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上場会見:dely<299A>、“報酬経済圏”の拡張

19日、delyが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1200円を16.6%下回る1001円を付け、1032円で引けた。2014年4月に設立。レシピ動画サービス「クラシル」や、消費者の買い物に関する行動や情報をポイントと引き換えることで購買行動を促すサービス「クラシルリワード」を運営。小売企業や食品メーカーなどに対する販促支援サービスも手掛ける。堀江裕介社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

 

「クラシルリワード」について説明する堀江社長

ー初値の受け止めは

公募から約16%で初値割しているが、これは真摯に受け止め、より一層サービス作りや経営に対して集中する。株主やユーザーにもっと貢献し、さらに頑張っていこうと考えている。

 

ーLINEヤフーが大株主で、グループ入りしていたというが、当時からソラコムのようなスイングバイIPOを思い描いていたのか。今後のLINEヤフーとの関係性は。LINEヤフーゆえの売り上げといったものはあるのか

結果的にスイングバイのような案件になっているが、私が2018年か2019年頃にこの座組を考えて提案した時は、まだスイングバイという言葉は世の中に無かった。おそらくソラコムがメディアを通じて言い始めた言葉という気はしている。ただ狙いとしては全く一緒で、メディアサービスの運営指標で、サービスの認知度を上げることを考えたときに、検索やニュースなどを持っているノウハウとキャッシュの潤沢さを考えると、ヤフーは組手として魅力的だった。そのため当時は、まず競合他社を含めキャリアなどと組み始めた。まだまだ資金投下する戦いになると感じた際に、誰を味方につけるか考え、通信キャリアの1社であったソフトバンクを当時株主に入れており、ヤフーという非常に潤沢なキャッシュを持つ会社を味方につけることは重要であった。

 

現状でも、メディア企業同士でシナジーはあるが、我々は独立した会社として意思決定をほとんどしており、派遣している社員が過去1人もいない。意思決定は非常に尊重してもらえていると感じ、オフィスも全く別で全く違うカルチャーでやっている。 とはいえ、一緒にできる、力を貸してもらえる部分は自分たちから積極的にやっていかないと、LINEヤフーからすると当社が小さい時価総額の会社だと認識しているので、今後より積極的に何かシナジーがあれば提案することが必要になっていく。LINEヤフー側からというよりは、上手く協業してシナジーを作るために、自分たちの発想を彼らに提案し続けることが大事だと思う。

 

ー持ち株は、当分は継続するか

そうだ。親引けという形で結構な金額を出してもらっているが、中長期で保有してもらうための意思と捉えている。

 

ークラシルリワードについて、最近の物価高でこのサービスが強まっているなど、消費者の行動で何か変化を感じるものはあるか

元々、日本人はチラシを見て10円安い卵を見つければ1キロ先のスーパーに行くと言われているほど、価格にセンシティブ。サービスを立ち上げた理由でもあるが、この2、3年で実質賃金が上がっていない状況が日本の大きな課題だと思う。今年1年このサービスを運営するなかで、ユーザーは価格に対してよりセンシティブになっていると感じる。

 

メーカーから今まで無駄に使われていたテレビCMやキャスティング、チラシの費用などの一部を成果報酬型に切り替えて、それらをユーザーに付与しているので、それが追い風となって喜ばれている。今まで広告費に使われていたものが顧客のウォレットに入っていくので、それが毎年数万円となれば、実質賃金の上昇ほどの価値があるので、追い風が吹いていると感じる。

 

ークラシルリワードの、レシートを撮影してアップロードする仕組みなどは不正が起きたりしないのか

初期の頃は、全く違う写真や適当にペットボトルの写真を上げる人など沢山いた。それらを予防する仕組みやAIの技術を使うことで、それがペットボトルと分かったり、レシートではないものを弾くことができ、そのコストが近年どんどん下がってきている。より安価により安全に、判別の仕組みが技術的にできるようになってきたことも、このサービスが立ち上がってきている1つの要因にはなっていると思う。

 

ー経済圏の拡張でFintechとは、イメージ的にどういうものか

クラシルは、買い物をしている人々が既に沢山この経済圏のなかにおり、そこでレシートをアップロードすることなどによってキャッシュバックを受けている。我々はメーカーや小売企業との繋がりが強い。この小売り企業とメーカーとのコネクションを活かし、どこの小売りやガソリンスタンドに行っても、このクレジットカードで払えばポイントバックが沢山されるといった、日常の買い物がよりお買い得になるクレジットカードの発行などは検討できる。

 

ーノンデスクワーカー向けの人材採用が、5年後や10年後に大きな武器になると考える理由や展望は

事業自体が非常に追い風で、上場企業で伸びている企業を見てもHRの会社で、特に求職者を集められる企業は非常に強い。人材紹介会社は沢山あるが、ビズリーチを初めとした求職者を大量に集められる会社は、かなり稀有な立ち位置にあり、高い成長率が出ている。

 

そのようななかで、我々は4000万人のユーザーのデータベースを持っており、年収情報や今の仕事などの情報を聞くことができる。クラシルリワードというサービスでは今年中に数十万人のサービス獲得の見込みが立っており、もうユーザーはここにいる状態。限定的にスカウトを打ちたい企業に提案に行っていたが、今後は一気にオープンにし、スカウト量が一気に増えることで、マッチングが増えていくという見込みを立てている。中長期のマクロ環境とビジネスのなかで非常に面白い立ち位置にいると考えている。

 

ー「その他」事業で「LIVEwith」を買収してエンタメをやっているが、delyのなかでのエンタメの位置づけやM&Aの背景とは

なぜこれを買ったのかとよく聞かれる。リテールや料理の関連で、なぜエンタメをしているかということだが、現状このサービスは特にショッピングなどに寄与しているわけではないが、物を売るライブコマースのようなライブショッピングが中国や東南アジアなどで、TikTokを中心に流行っている。

 

そういった機能がまだ日本では提供されていないので、それらのフェーズが来る前に、先にライブショップをできるインフルエンサーを集められる会社をM&Aで取得し、タイミングが来たらしっかりと販促ショッピングの領域に寄与できるサービスになると予測している。これは1~2年後に対する先行投資だと考えている。

 

ー「その他」事業で「LIVEwith」のほかに追加していく予定はあるのか

現状は「LIVEwith」だけになる。エンタメのジャンルで「その他」事業と言っても二十数億円の売り上げがあり、強いモメンタムを感じている。ユーザーの費やす時間がモバイルにどんどん移り、動画やエンタメの視聴は増えていく。そのようななかで「LIVEwith」を買収したが、今後何かIP(Intellectual Property)やエンタメになるものは、日本だけでなく海外でも通用する強い武器だ。

 

当社は元々日本でサービスを展開しているが、今後5年、10年を考えると、海外で売り上げを上げる会社にならないと強くなっていけないと感じた。そのポテンシャルのある1個がエンタメのジャンルで、今後M&Aなどをする際は、その強化が考えられる。

 

[キャピタルアイ・ニュース 北谷 梨夏]