キャピタルアイ・ニュースは3日、キャピタル・アイAwards “BEST DEALS OF 2022”を発表した。引受証券会社と機関投資家へのアンケートをもとに編集部審査を加え、2022年度の債券・株式発行市場における優良案件・発行体を選出した。
普通社債の富士フイルムホールディングス、財投機関債等の大阪大学と日本高速道路保有・債務返済機構はいずれもSDGs債で、この市場の拡大が当年度も反映された。地方債では“慣行破り” の横浜市債、非居住者円債ではサムライ債のフォーマットを続けるBPCE、外債部門ではユーロ建てで一般事業会社最大の発行だったJR東日本が受賞した。IPO部門は、当年度最大規模のソシオネクスト、POではゆうちょ銀行の大型売り出し、REITではGLP投資法人が選出されている。
以下が授賞リスト(< >内は主幹事/株式のグローバル案件はグローバル・コーディネーター、日付は条件決定日/決議日)。
~普通社債部門~
BEST DEALS OF 2022
第16回 富士フイルムホールディングス債 4月14日 3年 400億円
第17回 富士フイルムホールディングス債 4月14日 5年 400億円
第18回 富士フイルムホールディングス債 4月14日 7年 200億円
第19回 富士フイルムホールディングス債 4月14日 10年 200億円
〈大和/野村/三菱UFJモルガン・スタンレー〉
講評: 一般事業会社による国内最大のソーシャルボンド。期初の大型案件として投資家の注目を集め、4年限で総額1200億円の起債を実現し、2600億円超の需要を創出した。バイオ医薬品製造の子会社に資金を充当しており、コロナ禍で医療に対する関心が高まっているなか、社会的な意義が評価された。
BEST ISSUER OF 2022
損害保険ジャパン
講評: 5・10年で初のシニア債、約6年ぶりの劣後債で計2270億円と、高い信用力を生かして大型の起債を実現した。劣後債は、同市場および10年ゾーンの不振があったなかで、60NC10の年限を選び、1270億円という規模で起債してポジティブサプライズとなった。
WORST DEAL OF 2022
該当なし
~財投機関債等部門~
BEST DEAL OF 2022
第1回 大阪大学債 4月22日 40年 300億円
〈みずほ/野村〉
講評: 2例目となる大学債かつ自身のデビュー債。サステナビリティボンドはこのカテゴリーで初めてだった。IRを積極的に行って産学連携に注力していることなどを訴求し、40年債としては多い35件の投資家から2400億円程度の需要を集めた。24件の投資表明を集め、SDGs債市場と大学債市場の拡大に貢献した。
特別賞
第288回 日本高速道路保有・債務返済機構債 9月2日 20年 150億円
〈野村/大和/みずほ/三菱UFJモルガン・スタンレー/SMBC日興〉
講評: 国債カーブ+1bpという実勢と乖離した20年物公共セクターの水準を+10bpへと大幅に修正し、この年限の適正値を示した。+1bpでの起債を可能としていた公的の資金が枯渇し、新たな水準が求められていたなか、地方債に先んじてワイド化を敢行し、超長期ゾーンにおける公共債のプライスリーダーとして存在感を示した。
BEST ISSUER OF 2022
日本政策投資銀行
講評: 財投機関債として最大の総額3700億円を起債。定例の3年・5年・10年債のほか、2年・20年・40年債も発行し、幅広い年限で投資機会を提供した。定例年限は毎期初に登場し、プライスリーダーの役割を果たしている。2年債は自身初の国内公募サステナビリティボンドとし、ESG債投資のニーズにも応えた。
WORST DEAL OF 2022
該当なし
~地方債等部門~
BEST DEAL OF 2022
令和4年度第3回 横浜市債 11月18日 10年 100億円
〈ゴールドマン・サックス/東海東京/野村〉
講評: 10年物地方債における同月・同スプレッドの慣行を初めて破った案件。11月の先行銘柄が、セカンダリーのワイド化にも関わらず前月並みの国債カーブ+20bpで決まり、レス販売が横行して実勢は+20bp台後半に広がっていた。これに応じて、定例銘柄の起債が終わった後に動き、5bpワイドな+25bpで18日にローンチした。これによって大口先が復活し、12月の案件を経て、7月から続いたワイド化基調が止まった。
