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IR担当者DeepSession(3):情報発信、どうしてる?

情報開示などで企業価値を投資家に伝え、そのフィードバックや外部の情報を経営陣や社内に還元して事業運営の望ましい方向性を提示しながらその向上につなげるIR(Investor Relations)の担当者。彼/彼女らの日頃の活動について引き続き座談会を開催し、各社の情報発信の工夫や課題について上場企業4社の担当者に話を聞いた。

参加企業(50音順、カッコ内は上場日と現在の主幹事)
・eWeLL<5038>(2022年9月16日、大和)、経営企画室:大谷智仁氏
・note<5243>(2022年12月21日、大和)、IR:三浦愛梨氏
・ユミルリンク<4372>(2021年9月22日、野村)、渡辺弘一取締役
・ほか1社(匿名のA社)

■メディア露出の好事例
A社では広報と連携してメディアリレーションに取り組み、還元姿勢を分かりやすく伝える「利回りの早見表」を証券系メディアに送付。そのまま新聞に掲載されたことから、「文章だけでなく、数字をうまく見せることがメディアにとってもバリューになる」(A社担当者)と気付いた。

ユミルリンクは、適時開示の一環として特定顧客の事例を発表したところ、「株式の売買数が如実に増えた」(渡辺取締役)。noteでは、PRが経営陣のインタビューに対応すると、それを見た株式投資系メディアから同様の取材依頼が寄せられ、「機会があれば経営陣に出てもらうとIRにも凄く効く」(三浦氏)という。

eWeLLは広報と連携し、大手経済紙での掲載を促す施策を強化している。報道が特定の大手企業に傾きがちな大阪に本拠を置くことから、取り上げられやすい内容や時期に対する解像度を高め、複数の紙面の記者と、状況に応じた情報提供を含む「かなり綿密」(大谷氏)なコミュニケーションを取っているという。

さらに、メディアがA社を取り上げる際のひと工夫もある。同社は自社で投稿している「IR noteマガジン」の記事を活用。メディア各社の編集者が、ライターに記事制作を依頼して方向性を示す際の参考にできるよう提供している。「メディアの皆さんはストーリーが事前に頭に入っていると、“自分もこういう切り口で取材してみよう”とイメージしやすい」(A社担当者)。

■ここにもAI
コンテンツの充実に課題のあるIR担当者は多いが、noteの三浦氏は「上場以来ずっと発信してきて、題材に困ったことはあまりない」という。投資家との面談でよく聞かれることや、誤解されていそうなこと、浸透していないと考えられることを題材に、切り口を変えながら、週に1本程度の記事を作成できる。一方、AIを活用しているものの、記事の発信には校正やレビューの労力がかかり、ほかのIR活動とのバランスを常に考えなければならないという。

コンテンツを模索中の担当者は、パワーエックス<485A>の開示手法に注目していた。同社は、AIによる解析を前提とする“マークダウン形式”の決算説明資料を開示している。AIで情報を分析する投資家が増えるにつれ、IR担当者にとっては、どれが分析対象となるか気になる。分析材料となる情報を先んじて公開すれば「投資家にとって取り組みやすく、我々にとっても凄く良いと思っており、ゆくゆくは取り組んでみたい」(A社担当者)。

■つながるメルマガ
メディアを通じた発信のみならず、伝統的なメールマガジンで投資家との継続的な接点を構築する例もある。eWeLLは230件の登録からスタートしたが、2カ月で120件程度が配信を希望し、しっかり活動すれば月間30~40件程度増加すると見込む。登録者の3割程度が機関投資家のファンドマネージャーとなっており「良い接点づくりになっている」(大谷氏)という。

■英文開示の次は英文サイト
前回の座談会で、IRサイトの改訂や導線設計に関する話題があり、今回はそれを議題の1つにしたところ、各担当者は、英語話者のためのサイト作りの要否や可否に意識を向けていた。海外投資家が、参加各社のサイトで英文資料にたどり着きにくい状態で、英語のIRページの設置が課題となっていた。

