
2日、MabGenesis(マブジェネシス)が東証グロース市場に上場した。公開価格の830円を8.07%下回る763円の初値を付け、696円で引けた。犬・猫向けに抗体医薬品を開発する。全く同じ形と機能を持つ抗体を分離して集める技術と、自社構築の安全性が高い抗体ライブラリーを強みとする。新庄勝浩代表が東京証券取引所で上場会見を行った。
■慢性疾患に需要
―公開価格830円で、初値がそれを少し下回ったが、株価について率直にどう思っているのか。それが今後の研究開発に影響するか
小泉信一取締役:今日はちょっとよく分からない地合いで、上下したというのもあるが、株価は市場の評価と素直に受け止める。我々は昨年に黒字化しており、このペースでずっと行けると考えている。そうすると、株価がどうこうというのは事業にあまり影響を与えない。我々は粛々と実績と、そこからの収益を積み重ねていき、市場の評価を得ることに集中したい。
―抗体薬が有効と捉えている疾患はどのようなもので、どの程度あって、それが世に出た場合、1品目当たりどの程度の売り上げを見込めるのか
新庄代表:今、皮膚疾患の薬が、世界で最も販売実績がある。犬も猫も人間のIBD(Inflammatory Bowel Disease=炎症性腸疾患)のような慢性的な病態が問題になっている。加えて、関節疾患が多いので鎮痛が共通している部分だ。
小泉取締役:猫に特有のことかもしれないが、CKD(Chronic Kidney Disease=慢性腎炎)では大きなニーズがあって、満たされていないニーズだと見ている。
―相手先がいるので、詳しい説明が難しいだろうが、これらの疾患に主にフォーカスしているのか
主にと言えばそうなるが、ほかにも血液がんなどのがんにも対応している。
■犬・猫に大きな市場
―これらが上市された場合の売上規模は、世界でどのぐらいと想定できるのか
新庄代表:今一番売れているのがインターロイキン(IL)-31抗体の、犬のアレルギー性皮膚炎治療薬で、欧米と日本を含めて1000億円売れているという。しかしながら、今はその1製品しか出ていない。我々が知る限りでも、各社いろいろなメカニズム、IL-4系や13系などが、人体薬のすぐ4~5年後を追いかけている状況だ。
小泉取締役:全ての製品が1000億円売れるとは言わないが、前向きに捉えればその程度売れても不思議がないようなものをやっている。市場の分析では、犬・猫の飼育頭数や罹患率、実際に治療を受ける割合などを計算すると、とても大きなマーケットが存在している。我々が開発している製品がどんどん入っていったとしても、それでマーケットが小さくて入れないということは決してない。
■少なくとも年10件
―上市の見込みが最速で2030年頃になるとのことだが、それまでに、最初に投資家に示せるマイルストーンは
小泉取締役:事業推進担当として答えるが、具体的にどのようなマイルストーンかは守秘義務があってなかなか言えない。我々は19本のパイプラインを持っていて、そのうち導出済みのもの、共同研究中のものを入れても、かなり本数が多い。現在の計画では、14本ぐらいから出てくるマイルストーンを年ごとに並べてみると、多い時で年間20件、少ない時でも10件程度が次々に出てくる。
そのタイミングが遅れたり早まったりといろいろあるが、1つのパイプラインで1個出て、次が出るまでまた何年か経ってという話ではなくて、1年の間に次々に、いろいろなプロジェクトからのマイルストーンが達成できるのが我々のポートフォリオの利点で、「次は何ですか」と言われると、「何が来るだろう」という状況だ。
―2030年頃に安定期になる理由として、最も進んでいるものが30年頃に上市するだろうということで、パイプラインを見ていると、進んでいるのは3種類あるだろうが、全て上市するイメージか
最も進んでいるものと言っても、各社がいろいろな開発計画を立てているので、30年と言っているのはそのなかの最初の1つという意味だ。ただ、そこからパイプラインが次々に後を追って上市していくイメージを持っている。30年から次々に我々の製品が上市されていく世界と理解してもらえればよい。
―進んでいるパイプラインが2030年以降には上市という形でどんどん開花するのか
そうだ。30年、31年、32年とどんどん増えていく。
■定石通りに
―最初に上市を目指しているのは日本国内か
我々のパートナーは欧米企業が多い。動物薬の世界でも最大のマーケットは米国で、次が欧州。日本のマーケットは割と小さい。なおかつ、国際的なハーモナイゼーションが進んでいるところなので、最初に大きいところに行くのが戦略的にはもっともリーズナブルで、パートナーの欧米企業は欧米へという形を取っているのは確かだ。
―今進んでいるものも日本だけではなく欧米、特に米国を想定しているのか
そうだ。
新庄代表:まずは米国だ。ペット用医薬品の7割程度の市場を、欧州と北米で占めているので、まずは北米と欧州で販売を開始し、その次に、日本や中国に展開していくのが、グローバルな動物医薬品会社の、今のマーケティング方法だ。
―その後に続いてくるものに関してもスタンスは同じか
小泉取締役:基本的にはそうだ。
新庄代表:同じと考えてもらってよい。
■ペットと飼主にメリット
―同業の世界的な会社は、大手が買収しており、独立系はMabGenesisと米国のVetigenics(ベティジェニクス)のみで、MabGenesisは抗体取得技術やライブラリーで素晴らしいものを持っている。これまでに大手製薬会社からM&Aの打診はなかったのか
