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上場会見:アシロ<7378>の中山社長、弁護士広告1800億円市場に挑む

20日、アシロが東証マザーズに上場した。初値は公開価格(1160円)を27%上回る1480円を付け、1239円で引けた。同社は「離婚弁護士ナビ」など複数のリーガルメディアサイトを運営し、弁護士事務所から広告料を受け取る。2020年には連結子会社のtrientを通じて弁護士の事務所や企業への転職を支援する「リーガルHR事業」を開始した。中山博登社長がオンラインで上場会見を行った。

中山社長は新規の取引先の開拓によっても広告単価の水準は変わらないと話した
中山社長は新規の取引先の開拓によっても広告単価の水準は変わらないと話した

―初値が公開価格を上回った
市場としては重い雰囲気のなかで、株式の売り出しも非常に多かったが、公開価格を上回る初値が付いたことで非常に強い期待を感じている。期待に応えられるように私だけでなく従業員一同尽力したい。

―上場の目的や狙いは
大きく3つある。1つ目はサービスの認知度の向上だ。インターネットのサービスなので、認知度が上がれば上がるほど競争力も増すため、認知度を上げる点でメリットがある。次に採用の側面。今後、成長を継続するうえで、より優秀な人材を採用することが肝となる。上場することでこれまで採用できなかった人の採用を期待できる。3つ目は資金調達だ。

―カスタマーサクセス部門の機能は何か。営業が獲得してきた事務所の選別を行うこともあるのか
事務所の選別は特段行わないが、事件ごとにサイトによってユーザー数を確保できる地域とできない地域がある。例えば、「企業法務ナビ」というサイトがあるが、これは地方に行けば行くほどユーザーが少ない。カスタマーサクセスは「このような地域での販売はやめてください」と営業に事前に依頼する。営業が獲得したものを選別することはない。

カスタマーサクセスの役割は、営業が取ってきた契約を引き継ぎ、顧客のフォローを行う。顧客によっては、例えば相続のなかでも、遺言書に関する相談を増やしたいとか、遺産分割協議を増やしていきたい、相続放棄を増やしていきたいというようにニーズが細かく異なる。そのような顧客の声をキャッチアップして、顧客のWEBページの原稿をニーズに沿うように作り、顧客に確認してもらい掲載をスタートする。

その後、問い合わせの質、顧客のニーズに沿った質の相談が来ているか定点的に観測し、LINE WORKSというLINEのサービスで、顧客に相談が入った時に即時にLINEを通じて顧客が満足しているかフィードバックをもらう。それをカスタマーサクセスが営業やマーケティングに伝えて、より質の高い、顧客満足度が上がるフォロー体制を築く。

―同業他社と比べた強みは
細かい戦略など、このようなことをやっていこうという考えはあるが、我々としてはあまり同業に手の内を明かしたくない部分もある。我々の根本にある考え方が競争優位性と考えている。

理念にも通ずるところだが、たくさんの人を一番深く幸せにする。結果として戦略や戦術を生み出す考え方の根底になるので、顧客やユーザーを徹底的に幸せにしたいというところから発想していくことが、競争優位性を築くうえで重要な考え方になってくる。それが形になったのが我々のカスタマーサクセスだ。

通常、このぐらいの規模のメディア系の企業であれば、営業が販売して契約を管理することが圧倒的に多い。ただただ顧客とユーザーの満足度だけを上げるカスタマーサクセスは我々らしい。このようなところに強みが徐々に出てくるのではないか。

―派生メディアにビジネスを展開する場合のハードル・レートの考え方は
我々はユーザーのことを考えている。収益性がどうというよりも、まずユーザーが、我々のサイトを利用してもらった時に、労働問題に悩む人は、我々のサイトを離脱して、転職に向けて転職サイトを探すことが非常に手間だと思っていて、ユーザーの満足度を上げるためにどのような動線などが良いかという考え方でスタートする。その後に徐々にユーザーが増えているのであれば事業計画を立てていく。いきなり収益性を見込んで始めるよりも、ユーザーの立場に立って作っていく。