ユミルリンクは、海外機関投資家との面談が多く、決算短信と説明資料の英語版を数年前から開示しているが、海外からサイトを閲覧した時に、「資料は用意してあり、IRのリンクは何となく分かるかもしれないが、資料に多分たどり着けない」(渡辺取締役)という情報の導線設計に課題を感じていた。ほかにも、情報を出しているものの、投資家から分かりにくさを指摘されるという担当者も存在した。

日本語サイトのなかでIRページのみを英語版で作成していることから、「海外の投資家がIRサイトを見た時により直感的にアクセスしやすい状態に何かできることはないか検討しなければならない」(noteの三浦氏)という課題もあった。

eWeLLは、自社サイトへのアクセスの4割が海外投資家からとの分析結果に基づき、「良いパートナーがいたことから、英語サイトの構築を始めている」(大谷氏)。当初は不要と考えていたが、日本語サイトの構成を維持したまま英訳する提案から一歩進んで、「海外投資家が見やすいサイトの構成が存在し、“3~4ページでも良いからベーシックなものを用意しておいたほうが見る人のストレスが少ない”という意見を受けて、作ったほうが良いと思った」(同)という。

■解は投資家が持っている
導線設計全般についてA社は、IR noteマガジンに“株主優待に関するよくある質問”の記事を投稿し、そこに自社の特設ページへのリンクを貼ることで、自社サイトへの検索導線の確保にも役立てている。また、note上の投稿記事の目次をまとめた記事の閲覧率も高く、そこからの各投稿への誘導に効果があるという。

これらをさらに1歩進めるためのアイデアについて、eWeLLの大谷氏は、投資家面談後に、全員にアンケートを送付しての「IRサイトに関する要望の募集」を勧めた。同氏が実施したところ、「事業領域の詳細を知りたい」というものや、「ヒストリカルデータをExcelやCSV形式で提供してほしい」など機関投資家からの回答が複数寄せられたという。それを踏まえて次のコンテンツを増やすとともに、「IR noteなどの材料にもなると思った」(大谷氏)という。

一部の海外投資家は、企業がそのサステナビリティへのコミットやESG情報を、国際基準のどの項目にどう対応させているか比較できる「サステナビリティ対照表」などをExcelなどで開示しておかないと、分析すらしない状況になっているようだ。

■みんなを引き込む報告書
参加者の間では、情報発信ツールの1つである統合報告書に、前回に続いて注目が集まった。ユミルリンクは、社内外両方に向けての発信に資することを念頭に、2024年から継続的に内容を刷新しながら作成している。

東証グロースの上場維持基準の見直しに関するいわゆる「時価総額100億円問題」に備え、ユミルリンクは2030年までに純利益を2.6倍にすると今年に宣言。その実現に向けた戦略のほか、人的資本の向上目標を記載し、対投資家のみならず「社内に浸透させたい」(渡辺取締役)との狙いがあった。

他社の担当者からは、初めて作成した際のハードルや、プロジェクト進行の牽引役や規模、期間に対する質問が相次いだ。これに対し渡辺取締役は、自身が責任者として参加メンバーとワークショップを行い、専門業者とともに半年程度かけてまとめた経緯を説明。「外向きにうまく見せるために本質がずれてしまうことだけはしたくなかった」ことから、理想と現実のバランスをいかに取るか配慮した。また、情報を勝手に公開することはできないため、社内調整がキーポイントになったという。

発行から3年目で作業負担は多少軽くなったものの、誰かが率先して取り組まなければ顧みられない性質の活動であることに変わりはないが、社内の他部署を巻き込む動きも起きている。

ユミルリンクで有価証券報告書を制作する部門は、サステナ情報の項目設定や数値の把握、取りまとめが課題となる。統合報告書を作成する過程で、人的資本の情報も含めてサステナの項目を定めることから、同部門とともに数値や項目を定める場面が生じている。

個別の部門だけでは話が進まなかったことが想定でき、それを回避できたというメリットに加え、各部の担当者を集めて、人的資本を含めて会社の在り方や目指すべき水準の考え方を一致させることができる良い機会になり、「社内的にも良かったと定性的に感じているところだ」(渡辺取締役)という。

次回はIR活動に関する効果測定を主な議題とする予定。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]