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上場会見:ムービンSC<421A>、自社集客と“点と線”

6日、ムービン・ストラテジック・キャリアが東証グロース市場に上場した。公開価格の2080円を20.29%上回る2502円の初値を付け、2520円で引けた。神川貴実彦社長が東証で上場会見を行った。

自社集客の強みを説明する神川社長。キャリアアドバイザーは中途採用で確保し、さらなる増強を図る

―初値の感想は
証券会社に聞いた後は全然見ていない。どうやって売上をさらに伸ばすかということしか考えていない。

―この時期に上場した狙いは
人材紹介は資本力もそれほどいらないし、取り立てて上場する必要もない商売だと考えていたが、我々は2つの業界で競争している。求職者を集めるプラットフォームの部分は、競合がリクルートやdoda、ビズリーチなど大手企業ばかりになっている。

今のところは何とかやれてはいるが、今後を考えると、勝ち続けるには体制を強化してしっかり取り組まないとならないのが1つ。そんなことを考えながら準備を始めたら、AIが出てものごい勢いで加速している。我々はインターネットとともに伸びてきた会社だが、おそらくそれに匹敵する変化が来ると思うので、きちんと掴んで伸ばしていきたいのでこのタイミングとなった。

―AIの影響とは。ムービンSC内でも、AIで教育や業務効率化ができているとのことだが
顧客がAIを導入することによって効率化が進み、人がいらなくなるのではないかという話があり、もう1つは我々自身がどうしていくのかの話になる。前者に関しては、確かに人がいらなくなり、職業がなくなると言われている。我々がこの2~3年で経験していることは、顧客のメインのコンサルティング業界では、AIでかなりの部分が効率化できる半面、AIがやることが本当に正しいのかは分からないということだ。

AIはネットに存在するありとあらゆる本当か嘘か分からないデータからいろいろ考えて回答を出してくるので、それが事実かどうか分からないという事態が起きている。そうすると、その答えが本当なのか人間がチェックする場面で、コンサルティング会社でも人がもっと必要になっている。

プログラミングだけであればAIの独壇場だ。チームラボの森山雅勝非常勤取締役が、当社の社外監査役になっており、チームラボでも2年ぐらい前に、AIとチームラボの中堅プログラマーを同じテーマで競わせたら、ほぼ同じアウトプットが出てきた。多分、今はもっと進んでいる。

単純なプログラミングになるとAIに軍配が上がるだろう。プログラムの場合は動けばそれが正解なので、それはそれで良い。例えば、何かを調べるとか正解が必ずしも明確でないものに関してはやはり人間が考えなければならないというのを、直近にいろいろなファームや会社のパートナーや社長と話している。

我々のビジネスがどうなっていくかは、集客可能なプラットフォームがかなり集約されて、AIが入ることで、情報が相当集めやすくなる、様々なことが起きるので、その1つに食い込まなければならない。また、社内の営業担当者がやっているような様々な業務の効率化はいろいろなツールを使って進めていく。それはどこでもやるだろうから、集客の領域での戦いが鍵になる。

―集客の部分でもAIを使うのか
集客も、集客後のマッチングもそうだ。特定の求職者が過去の我々のデータと比べてどの会社のどのようなポジションに適性があるのかなどをマッチングするところで力を最も発揮できる。新人の営業担当者にはなかなか分からず、できるようになるまで時間がかかる。

我々は社歴が長いので、今までにどこの会社でどういう人が面接に行って、採否がどうだったかというデータがあるので、それをAIに学習させると精度が相当高いものができるのではないかとして開発している。

―2024年12月期の業績が沈み、2025年12月期予想で盛り返したのはどうしてか
2022年はもっと良く、2023年と2024年が少し足踏みだった。コロナバブルが顧客に起きていた。コロナ禍の時に今までないようなことが起きたので、そのようなものに対応できるサービスがなかった。その時に、政府や製薬会社などが、「どこに何を頼めばいいのか」とコンサルティング会社に受注がかなり来てものすごく盛り上がったが、コロナ禍が終わると、反動で当社の顧客の収益も一気に落ちた。

そうした企業が最初にやることは、新規採用を止めることで、それをもろに食らってしまい、2023年が駄目だった。当時は少し甘く見ていて、半年ぐらいで戻ってくるのではないかと手を打たずにいたら、「様子が違うね」となって、2023年の後半からいろいろと手を打ち始めて、その結果が出てきたのが2024年の後半で、今年に花開いた。

―業績が伸び始めた要因としての打ち手は、1人の転職者を複数回支援したことか
それも1つで、それ以外に最も大きかったのは、「クライアントシフト」と呼んでいるが、得意先を持たない営業戦略に切り替えた。どんな顧客も、永遠に人を採り続ける会社ではない。どんな会社も採ったら採用費が下がり、足りなくなったら採用を繰り返していく。それに合わせていると我々の売上が安定しないので、採用意欲が高まった時に手伝い、その結果として意欲が下がってきたら、採用意欲が高まってきた会社を支援する。顧客を切り替えられるようになり、売上が平準化した。

