CAPITAL EYE

株式・債券の発行市場にフォーカスしたニュースサイトです。

スタートアップの横顔(4):アダワープジャパン

ロゴアダワープジャパンは、人型ロボットや重機を遠隔地からリアルタイムに操縦する「テレプレゼンス技術」を開発するベンチャー企業。起業の経緯や業務の現状、今後の方向性について、安谷屋樹社長に聞いた。PDF版はこちらからダウンロードできます。

安谷屋樹社長

安谷屋樹社長

■VRでロボを操る
安谷屋社長は、2011年に千葉大学に入学し、コンピュータ―サイエンス系の工学部情報画像学科に所属。在学中の起業と、当時渋谷にあったスタートアップでのインターンを経て、新技術の開発に魅力を感じ、2014年の9月から1年間、文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN」で米国のシリコンバレーに留学した。「瞬間移動装置を作りたかった」(安谷屋社長)。

 

 

 

Empathy VRでは、日米間をつなぎリアルタイムコミュニケーションを実演した

Empathy VRでは、日米間をつなぎリアルタイムコミュニケーションを実演した

2015年4月に、友人とハードウェア寄りのテック系イベントである「Maker Faire」に「Empathy VR」 というプロジェクトで参加。安谷屋社長はユーザー・インターフェイスとアプリケーション開発を担当した。VR機器のOculus Riftを装着した人と、遠隔地に設置したロボットの動きを同期させてコミュニケーションを取るデモンストレーションを行った。あるVCの薦めで応募したアクセラレーションプログラムを通過し、1000万円を調達した。

 

クマ型のテレプレゼンスロボット。当初はカップル向けの製品開発を進めていた

クマ型のテレプレゼンスロボット。当初はカップル向けの製品開発を進めていた

留学中の遠距離恋愛で、日本にいる彼女(元)に実際に会っているようにコミュニケーションを取るという発想で、クマ型のテレプレゼンスロボットを作った。翌年、製品の完成前に彼女と別れ、「テクノロジーの力では恋愛の問題は解決できない」と悟るも、2017年に1000万円の資金が底を尽いた安谷屋社長は、エンジニアへの転向を決意した。当時は自分のアイデアを形にするために自身でプログラムのコードを書くことができなかった。

 

テレプレゼンスロボットの”ワープマシン”。利用者がヘッドセットを被って頭や手を動かすとロボットの頭や手もほぼ同時に動く

テレプレゼンスロボットの”ワープマシン”。利用者がヘッドセットを被って頭や手を動かすとロボットの頭や手もほぼ同時に動く

■ターゲットは経営者
2014年に設立した米国のアダワープを一旦休眠させ、2017年末に日本法人アダワープジャパンを設立。2018年の1年間は、ロボットやテレプレゼンスとは関係のないWEBやアプリ開発を受託した。余裕が生まれたため、今年からテレプレゼンス系の受託開発に絞り、経営者用のテレプレゼンス製品「ワープマシン」を提案することにした。安谷屋社長自身が、インドなど海外から、VR機器のOculus Goを使って日本のオフィスに設置したロボットを通じてコミュニケーションを取る実証実験を進めている。

ワープマシン”を使ったミーティングの様子はこちら

 

「一番の強みは、ほどほどの割り込みのコミュニケーションができること」(安谷屋社長)。スカイプやZoomなどのコミュニケーション用のアプリでは、ソフトを立ち上げて、相手に招待の通知を送り、相手方が所定の手続きを完了させることで通信が成り立つ。ワープマシンの場合、遠隔地の利用者がデバイスを装着すると同時に、ロボットが起動する。例えば、会社の複数の支店にロボットを置いていつでも本社や支店間でコミュニケーションを取るという使い道がある。

■重機を遠隔操縦
並行して、無人での施工を実現したい会社と協力して、建設機械の遠隔操縦を開発する。遠隔操縦については、福島県の原子力発電所や産業廃棄物処理場、火山地域などでニーズが見込まれる。利点は、例えば火山地域での作業を現地に人員を送らずに東京で行い、作業をしている人は交替で帰れば良い。「我々のやりたかった“人を移動させること”に近い」(安谷屋社長)。重機関係は日本とドイツが強く、日本はハード面で優れているが、IT化が遅れているという。

課題は通信速度にあり、Wi-Fiでは速いが、4GLTE回線では、映像や音声の送受信に約1秒の遅延(ズレ)が生じるという。「1~3秒の遅延というのは簡単に作れるが、0.5秒ぐらいでないとつらく、もう少しという感じはある。5G通信の普及で、実用性が出てくる」(安谷屋社長)。遅延の発生を500ミリ秒(0.5秒)以下に抑えたいという。

重機であれば、搭載したカメラが捉えた映像を信号に処理するのに20ミリ秒(0.02秒)ほどの遅延が生じる。さらに、ネットワークに乗せるときや、それをPCが受信、表示するに時にも遅延が生じる。送受信の往復で0.2ミリ秒の遅延が起きる。通信のどの過程で遅延が起きているのか把握しにくいことに難しさがある。