―業績動向について、コロナ禍の影響は2020年10月期が最も大きく出て、2021年10月期には成長率が鈍化していると受け止められそうだが、今期の業績動向と今後の成長性をどう見るか
我々の決算が10月末であるので、2020年10月末にかけて予算を作成した。当時はまだコロナ禍がどうなるか全く分からない状況で、保守的な予測で作った。結果として、2020年10月期上期は、派生・リーガルメディアともにコロナ禍の影響を受ける前の数字で好調だった。下期にかけてコロナ禍が始まった。2021年10月期の上期は、コロナ禍の影響を受けている。

予測以上に影響を受けたのは派生メディアで、数字が戻ってこなかった。具体的に言うと、前期と今期の上期の比較で4割ほどの減収だった。ただ、半期を締めた段階で(全社で)およそ予算通りになったのは、リーガルメディアが、我々が想定した以上に早く戻って成長を続けているためだ。

派生メディアに関しても、決してサイトのパフォーマンスやクオリティーが落ちたのではなく、単純に広告主の出稿減が重なっているだけなので、コロナ禍収束とともに派生メディアも以前の水準に戻ってくる。かつ、リーガルメディアに関してはコロナ禍に関係なく成長しているため、コロナ禍以前の水準の成長率を維持できると考えている。

―足元の広告枠の販売状況や単価の動向は
前期の第2四半期対比で今期の第2四半期は10%成長している。下期はまだ途中であるため、全社としては継続して予測通りに着地したい。

―リーガルメディアの顧客数が543事務所だが、弁護士の人数にするとどのぐらいか。今後どのようなペースで開拓・増加を目指しているのか
1法律事務所当たり大まかに3~4人ほど見てもらうと、弁護士数は1500~2000人ほどだ。主要都市、地方含めて全国に1万7000ほどの法律事務所があり、まだ我々と一度も取り引きしたことがない事務所がある。コロナ禍前は訪問していたため積極的に営業してこなかったが、リモート営業に移行したため、今後は主要都市に続いて地方でのリモートの営業をしっかり行い、拡大していきたい。

―将来的に顧客数が広がっていくに従って、それを開拓する営業人員数がボトルネックになるのではないかと投資家は心配しているようだが、どう考えるのか
年々、営業のパフォーマンスが引き上がっている。コロナ禍の第1次緊急事態宣言の時は、急な対応であり営業自体を止めてしまった時期もあった。第2次、第3次と進んでいくなかで、顧客の健康を検討したうえで、訪問を基本的に止めてリモート営業に移行した。訪問がなくなるので、結果的にコロナ禍の前後で営業の生産性は1.5倍ほどに仕上がっている。

これまで、大阪や福岡、名古屋、横浜といった主要都市への出店を検討していたが、どの地域も全てリモートで営業できると立証されたので、拠点展開しなくてよい。非常に良いパフォーマンスで仕上がってきており、そこまでの人数を追加・補充しなくても、これまでの成長速度を維持できる。増やさないわけではないが、物凄い量で増やしていかないと成長を維持できないわけではない。

―中期的に数値面での業績目標や目指すべき規模感は
全体で9000億円の市場規模がある。顧客に広告費をどの程度利用しているか聞くと20%ほど使うというため、1800億円ほどを法律事務所が今後広告費として使うと見ている。今の売り上げ規模が年度で10億円程度しかないため、1800億円に対して伸ばしていきたい。

―調達資金の使途は
様々なことを検討しているが、リーガルメディアの認知度を引き上げていかなければならない。確定はしていないが、認知度の向上や、さらにはリーガルメディアと様々な意味でシナジーを受ける事業を我々が新しく作るのか、それともM&Aなのか(の選択肢がある)。最も投資家の期待に応えられる成長速度を保つためにはどのような投資が一番良いのかを鑑みながら、広告シナジーを受けた事業の創出を検討したい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]