BEST ISSUER OF 2022
地方公共団体金融機構
講評: 10年債を毎月で計12本、5年債を2本、20年債を7本、30年債を2本、総額5000億円近くを供給した。特に10年債では、地方債で需給が悪化するなかでも、独自の投資家層の厚みが活きて安定的な起債を続けた。下期には発行額の単位をそれまでの50億円から10億円とすることを定例化した。これで柔軟な増額ができるようになり、ロットの確保を求める投資家から歓迎された。
WORST DEAL OF 2022
該当なし
~非居住者円債部門~
BEST DEALS OF 2022
サーモフィッシャーサイエンティフィック グローバル円債 10月14日 3年 223億円
サーモフィッシャーサイエンティフィック グローバル円債 10月14日 5年 289億円
サーモフィッシャーサイエンティフィック グローバル円債 10月14日 7年 47億円
サーモフィッシャーサイエンティフィック グローバル円債 10月14日 10年 63億円
サーモフィッシャーサイエンティフィック グローバル円債 10月14日 20年 146億円
サーモフィッシャーサイエンティフィック グローバル円債 10月14日 30年 333億円
〈シティグループ/みずほ/MUFG/SMBC日興〉
講評: 金融や公的セクターからの発行が大多数となるなかで、希少なシングルA格の米国コーポレート物として登場し、円債市場でのデビュー案件を成功裏に終えた。医療機器やワクチンなどを扱うことからコロナ関連銘柄としても注目され、3~30年の6本立てで幅広いニーズを取り込んだ。発行額の1101億円は、米国の事業会社としては、1700億円だった2017年7月のウォルマート・ストアーズ3本立て債以来の規模だった。
BEST ISSUER OF 2022
BPCE
講評: 2回の起債で総額1851億円と、2022年度の非居住者円債市場で機関投資家向け案件として最大額を供給した。欧米での利上げ継続を受けたボラティリティで起債自体を見送る発行体も存在するなか、シニア債・非上位シニア(SNP)債・劣後債という3つの異なる商品を揃え、投資機会を提供。日本国内の投資家が取り組みやすいようサムライ債のフォーマットで登場し続けたうえ、2022年7月の5本立て債では7NC6債を発行体と海外金融機関にとって初のSNP債でのグリーンボンドとし、ESGニーズを捉えた。
WORST DEAL OF 2022
該当なし
~証券化部門~
BEST DEAL OF 2022
該当なし
BEST ISSUER OF 2022
住宅金融支援機構
講評: 12本・計1兆2154億円の月次RMBSを供給し、証券化市場の維持・拡大に貢献した。金利の変化が大きかった当年度の市場でも、それに対応した運営への評価が高い。2022年4月の第180回債では年度最大額の消化を無事にこなし、6月債は金融政策による逆イールドやスティープ化に対応して1bp上方修正。ワイド化はその後も続き、同10月の第186回債はノミナルの拡大幅が16bpに達した。2月の第190回債でワイド化が止まったうえ、久々にシ団を編成して正常化と需要の盛り上がりを市場に伝えた。1月の第189回債と3月の第191回債は、金利の急低下に対応して下限利率を設定し、第191回債ではそれがヒットしてローンチに至った。
WORST DEAL OF 2022
該当なし
~外債部門~
BEST DEAL OF 2022
朝日生命保険劣後債 1月17日 永久(NC5) 3億7500万ドル
〈シティグループ/みずほ/モルガン・スタンレー〉
講評: 米金融当局による利上げの着地点が見えてきたことによる年明けからのセンチメント回復を確認したうえで、Regulation Sオンリーの保険劣後債としていち早く登場し、同形式のドル債と保険劣後債の復活を印象付ける案件となった。機動的な運営でピーク時には64億ドルのオーダーを獲得。日本生命保険による2021年9月のドル債以来となる本邦保険ハイブリッド債としても注目された。イニシャルプライスソーツから60bpものタイトニングに成功しただけでなく、想定フェアバリューを最大30bp下回った。
