技術を活かせるグローバルかつニッチで圧倒的なトップに立てる分野を狙う。配線材料などに強いのは事実だが、リソグラフィー向けなどいろいろな材料・技術を持っているので、そこにこだわることなく展開したい。半導体用ターゲットメーカーになりたいわけではなく、半導体材料メーカーを目指しており、それに必要な技術は、かなり多く持っている。

「先端パッケージ事業推進室」を作ったが、我々の材料は半導体製造の前工程に強いが、後工程も注目されている。例えば、日本の企業といろいろな擦り合わせを行うことで提携し、コンソーシアムに参加することで、「こういう材料はこういう分野で使える」という技術同士の相対的な関係を表すマップを既に持っている。次世代の製品につなげていける活動も行っていきたい。

―半導体材料セグメントでは、半導体用ターゲットの事業規模が最も大きく、次にエッチング関連だろうが、それに続くその第3の柱がいくつかある。売上・利益に貢献する効果が最速で出る期待値が高いものを敢えて1つ挙げてもらえるか
表向きにあまりアピールはしていないが、ハードディスクドライブや記録に使われる磁性材料用ターゲットを以前から手掛けている。これもAIサーバーの記録部分に使われていて、この1年でボリュームが1.5倍ぐらいになっている。リソグラフィー材料でも期待できる製品を持っており、3~4年の間に一定の規模になり得る。

―製品の最終用途例に、サーバーとウェアラブル製品、スマートフォン、自動車があるが、先端材料を扱うことに対して、自動車分野はレガシーのイメージが強い。シナジーはあるのか
情報通信材料系では、モビリティ分野は非常に期待できる。車の電装化がさらに進み、コンポーネント系もそうだが、自動車は電波を発信する大きなスマートフォンのようなものになっていく。そこで、電波の漏洩を防ぐ機能も必要になる。

車は、熱を帯びて振動もするので、そういった機能を維持しながら高い性能を保つためには例えば、我々の圧延銅箔のようなものが採用されるなど、いろいろな機会がまだある。

■結晶材料と薄膜技術
―フォーカス事業向けに新工場を茨城県ひたちなか市に建設し、2025年度中の試運転を目指しているが、新たに具体的な投資はあるのか
半導体材料では、北茨城市にある磯原工場がメインファクトリーだが、生産能力や規模がいっぱいになってしまった。ひたちなかの新工場はセカンドマザー工場で、かなり大きな土地と建屋があり、この土地で半導体材料を展開する。

米国アリゾナ州のメサ市に新工場をすでに建設したが、そこを北米の半導体材料の一大拠点にしていきたい。今のところはこの範疇で設備をどう入れるのか、半導体用ターゲットだけでなく、成長する製品の配置を検討していく。

―スパッタリングターゲットは、AIサーバー向けに伸びが期待されるが、「巨額の投資に対してのリターンが本当に得られるのか」との議論がある。懸念はないのか
顧客の状況も見ながら投資しており、2020~2021年に皆が威勢よく新規工場や投資を発表した時から少しずつずれてきているのは事実だ。我々も土地と建物はセットしているが、装置はそれに合わせて少しずつずらし、逆にもし早くなるようであれば装置を早めに入れることも可能だ。装置自体のコストはそれほど大きくないので、十分に当初の投資の効果を得られる。

―技術開発・取得でどのような分野で重点的に投資するのか。例えば、AIが話題だが光デバイスや量子コンピューターなどJX金属が関連する分野も台頭してきている
中期的には、保有しているインジウムリンという化合物が一定程度マーケットに出て実際に動き始めているが、結晶材料の光通信に関連する。この成長がかなり急速に進むと見ており、我々の材料もそこに採用されているので、そうした分野に投資する。

半導体材料については、半導体用ターゲットのいわゆるPVD(Physical Vapor Deposition)方式の次の方式で、CVD(Chemical Vapor Deposition)やAlD(Atomic Layer Deposition)といった細く深い配線を形成する薄膜技術がある。それらについても我々は量産の製品を出しており、さらに伸びると見ている。

この2つの分野は投資が出てくる。そのほかでも幅広い半導体材料のメーカーになりたいので、既存技術に加えると可能性が高まるものや、擦り合わせると新しい可能性が出る領域に対しては、買収や業務提携を併せて考えたい。