この業界で何社か上場している会社があるが、そういう会社の決算を読むと、「顧客が採用を絞ったので、当社の売上も落ちた」というコメントが書かれていて、顧客を固定するとそうなる。採用意欲の高い会社が必ずあるので、そういう会社にシフトする。

―中途のコンサルファームの転職マーケットについてどう見ているか。アクセンチュアやベイカレントなどは2030年ぐらいまでの年平均成長率を描いている
我々はコンサルティング会社に人を送り込むために会社をやっているわけではなく、偶然、そこが人材を最も採用する美味しいマーケットなのでやってきた。我々は今後、仮にコンサルティング会社の採用意欲が落ちたら、クライアントシフトをすれば良いと考えているので、その時に採る会社を支援する。

コンサルティング業界の採用に関しては、コンサルティング業界は離職率がそれなりにある。例えば、アクセンチュアは2万人ぐらいが在籍している。その人数では10%の離職率で2000人が辞めていく。そうすると2000人は絶対に採用する。ベイカレントも、今は6000~7000人だが、早晩1万人を超えてくるし、全部の会社で見るとけっこうなボリュームがある。退職した分の補充だけでも相当なマーケットがあるので、コンサルティング業界自身が伸びていくかという話とは別として、我々はメンテナンス需要でマーケットがあると見ている。

―ダイレクトリクルーティングをどう見ているか。今後どうなるのか
ダイレクトリクルーティングは、業界で1~2位ではないと無理だ。例えば、大手メディアからスカウトが来たら転職を検討している人は返事をするが、そうでないところが連絡しても多分返事をしない。ビズリーチが都市銀行の頭取とともにCMに出ているが、そうした銀行がスカウトをかければ、多分返事は来るが、そうでないところから連絡しても返事は絶対に来ない。そうすると、我々エージェントの生きる道としては、トップ2番目以外の会社に関する情報を候補者に伝えて誘導しないとますます取れなくなる。

もう1つはダイレクトリクルーティングがこの世に出てきてから数年経つが、大手のプラットフォームでは人口の3~4割が登録しており人材がガラッと変わるわけではない。超大手のコンサルティング会社がいち早く使って採用していたが、そういう会社が最近、人を採れないとして、数年ぶりにパートナーから会食の依頼が殺到している。ダイレクトリクルーティングの影響はそれほど大きくはない。大手の人材プラットフォーマーも、ダイレクトスクールリクルーティングだけでいくのかと思ったら、彼らも分かり始めていて、自社で人材紹介を始めている。

―コンサルファームの案件は全体のどの程度か
6~7割だ。

―残りはプライベートエクイティファンドやM&A仲介会社か
残りは一般事業会社や製造業も当然にあり、金融機関もSIerも、そのほかありとあらゆるものがある。

―6~7割は適正水準か。もう少し下げたいのか
それはあまり考えておらず、採らない会社には入れようがない。そうなると、採用する会社に世話するしかないので、適正か否かは考えず、採ってくれるところに向かっていく。その結果が6~7割という考え方だ。

―新卒の就職支援は
やっていない。今のところは考えていない。

―中期経営計画や2030年、2035年などにありたい姿は社内で描いているのか
「生涯キャリアハブ」という考え方を言っており、これまでは転職を“点”でやっていた。例えば、支援した転職者が、2回目で相談してくれるかというと、意外にしてくれない。1回目はコンサルティング会社に入るために準備をするが、1回入ると、2回目の転職ではみな慣れてくるので、ヘッドハンターの声がかかった瞬間に出ていく。

それを生涯キャリアハブとして、“線”で追い続けることによってポイントが明確に分かるようになってきた。それをずっと世話することを続けてきた。それをずっとやりやり続けていくと我々がお世話している人が増えて、転職支援以外でもキャリアに関するなにがしかのサービス提供もできるようになっていく。10年後にどうなっているのかを明確に決めているわけでも、考えているわけでもないが、ターゲットとする人口が急激に減っているのでこれに対応していく。

例えば、海外も1つだろうし、1人ひとりの生産性を上げられるサービスを提供していくこともそうだ。とにかく人が足りなくてもどうにもならない日本というマーケットに向けたサービスをどう作っていくのかだと考えている。

―線で追うとは
コンシェルジェというチームがあり、いろいろな形で連絡するなど絶えず追っている。

―基本的には、受身で待っているのか
過去の経歴から関心を持ちそうな案件の紹介などいろいろな形で情報発信を工夫すると、一定割合で実際に転職活動をする人が出てくるので、そういう動きをする。

―上場している人材関連各社と比較して営業利益率が高めだが、利益やコストコントロールは
現状は利益をコントロールしてこのようにしているわけではなく、結果としてこうなっている。価値の源泉は自社で人を集められることで、それによってほかの人材紹介会社は転職スカウトサイトに20~25%の料金を払うが、それが我々の利益になるので、ここをとにかくやり切る。

―配当は
このマーケットにはチャンスもあるし、取り組まなければならない課題がいくつかあるので、トータルのエクイティバリューの向上を優先したうえで、投資機会がなければ配当していく。

―配当性向は
まだ明確には出していない。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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