小泉取締役:我々は非常に多くのポートフォリオを持っていて、多くのパートナーと一緒に仕事をしている。これは単純にM&Aしにくい状況だ。そのような話が出てきても、当社のようなポートフォリオでよその会社といっぱい組んでいるところは「難しい」という話になっている。決して否定するものではないが、少なくとも、しばらくはその可能性は低いと見ている。
新庄代表:実際にある会社からコメントが寄せられた。カジュアルな会話のなかで、いろいろな会社と共同研究をしているので、もし買収しても、その権利関係をどのように捌いていくのか考えると“ナイトメア(悪夢)”だと言われた。
抗体薬の動物用医薬品に関する最も良いポイントは、ご存じのように1回投与すると効果が4週間程度持続する。それがペットと飼主にとって大変な利点だ。例えば錠剤薬では、アトピー性皮膚炎では、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害剤があるが、1日1回投与する必要があり、毎日、犬や猫に経口で投与しようと思うと、嫌がる犬・猫もいて大変だ。抗体薬は獣医に連れていって注射すれば有効性が1ヵ月程度持続するので、そのような利便性からも、抗体薬の市場が伸びていると見られる。
■ヒト用医薬品も
―研究のパイプラインを見ていると、人間の膵臓がんについても共同研究している。今回の上場を受けて、ヒト向けの膵臓がんのプロジェクトや、抗体医薬品開発に向けてのビジョンがあれば聞きたい
新庄代表:ヒトの膵臓がんがある。我々は3人とも以前は人体薬を研究・開発していたので、ヒト用の薬品の失敗、成功確率の低さを嫌というほど理解しているつもりだ。そのなかでも、抗体を利用して評価して、「アーリーなところで導出できる可能性がある」と見極めたものに関しては、実際に研究開発に着手している。
今後も、評価して「これは行ける」というものだけを選んで着手するつもりだ。これもある研究機関と共同研究中で、国の補助金を取って一緒に進めようとしている。
―例えば、上場を受けて資金が貯まってきたら、ヒト用医薬品の開発に向けて人を増やすとか、研究資材を整備するということは全然ないのか
小泉取締役:まだ考えていない。動物用の抗体薬がホットで、しのぎを削っている段階で、そこで何とか勝ち組になりたい。今挙げている19本、ヒトを除けば18本のパイプライン以外にやりたいものがたくさんある。もし資金があって余裕ができたらそれをやりたい。
新庄代表:まずは動物薬領域で主役になる、市場を牛耳って、それで余力があればヒトのほうに行く可能性は否定していないが、しばらくはない。
■動物用が熱い
―ヒト用の膵臓がんの医薬品を開発する理由は
前田龍取締役:我々のファージディスプレイ抗体ライブラリーで最初にできたのがヒトのライブラリーで、これはかなり優秀なものだ。創業当時もヒト用医薬品と動物用の時価総額が半々となるぐらいに想定していたが、動物薬の世界が熱いので、基本的にはヒトを減らして動物のほうに移行していった。
膵臓がんは特殊で、我々のようなベンチャー企業でも、そこまで投資しなくとも短期間でパートナーを見つけられる。そのようなスキームを考えることができ、国立の研究機関から、今で言うと特例的に「一緒にやりましょう」と声をかけてもらった。
ヒトに関しても、これまで皆がなかなか取れなかった標的に対する抗体を取得している。ライブラリーとしては良いものがあるので、研究開発担当としてはチャンスがあればいつでも取り組みたいが、投資が大きくなるので、そこはリスクを見ながらということになる。
小泉取締役:抗体を取るところまでは一緒なので、そこまでだったらできるが、その後に自社で開発して、プルーフ・オブ・コンセプトを取るということになると大きい投資が必要で、そこへ踏み込むつもりはない。
前田取締役:現状、精力的に抗体を取得している限り、研究開発費がそこまで大きく伸びていくわけではなく、基本的には5~10%ずつ増えていく。あるところで上限がかかって、それ以上はかからないコスト体質になっている。そこを壊そうというところまではいかないと見ている。
■開発速度をアップ
―動物用抗体薬の研究開発企業から、製造設備を備えた製薬企業へ進む可能性は
新庄代表:相当の投資が必要となるので、今は研究開発の上流部分に集中して、製造能力がある製薬会社と組んで、一緒に上市を目指していきたい。近い将来か遠い将来か、そのような選択をしなくてはならない時期が来るかもしれないが、現時点では具体的な計画はない。
―調達資金を研究開発に充てる方針とのことだが、具体的な計画は
前田取締役:来年度から研究用の機器に投資して、研究開発のスピードを加速していきたい。もう1つは、抗体薬、人体薬の分野でもAIを導入した最適化などのトレンドがあるので、そちらにも投資していきたい。
小泉取締役:我々のポートフォリオは数がかなり多い。これをどのように効率的に進めるかが非常に大事で、その意味での投資となる。それが上手くいくと、ポートフォリオのパイプラインが増えて、それが右上へ伸びていく2次元の成長を遂げることができるだろう。ぜひ注力していきたい。
―株主還元と成長投資のバランスや方針は
新庄代表:しばらくは配当などを計画していない。まずは業績を伸ばして、株価を上げていくことが株主の利益になると考えている。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平、写真:北谷梨夏]
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