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スタートアップの横顔(3):MiL

画像①MiLのロゴ

MiLは食に着目したベンチャー企業で、子育て中の家庭向けに定額で離乳食を配達するサービス「Mi+(ミタス)」を今年4月に販売開始した。同社は東京・西麻布でおいしさと健康の両立を目指すレストラン「倭」を運営するとともに、食生活に焦点を当てたWEBメディア「life with」で情報を発信する。起業までの経緯や業務の現状、今後の展望を杉岡侑也社長に聞いた。PDF版はこちらからダウンロードできます。

杉岡侑也社長

杉岡侑也社長

■“働く”に出会う
杉岡社長は、2008年3月に近畿大学附属高等学校を卒業後、フリーターとして20以上の職を転々としていた。関西で大学生向けのインターンシップが流行り始めた頃で、自身も周囲の友人に誘われてインターンに参加し、働くことの面白さを見出した。その後、オンライン決済サービスなどを手掛けるROBOT PAYMENT(当時のJ-Payment)の清久健也社長の“いままで何をやってたじゃなくて、これから何をやるかだよ”という言葉に感銘を受け「この人の元で頑張ろう」と23歳で上京した。同社での1年間の勤務を経て独立し、2015年6月にTerraceを設立した。同社は若者をテーマにしたプロモーション支援事業などを手掛ける。

創業当初は、知己の経営者から寄せられる商材の営業代行で、美容のWEBメディアの広告枠などを販売していた。2016年9月に100%子会社としてBeyond Cafeを設立した。同社は数万人の若者と双方向のコミュニケーションがあり、そのライフスタイルの調査などマーケティングや人材採用関連事業を行っている。

■埋もれた知見を食に
2018年1月のMiLの設立には二つの背景がある。一つは働き方改革が叫ばれ始めた頃に、若者が就職後に健康で長く活躍できる社会が大事だと思い、社会に出た後をサポートする事業に携わりたいと考えたこと。もう一つは身近な人々が持つヘルスケアの知見の活用だった。「妻が保育士と介護士で、障害を持つ子どもの介護の現場で働いており、彼女を介して、障害を持っている子は、運動や食事の習慣がなかなか身に付かないことを見ていた」(杉岡社長)。

現場で働く人たちの知見は、「世の中に求められているが、ビジネスパーソンが介在せず、埋もれたままでお金に変わっていない」(杉岡社長)。ウェルネスやヘルスケアが重視される社会で、この知見を生かすことができれば、悩んでいる人たちだけではなく、もっと多くの人たちに影響を与えられると考えたという。

「倭」で提供されるコースの一例。杉岡社長は「”美味しい″が先に来て健康的」というコンセプトが伝わったのではないかと開店当時を振り返る。倭にはMi+の野菜ピューレの開発ラボとしての役割もあり、その一部は、写真左下の蕪のスープなど、食事に取り入れられている。

「倭」で提供されるコースの一例。杉岡社長は「”美味しい″が先に来て健康的」というコンセプトが伝わったのではないかと開店当時を振り返る。倭にはMi+の野菜ピューレの開発ラボとしての役割もあり、その一部は、写真左下の蕪のスープなど、食事に取り入れられている。

飲食業の経験がなかった杉岡社長は「誰にとってもしんどい飲食店から始めよう」と、マクアケのクラウドファンディングサービスで1000万円を超える資金を集め、西麻布に和フレンチレストランを2018年6月に開店。600キロカロリーのフルコースで、「おいしさと健康が両立することを証明した」。より多くの人にMiLの考え方を伝えるためのWEBメディア「Life with」は、来店した顧客のエンゲージメント向上に主眼を置いている。

 

 

 

毎月1~2回、定期的にベビーフードが届く

毎月1~2回、定期的にベビーフードが届く

■食習慣を変える
店舗運営のなかで杉岡社長は、食習慣の変え難さに衝撃を受けた。顧客が店舗で健康的な食事を理解しても、日常では自分で食事を選べないケースなどを目の当たりにしてきた。MiLの目指すものは「皆が自分をマネジメントでき自分らしく生きられる社会を作ること」であるため、試行錯誤の末、子どもが生まれたタイミングで家族の食習慣を一気に変えるために、ベビーフードを届けるMi+にたどり着いた。MiLは、ベビーフードが必要な段階の乳幼児190万人弱の10%ほどをサービス提供対象と捉えている。

 

製造工場との対話を重ねて作られる製品の原料は、旬の野菜のみ

製造工場との対話を重ねて作られる製品の原料は、旬の野菜のみ

比較的食べやすいカボチャや人参だけでなく、子供の味覚の成長に必要な苦みがある小松菜などの野菜もピューレにする

比較的食べやすいカボチャや人参だけでなく、子供の味覚の成長に必要な苦みがある小松菜などの野菜もピューレにする

Mi+は、子どもが初めて食べる食事をサポートする。「倭」のシェフや栄養士が監修して、その時期に食べるべき野菜を食べやすい形で、調味料や添加物、保存料を使用せずペースト状にして届ける。利用料金はトライアルが5食分で2500円(税抜き)。5種類の野菜とそのピューレを伸ばす「だし」、うまみ成分が詰まったタマネギのエキス、それらを使って「素早く簡単に」完成するレシピを冊子にして送る。本契約では、1万2000円(同)で20食分届く。季節に合わせた旬の食材選びと調理の手間を省くことができ、子供の味覚の成長に寄与するという。「子供は3歳前ぐらいまでに食べた味を覚えていて、どのような味で育ったかにより、大人になってからの食習慣が決まってしまうというデータがたくさんある」。

 

