
Siiibo証券代表取締役社長 小村和輝氏
Siiibo証券は、私募形式の社債に特化したネット証券会社。オンラインでの社債の発行・購入が可能なプラットフォームを運営しており、投資家向けに企業情報閲覧と社債購入管理サービスを、企業向けにIR掲載・社債発行をサポートしている。
具体的には、50人未満に限定する少人数私募のスキームをオンラインでプラットフォーム化し、これまで7社の私募社債をローンチさせた。1回当たりの発行額は数千万円から数億円規模。2~4年の年限で2~6.5%の利率となっている。申込単位は50~300万円。このほかに80社程度がIR情報を掲載しており、8月末時点での登録ユーザー数は800人ほど。
株式に比べると、個人投資家に馴染みがあまりない社債に目をつけた理由やビジネスの仕組み、将来への展望について、Siiibo証券代表取締役の小村和輝氏に話を聞いた。
■投資家と企業の選択肢を広げる
–Siiibo証券を立ち上げた理由について
私は元々ドイツ証券でクレジット物のトレードを担当していたが、そこで感じたのはプロ・アマチュアの投資家を問わず、インカムゲインの商品へのニーズが非常に強いことだ。一方、供給サイドでは市場が大きくなく、インカムゲインのニーズに対して仕組債など、分かりにくい商品を買わざるを得ないという課題がある。もっと社債市場のハードルを低くすれば、より裾野が広がって良い市場が作れるのではないかと考えた。少人数私募の仕組みをネットでプラットフォーム化すれば、格付け未取得の企業でも数千万円や数億円の社債が発行できる。
こうした思いを元に2019年にSiiibo証券を創業した。昨年4月にサービスをローンチし、同8月に第1号案件として、新興国向けの小口融資サービスを手掛ける五常・アンド・カンパニーが社債を発行した。
■市場規模2000~3000億円
–潜在的な発行規模について
格付け未取得の中小企業やベンチャー企業は資金需要が強く、これまでエクイティファイナンスや銀行借り入れが調達手段の主流だった。一方、マーケットクラッシュによってエクイティ以外の選択肢を探している企業も多い。負債の調達によってレバレッジをかけて成長したいニーズがあり、資本コストを考えても、エクイティを抑え、デットファイナンスの割合を増やす思惑がある。今は未上場のエクイティの市場は1兆円ほどと言われており、これに対して2~3割のデットファイナンスの市場があって然るべきと考える。
一方、国内の社債市場を見渡すと、投資適格級の格付けを取得した大企業が多く、社債発行のハードルが高いと言わざるをえない。銀行から借り入れる手もあるが、厳しいコベナンツが付くことが多く、資金使途も厳密に決められるケースもある。中小・ベンチャー企業でも社債が発行できれば、もう少しスムーズな資金調達ができると考えた。
–投資家にとってのメリットは
今後の成長企業に投資し、その分高い利回りが取れる。債券という商品自体は保全性の高いものだが、公募債市場ではハイイールドの分野が成熟しておらず、利回りが取れる商品が少ない。ベンチャー企業が社債を発行できれば、ハイイールド市場が生まれ、高いリターンを享受できる。また、株式や不動産だけでなく、社債のような商品に投資することで分散投資効果も考えられる。選択肢を増やす意味では意義が大きい。
■800人・資産額中央値5000万円
–登録投資家の顔ぶれについて
800人ほどいる登録ユーザーは、会社勤めで管理職が多く、資産額の中央値は5千万円ほど。一定の資産が形成されてきている向きに、投資の選択肢の1つとしてサービスを位置づけている。資産額1億円以上の富裕層は総世帯の2%程度しかいないが、資産額数千万円の層は意外と厚い。富裕層であれば総合証券の担当者が付き、投資について提案を受けられるが、その下の層はネット証券を使用する傾向が強く、買える商品が限られており、担当者も付いていない。このため、満足に投資ができていない可能性が高い。このニーズに対して企業の私募社債を提案したい。
8月16日、お金の相談マッチングプラットフォーム「お金の健康診断」を運営する400Fとの連携を発表した。400Fのユーザーで、未上場企業を始めとする多様な企業の社債に関心を持つ向きに対し、発行ニーズのある企業を紹介する。これによって、投資家層がさらに広がると見ている。
–投資の流れについて
スマートフォンなどで口座を開設した後、私募対象に選ばれるプロセスがある。いろんな企業に希望条件が出せ、これが積み上がってくると、当社は企業に資金調達を提案する。その後は私募対象者を選び、募集をかけて申し込んでもらい、発行に至る。発行した場合、当社は企業側から発行手数料をもらうが、投資家側から費用を徴収しない。
–債券の知識の必要性について
口座開設基準にリテラシー項目を設けており、投資経験が1年以上は必ずあることを要件としている。ただ、社債は馴染みが薄いだけで、実は株式より商品性としては単純だ。その企業が債務不履行を起こさなければ、決まった利率のお金が返ってくるだけ。商品性の理解は容易く、企業研究のほうを優先すれば良い。
■私募だからこそ情報開示
–発行基準について
3次審査体制を取っており、審査機能の部署が独立して審査に当っている。そのなかで企業側から徴求した資料は、できるだけ投資家に開示している。公募債ではルール以上の財務情報を細かく出せないが、私募債になると、細かい事業計画や発行体のコメントなど、より精緻な情報で投資判断ができる。私募形式だからこそ限定した投資家にきめ細かく提示できる。当社は開示情報の正確性をしっかりと審査する。
審査フローについて、まずフロントが財務諸表などを調査し、1つのシートに情報をまとめる。フロントが良しと判断したものが2次審査に上がり、その段階で任意監査を受けてもらう。営業のインセンティブが働かない者と会計士の意見を取り入れる、ここを通過すれば3次審査に進む。今度はコンプライアンスの視点で、条件の適正性が成立しているなか、法的に問題がないかを見る。最終的には当社の経営会議で可否を判断したうえ、発行に至る。一連のプロセスは数ヵ月の時間を要することもある。
厳しい審査によって、発行を断る事例が出ているが、発行済み企業で債務不履行、支払い遅延は今のところ一切発生していない。
–発行条件の決め方について
銀行からの借り入れの条件やほかの私募債との比較で決めることが多い。クレジットリスクや倒産確率なども総合的に勘案している。また、フェアな水準で発行できるように、当社による審査も入っている。
–セキュリティトークン債について
創業時から技術自体は注目している。当初は暗号資産をベースにした発行スキームを組んでいたものの、オペレーションの効率化に繋がらなかった。そのため、社債が買える体制を優先したほうがいいという考えに至った。

Siiibo証券代表取締役社長 小村和輝氏
–ESG債について
第三者機関のセカンド・オピニオン取得の手間とコストが負担になる。また公募債とは違い、ICMA準拠ではないからといって買えない投資家は少ない。資金使途のESG性を投資家が見ており、そのうえで判断している。
–今後の課題について
これまでは投資家側の機能を充実していたが、今後は発行企業のプロダクト開発に専念したい。メザニンやCB、業績連動金利の債券も発行できるようにし、利回りの高い商品と、低くて保全性の高いものを作り、バリエーションを増やしていく。
審査プロセスの効率化も進め、任意監査の時間を短縮して私募債の機動性をさらに生かしたい。
[聞き手:キャピタルアイ・ニュース 趙 睿]