■高付加価値を効率よく
―上場を機に、資金のみならず人材や物的資源も、フォーカス事業に明確に配分するのか。外部から見ても「JX金属は変わった」という姿を想像しても良いのか
ベース事業とフォーカス事業について、人材の側面を切り取って答える。ベース事業は装置産業型なので、全く無駄がないとは思わないが、人手はそれほどかからない。一方で、フォーカス事業は、装置よりは人や技術に力点があり、そこに多くの人が関わっている。

ベースからフォーカスへの人の移動がないとは言わないが、フォーカス事業のなかで付加価値がより高い分野に人を振り向ける。そこで成長して、十分に利益が出ている事業であっても成長が難しいものがあれば、そういったものは外に切り出すことができる会社になるのが理想だ。

技術立脚型企業だから人が多くて良いわけではない。いかに優秀な人材、少ない陣容で高付加価値製品を作るのか、それだけではなく、いかに効率良く作るかにも力点を置きたい。そこで「変化が見える」と言ってもらえるようになれば、目指すところに近付いているということだ。

―構造改革でやってきたことはそれなりに成果が出ており、さらにブラッシュアップするのか
その理解で良い。ブラッシュアップし続けるのがあるべき姿だ。

―M&Aの方針は
当面、事業を拡大するためにほかの会社を買収する大型のM&Aはあまり考えていない。どちらかといえば、我々が持っている技術の周辺技術を持っている会社や、新事業を進める過程で「この工程があるとブレイクスルーができそうだ」という技術を持つ会社について、比較的小さなM&Aは短中期でも十分に可能性がある。そういった枠取りは今もしている。

■銅精錬の行方
―精錬事業がコア事業向けのサプライチェーンの役割を果たすとのことだが、条件が悪くなり、長期的な改善の見込みがないなかでテコ入れをするのか。例えば、他社と協業する可能性はあるのか
銅鉱石を主体にした精錬事業は、精錬会社が鉱山会社から購入する際に支払うTC(Treatment Charge=溶錬費)/RC(Refining Charge=精錬費)が悪化してかなり厳しくなっている。

これは長期的に続く可能性も十分にあり得るので意識している。そういったことも含めて、当社はリサイクル事業に舵を切ってきた。そうすることで精錬の事業性をより高めていく。

それから、半導体材料とか情報通信材料を扱うフォーカス事業で使う材料は非常に限られていて、ボリューム的にはそれほど大きくない。精錬事業はリサイクルを中心に、より高効率な運営を目指す。

銅のリサイクルでは、レアメタルが不純物として回収され、フォーカス事業に対しても有益だと見ている。投下資本効率の良い形でリサイクルを中心に進める。

―ベース事業である銅の精錬事業でTC/RCが低迷しているが、中国では生産調整の動きが見えている。JX金属は日本で最大手だろうが、地金の生産調整は
確かにTC/RCは非常に悪くなっている。特に中国は、日本の精錬会社よりもさらに若干悪い条件で取引しており、銅精錬だけの生産なので、影響が直撃しているのだろう。我々はリサイクルを既にやっており、そのメリットがある。

当社は銅鉱山権益も持っているので、TC/RCはそこで一定程度相殺される。さらに、足元は金価格がかなり上がっているが、副産物として取れるプレシャスメタル(金や銀、白金族の6元素)やレアメタルの価格も我々をサポートしてくれる。短期的には影響がゼロとは言わないが、鉱山経費の分と合わせると、それほど大きな影響はないと想定している。

―リサイクルに軸足を移すと伝統的な銅精錬は縮小し、撤退もあり得るのか
リサイクルの比率を上げると、銅鉱石の比率を落とすことになるので、バランスは変わってくる。そもそも今の日本の電気銅は、国内で全て消費されているわけではない。そういった銅の行き先も含めて、どのような体制・規模で銅精錬を運営するのが1番効率的なのか、高効率な銅精錬所を目指したい。利益率の高い精錬所に舵を切っていく。

―資源事業についても聞きたい。かつてチリのカセロネス銅鉱山という大きなプロジェクトがあり、今も権益をもっているが、上流の支援は行わず、レアメタルにフォーカスするのか
資源開発は、半導体材料と情報通信材料を支えるためのサプライチェーンと位置付けている。