■プラットフォームか自社サービスか
ロボット開発と遠隔操縦のニーズ開拓を進めながら、受託開発で収益を上げつつ、ワープマシンを開発するためのSoftware Deveropment Kit(ソフトウェア開発キット、SDK)を開発しており、そのライセンシングを検討中。テレプレゼンスは、ハードウェア操作から組み込みソフトウェア、インターネット通信、ネットワークまで広い領域をカバーしなければならず難易度が高い。マイクロソフトのようにテレプレゼンス用のシステムを作って、それをソニーにライセンス販売し、ソニーがそのシステムを使ってロボットを作るというプラットフォーム型のビジネスモデルが理想的という。

一方で、「移動型のロボット“ワープマシン2”を考えていて、経営者向けに定額制でレンタルしたい」。Oculus製品だけでなく、スマホなど他の機器での操作も可能で、月額3万円ほどを想定している。

また、ANAホールディングスがスポンサーとなり、米国のXプライズ財団が2018年から4年に亘って運営するコンテスト「ANA AVATAR XPRIZE」に参加する。「AVATAR」とは先端技術を使うことで、遠隔で距離や時間の制約なく操縦者の分身として行動するロボットを指す。参加者はAVATARの開発を求められ、コンテストの具体的な内容はこれから明らかになるという。アダワープジャパンはソフト部門を担当し、ロボットを作る会社とタッグを組む。

■テレプレゼンス市場を作る
国内のテレプレゼンス業界では、既に1億円以上の資金を調達している会社が複数存在する。だが、安谷屋社長が危惧しているのは、未だに誰もビジネスモデルを作れていないことだ。性能が良くとも単価の高いロボットでは出荷台数に限界があり、利益につながりにくい。「月額3万円ほどで使える経営者用のロボットが全世界で1000~1万台ぐらい使われるとすると、月額で3000万~3億円ほどの売り上げとなる。我々はテレプレゼンスでうまく市場を作って、売り出していくことにフォーカスしていきたい」(安谷屋社長)。AIが流行するなか、テレプレゼンスという言葉の認知度はまだ低いが、5~10年後にバズワードになった頃に良い立ち位置にいたいという。

ビジネス・コミュニケーション領域を主戦場と捉えているが、「Slackやビデオ会議で良いのではないかという話はもっともであり、まだどの辺りを攻めていくのかは分からない」(安谷屋社長)。アダワープはソフト中心ではあるが、ロボットを開発するため、ハードとソフトの両方が必要であり、競合が生まれにくい。米国などでは、ハードウェアを作るのは難しく、スケールメリットも限定的で、着手する者が少ないという背景があるという。

■最終的にはロボットに
アダワープジャパンの組織体制は6人。安谷屋社長とCTO、正社員とアルバイトが各2人ずつ。安谷屋社長の友人が運営するWELgeeという、難民にエンジニアリング教育を行うNPO法人とのつながりで、ガンビアとアフガニスタン国籍のエンジニアが在籍している。

会社の成長イメージについては、資金調達をしてからビジネスモデルを探すことは避ける。受託開発をしながら、外部の資金を入れずにビジネスの種を探して、「ビジネスモデルを確立した段階で資金調達し、テレプレゼンスが時流に乗るタイミングでIPOしたい」(安谷屋社長)。

第二段階として、「資金が出来たら、途上国に本拠を移して、日本では営業を全部ロボットで進めたい」(安谷屋社長)。シリコンバレーに一旦戻りたい気持ちはあるが、そこで開発を進めるのは、人件費と人材獲得の問題から難しい。「先進国にプロダクツを販売しながら、インドやカンボジアでソフト開発に取り組み、ロボットを作る技術が優れている日本でハードを開発したい」(同)。

安谷屋社長は、人間同士がオフラインで交流する重要性にも言及した

安谷屋社長は、人間同士がオフラインで交流する重要性にも言及した

最終目標は、レプリカントに近い人型のロボットを作ること。「私はどこか別の場所にいて、“ロボットになり”取材に対応するなど、そこまで到達するのに15年ぐらいかかるのではないか」(安谷屋社長)。さらに、重機の遠隔操縦に取り組んでいることから、月面にロボットを置いての作業も手掛けたいと話した。

 

 

 
画像などの出典:アダワープジャパン 資料(2019年8月)
[2019/8/14 :キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]


CAPITAL EYE © 2016
本情報の正確性には万全を期しておりますが、情報は変更になる場合があります。 また、第三者による人為的改ざん、機器の誤作動などの理由により本情報に誤りが生じる可能性があります。 本情報は、情報の提供のみを目的としており、金融商品の販売又は勧誘を目的としたものではありません。 投資にあたっての最終決定は利用者ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。 本情報に基づいて行われる判断について、株式会社キャピタル・アイは一切の責任を負いません。 なお、本情報の著作権は、株式会社キャピタル・アイ及び情報提供者に帰属します。本情報の転用、複製、販売等の一切を固く禁じております。