BEST ISSUER OF 2022
JR東日本
講評: 3回で総額26億ユーロ(3619億円)は2022年度のユーロ建て債市場における本邦一般事業会社で最大の発行額。2022年4月に11年債、9月に3年・8年債、2023年2月に20年債で登場し、クレジットカーブを形成するとともに、多様な年限で投資家のニーズを取り込んだ。20年債は発行体の同通貨で最長年限かつ初のグリーンボンドであり、ESG債投資の意識が高い欧州勢の関心を引き寄せ、発行額の4.9倍近い36億5000万ユーロのオーダーを集めた。
WORST DEAL OF 2022
該当なし
~新規公開株式部門~
BEST DEAL OF 2022
ソシオネクスト 10月12日上場 売出:1829万7300株 667億8514万5000円
〈SMBC日興/野村〉
講評: 投資家の目線が割れない価格設定と、IOI(Indication of Interest)などで国内外の需要を喚起。世界的にも稀な事業内容もあいまって、仮条件時に価格を引き上げたうえオファリング規模を1.5倍にし、当年度の日本株IPOとして最大規模の案件を実現させ、コロナ後久々だったグローバルオファリングとして、市場の信頼回復に貢献した。
WORST DEAL OF 2022
ベースフード 11月15日上場 公募・売出:640万7300株 51億2584万円
〈三菱UFJモルガン・スタンレー〉
~既公開株式 公募・売出部門~
BEST DEALS OF 2022
ゆうちょ銀行 2月27日 売出:9億7536万5300株 1兆1031億3815万4300円
〈大和/野村/ゴールドマン・サックス/三菱UFJモルガン・スタンレー〉
講評: 1兆円を超える大型売り出しを完遂。個人投資家向けの初のオンラインロードショーや2回にわたる自社株買いで手堅い需要を集め、オファリング期間の終盤に発生した外部環境の急変を乗り切った。
野村総合研究所 11月25日 売出:3696万8100株 1113億1094万9100円
〈野村〉
講評: 売出人のアクティビスト対応を受けての売り出しだったが、国内外の投資家にアクセスする機会ととらえ、フルマーケティングで臨むなど発行体の能動的な姿勢が光った。適切なアロケーションや自社株買いと組み合わせた丁寧なディール運営も評価された。
WORST DEAL OF 2022
リニューアブル・ジャパン 8月30日 売出:382万6200株 25億4824万9200円
〈SMBC日興〉
~投資法人投資口 発行・売出部門~
BEST DEAL OF 2022
該当なし
BEST ISSUER OF 2022
GLP投資法人
講評: J-REITで当年度最大のオファリングを実施。豊富なパイプラインと物件の調達力で国内外の投資家の支持を集め、2回連続の短縮日程での販売に成功した。DPU成長率も従来と大きく変わらず3%を維持した。
WORST DEALS OF 2022
ケネディクス商業リート投資法人 10月6日 公募:2万口 51億2264万円
〈大和/野村/みずほ〉
グローバル・ワン不動産投資法人 11月17日 公募:7万0330口 75億0857万1460円
〈三菱UFJモルガン・スタンレー/野村〉
~転換社債型新株予約権付社債部門~
BEST DEAL OF 2022
該当なし
WORST DEAL OF 2022
サイバーエージェント ユーロ円CB 11月1日 7年 400億円
〈大和〉
■キャピタル・アイAwardsとは:
当年度の資本市場でなされたファイナンスのなかで最も優れた案件は何か、発行体は誰か、普通社債、財投機関債等、地方債等、非居住者円債、外債(日本企業による海外発行債)、証券化、新規公開株式、既公開株式、不動産投資信託証券(J-REIT)、転換社債型新株予約権付社債(CB)の各部門にわたって引受証券会社と機関投資家へアンケートを実施。回答をもとに、市場に円滑に受け入れられたか、市場にとって意義があったか、市場の発展や活性化に資するかなどの観点で編集部が選出し、表彰する。
最後になりましたが、アンケートにご協力いただきました皆様には心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
キャピタル・アイ編集部