:左手奥から手前にかけて、蕪とトマトのピューレ、右側は豆乳で伸ばしたもの。記者も試したが、大人が食べても美味しい

左手奥から、蕪とトマトのピューレ、右側は豆乳で伸ばしたもの。記者も試したが、大人が食べても美味しい

将来的には利用者に合わせた食事のカスタマイズに取り組むことも検討しているが、まずは、「課題を抱える忙しい母親から、『子育てでの料理の大変な部分をMi+でサポートしてもらえたから充実したママライフを送れた』という声をたくさん集めていく」(杉岡社長)。そのためにインスタグラムのアカウントで双方向のコミュニケーションを取っている。

 

パッケージに同梱される説明書の右下にあるQRコードから、子育ての先輩に質問できる

パッケージに同梱される説明書の右下にあるQRコードから、子育ての先輩に質問できる

また、トライアルも含めた会員向けに、栄養士や保育士の資格を持つ現役の母親が、LINE@で子育ての疑問に答えるサービスを無料で提供しており、「これ食べなかったけど何ででしょう」といった疑問や「こういうアレルギーが出たけどどうしたら良いでしょうか」といった声に応える。「Mi+としてどのようなコミュニケーションを取るべきかに加えて、特殊な経験・知見を持つ先輩ママが、新しくママになった人たちにナレッジを共有する」(杉岡社長)。昔で言う井戸端会議のようなイメージだという。

 

インスタグラムに投稿された利用者のコメントには、6000件以上の「いいね」という反応がある。最近の母親は、これまで手作りが是とされてきた料理についてもアウトソーシングし、代わりにできた時間で子供とのコミュニケーションを大事にすることが子育ての本質と考えていることが、SNSの反応を呼んでいると杉岡社長は分析する。

■データの観測ツールとして
杉岡社長は「腸やDNA、血液、尿など、バイタルのデータの取り方はいろいろあると思うし、様々なベンチャー企業が登場していると思うが、商業利用の観点からすると、マーケットも含めてまだ揃っていない」としつつも、データの活用を視野に入れる。「僕らベンチャー企業でも、たくさんの人たちのデータを定点観測する社会の一つのツールとして役割を果たすことができれば素晴らしい」。大学の研究機関や、官民を問わずいろいろなパートナーと、データを集めてエビデンスを作ることに積極的に取り組みたいという。テクノロジーがマーケットで実際に動き始める時に、「僕らがそれを活用してビジネスをできるブランドになっていることができれば、是非活かしていきたい」(杉岡社長)。

MiLは、2018年に上場したMTG(7806)のCVCであるMTG Venturesによる出資を今年1月に受けている。きっかけは元プロ陸上選手の為末大氏の紹介だった。ビューティーやウェルネス領域に注力するMTGのネットワークの紹介や、協業先の相談、ブランドづくりのメソッド提供を受けた。「十二分に感謝しているし、良かったところを挙げるときりがない」(杉岡社長)。挑戦しているマーケットの構造が異なるため商品は違うが、そこに至るまでの考え方を学んでいるという。

■雇用にこだわらない組織
現時点でMiLには、専門領域を持つメンバーが参画している。マーケティングの専門家や介護士、保育士、フランスで修業して日本でも実績のあるシェフが2人、プロアスリートなどをサポートする管理栄養士が1人、事業を2回イグジットした経験のある若い連続企業家が社内にいる。

今後の組織の大きさについては、「少数精鋭の時代ではないかと思っていて、僕らの会社も、たくさんの人が働くというよりは、たくさんの人が関わっているようにしたい」。杉岡社長によれば、雇用だけが働く形ではないと考えており、「僕らの会社が、深い知識や経験がある人たちの知見をお金に変えられる手段になれば良いと思うが、必ずしも雇用がそれにつながるとは考えてはいない」。先述のLINE@で働く現役の母親たちも業務委託というかたちで契約しているという。

予防医療やヘルスケアについて、日本だけでなく世界中の課題になると捉え、高齢化が進む先進国が蓄えた知識や知見を「エンターテインメントとしての食と掛け合わせて海外に輸出できる会社になれば」と話す杉岡社長

予防医療やヘルスケアについて、日本だけでなく世界中の課題になると捉え、高齢化が進む先進国が蓄えた知識や知見を「エンターテインメントとしての食と掛け合わせて海外に輸出できる会社になれば」と話す杉岡社長

上場については、機会が積み重ならないとたどり着かないとしつつも、「通過点として必ずやり切りたいと思っている一つのゴール」としている。

■社会に必要な食のブランドに
杉岡社長によれば、一般的に食のブランドとして思い浮かべられる企業は、19世紀から20世紀初期にかけて発展してきた会社が多い。ライフスタイルが目まぐるしく変わり、そのスピードも加速度的に上がっている現在、「食のブランドも進化したり、新しく出てきても良い時代になってきている」。大企業が進化する一方、新しい会社が発揮できる価値もあると見ており、「うまく連携を取って社会に必要な食のブランドになっていきたい」という。

 

会社名 株式会社MiL (MiL Inc.)
代表取締役 杉岡侑也
設立 2018年1月
メールアドレス support@mil-inc.com
所在地(本社)東京都渋谷区桜丘町21-4渋谷桜丘町ビル3F
(倭西麻布)東京都港区西麻布4-10-1ラポート西麻布B1F
(営業所)東京都渋谷区神南1-12-16Asiaビル6F
資本金 1750万円(資本準備金含む)
事業内容 飲食店経営、ケータリング、商品プロデュース、食品販売、食品卸、レシピ開発、メディア運営
URL https://mil-inc.com/

画像などの出典:MiL 資料(2019年4月)

[2019/5/9 :キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]


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