銅のボリュームは大き過ぎるので、そこで権益を求めるよりも、半導体材料に使われるレアメタルのサプライチェーンをいかに確保するかを中心に考えなければならない。

■中国とトランプ政権
―中国が昨年以降、レアメタルの輸出について規制を強化しているが、半導体材料の事業を展開するうえで最も懸念していることは
我々の半導体関連事業では、銅などのベースメタルも含めて40種類を超える金属を使っているので、当然いろいろな影響が出てくる。自分たちで資源を開発し、リサイクルで回収するのはもちろんだが、中国からしか採れない物について代替供給先を確保することも過去から考えて始めている。総合的に取り組みながら必要な原料を確保していく。

―トランプ政権が鉄鋼やアルミに関税をかけることを発表したが、関税政策が事業に与える影響について
難しい質問だが、例えば、半導体関係でもそうした関税についての議論があると認識しており、いろいろな面で影響が皆無だとは思っていない。ただ、トランプ政権がその関税を使って何を取りに行きたいのかは各国毎にかなり違うことが見えてきた。

それが日本にとってどのようなことを意味するのか見極める必要がある。半導体材料事業では、米国に工場を持ち拡張しているので、どういう形になったとしても、その拠点をうまく活用することが対応のカギになるのではないか。

―トランプ政権が、銅の輸入量増加に関する調査を指示しており、銅の関税強化につながる可能性がある。米国工場の活用が影響回避のカギとのことだが、仮に、関税の対象品目が細かく決まって、関税の対象になった場合でも工場があるから心配ないのか
米国に工場を持っていることは、米国製であることがどう見てもらえるかということなので、米国でどこまで製造するのか、それが1つのカギになる。

我々は日本のなかに技術を残したいので、メインの工程は基本的に日本でやっているが、関税対応としてそういったことが必要になるのであれば、技術を流出させないようにしながら考えるのは1つの手段だろう。

―今日(3月19日)は日銀の金融政策決定会合の結果が発表され、政策金利は据え置きだが利上げは進んでいくと見る市場関係者が多い。利上げが進むと資金調達や財務戦略に影響はあるのか
我々は半導体材料メーカーにしては有利子負債が大きい。中長期的にはその改善に努めるが、金利が上がることはコスト的にはマイナスになるので、それに耐えられる財務体質を作る。そのうえで、マーケットに出て多様な資本取引を使えるようになるので、調達手段については、そうしたことも踏まえて柔軟に進めていく。

■ポートフォリオは柔軟に
―2025年3月期が間もなく終わるが、次期業績の見通しと、金融市場の関係者に対するエクイティストーリーを聞きたい
現段階ではあまり具体的なことは言えないが、半導体マーケットは、足元で最先端のものがかなり動いており、ボリュームゾーンが動いていない。2025年は最先端のものが引っ張りつつ、さらにボリュームゾーンが乗ってくる。成長時期への回帰を前提に計画している。

―新年度に新しい中期計画を発表するだろうが、この場で話せる範囲で、方向性を教えてほしい
半導体・情報通信材料を成長のコアとする。既存製品のみならず、次の柱となる製品もいくつか準備できており、それらを実りあるものにしていく。一方でベース事業はより高効率にし、フォーカス事業向けのサプライチェーンを維持する。

特に、レアメタル分野でしっかりと供給することが重要になるので、これまでやってきたことや、それに向けたいろいろな改革をこれまで同様に続ける。表向きでは2028年3月期のKPIを発表したので、それを実現できる道筋を示す中計になるのではないか。

―2019年の長期ビジョンをベースにするのは分かるが、半導体も情報通信産業も事業環境が変わり、今後も大きく変わる。中長期的なビジョンを変えないにせよ、計画を修正するのか
大きな方向性に変わりはないだろうが、事業環境に変化があるので、それに対して適切に是正する必要がある。「今こういう路線だから絶対にそれをやり通す」ということではない。

例えば、大きな投資が必要になるといっても、事業環境が変わればそれに突き進むのではなく少しずらす。事業環境によっては成長性があると見込んでいた事業でも、臨機応変に判断してポートフォリオから外し、違う事業を組み込んでいく。

20年間ずっと突き進むことは考えていないが、大きな方向としては半導体や情報通信産業に基軸を置くという意味で成長のコアと表現している。

―環境対策引当金には米国子会社のグールド・エレクトロニクスが管理する休廃止鉱山に関する環境対策費用が含まれるが、訴訟リスクなども書かれている。状況は
訴訟になり得るようなものについては、引当を取っているとのことなので、適切に対応している。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]