株式・債券の発行市場にフォーカスしたニュースサイト

上場会見:エアークローゼット<9557>の天沼社長、レンタル資産をしっかり回転

7月29日、エアークローゼットが東証グロースに上場した。初値は公開価格の800円を13.75%上回る910円を付け、1060円で引けた。女性向け衣料品の定額レンタルサービス「airCloset」を運営する。顧客の好みに合わせた衣服をスタイリストが選定し、月額6800円(税別)から提供する。3月末の有料会員数は3万2000人。天沼聰社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

レンタル資産である洋服に関する物流やクリーニングに関しても研究開発を続けてきたと話す天沼社長
レンタル資産である洋服に関する物流やクリーニングに関しても研究開発を続けてきたと話す天沼社長

―初値がストップ高になったが
今は市況全体が非常に複雑で難しいなかで、公開価格を超えて評価してもらえたことは、非常に心強く感じている。長い目線で見た時に、そのような市場の評価を得ることが、今後上場企業とて大事なポイントなので、まずは市場に見てもらえたと感じた。特に、今年に入ってから初の赤字上場で、将来性や収益の蓋然性をどう捉えるのか、それは個々の投資判断による部分ではあるが、それが一定の評価を得た。

―難しいマーケット状況の時に、それでも上場したのはなぜか
このビジネスモデルは、日本のなかでは見渡してもなく、市場もない。我々が上場するタイミングで必要なのは、事業モデルがしっかりと長く成長するに足る準備が完了した状態であることだった。黒字化の蓋然性が我々のなかで見えたタイミングが大事で、上場前には、例えば、オペレーションコストをしっかりと削減して、限界利益を高めることに注力してきた。昨年、上場に向けて準備が整い、進める意思決定を行ったが、その後に社会経済が大きく変わって、戦争やコロナの影響が残る状態になった。

それでも上場のスケジュールを大きく変更なく進めたのは、1つは長期的な成長のために、上場に資金調達を求めたことだった。もう1つは、社会的な信頼・信用の獲得だった。後者に関しては変わらないだろう。前者は、調達額もガラッと変わり、選択肢も変わる点が悩ましかった。

我々の事業が確立し、さらに多額の投資が必要なビジネスモデルではなく、成長角度を調節できるので、リスクがない状態で推進できるのであれば、上場のタイミングを変える必要はないと考えた。

―平均利用年数はどの程度か
森本奈央人執行役員:実際の期間は開示していない。サービスの利用を開始してから3ヵ月は多くの人が退会するが、それ以降に退会率が落ち着いてきて、退会されなくなる。実際に長く続けてくれる顧客がいるなかで、平均の利用自体もどんどん積み上がっていくことで変わっていくと捉えてもらいたい。

―BtoBのSaaSと比較して一度退会した人が再び加入する率が7%と高いとのことだが、その理由は
天沼社長:大きく2つあり、BtoBのSaaSは一度止めると再登録が難しい。決済もそうだが、徐々に市場を食うと言われているが、できる限りやめないようにしていくことがメインだ。BtoCの事業モデルは、全体的に帰ってきやすい。

もう1つ、サブスクリプションのサービスとはいえ、半年間止められないとか、1~2年間の縛りがある仕組みではなく、毎月解約でき再度入会できる。ライフスタイルのなかで柔軟に切り替えができることを意識して創業以来サービスを設計してきた。これが一定の評価を得たのではないか。

例えば、会員に直接ヒアリングすると、シーズンや時期、タイミングに応じて使い分ける人、自身の仕事のシーンが変わった際に活用する人もいる。短期的に活用して、別の機会に使う人と、長く続けてくれる人、いろいろな使い方に柔軟に対応できるサービスの作り方がポイントになる。

―認知度が4%にとどまるとのことだが、向上策は
経営戦略として志向するなかで、大きな道として、我々が(数字を)読める形で進めることと、大きな一手を打っていく2つの方法がある。具体的にいえば、例えば、テレビCMは認知度アップのために必ず語られるが、この手法が我々のビジネスモデルにフィットするかは経営上も非常に重要だ。

ビジネスモデルの拡張の話にもなるが、そのためにバランスを取っていく3つの要素のうち、1つはレンタル用資産の量のコントロール。もう1つは物流のキャパシティの拡大。パーソナルスタイリングのスタイリストのキャパシティを上げること、この3つの規模を大きくしていく。

そのなかで効率性が非常に求められるのは、レンタル用資産がしっかり回転するか否かだ。多くの資産を買って回転率が下がるのは事業にダメージを受けてしまう。そこを注視するが、そのうえで、テレビ広告は月額会員の数の獲得につながる数が読みにくく、このモデルには今のところあまりそぐわない。

上場後に大々的にそのような施策を打っていくかといえば、そのような方向性ではなく、例えば、最近ではWeb広告のようにコンバージョンやCPAの数字を一定程度計算できる小規模なテレビCMの仕組みも、技術として出ている。そのようなものを細かく繰り返して、マーケティングチームが数字を予測でき、正確性が高いであろうものを見据えられたタイミングでトライしたい。テレビCMではなく、これまでのようにWeb広告で認知度を上げていく。加えてSNSの戦略も認知度アップに非常に強い影響があるので、並行していく。

―関連して、2022年6月期には前期と比較して2億3000万円ほど増やしたが、今後の広告宣伝費のかけ方は
広告宣伝費の総量よりも、我々がKPIとして基本的に注視するは、広告宣伝した場合のCPAという獲得効率だ。1広告あたりの獲得効率、1人の顧客が月額会員として登録してもらうために必要な額の効率で、非常に重視している。獲得効率が下がらないように、いろいろな広告チャネルをバランスよく持つ。

例えば、昨年の秋には、コロナ禍の影響で獲得効率がかなり悪くなった。悪くなったが、同様のボリュームで広告宣伝費を打つと、本来獲れると想定したよりも少ない会員しか獲得できない。効率を追いながらビジネスモデルの成長の角度に近いものを保つための広告宣伝費はかけていきたい。突然増えるのではなく一定の比率で上がっていくとイメージしてもらえると、それほどのズレはない。

―無料会員が70万人ぐらいいて、今の有料会員が3万4000人と乖離がある理由と、有料会員化するための戦略は
無料会員になってもらうには、メールアドレスの登録がメインでハードルが非常に低いことが、大きく乖離がある理由だ。月額会員になってもらうには会費を月に数千円払ってもらう必要がある。(一般的な)アプリなどでは、無料会員と月額会員の単価の差が数百円なので、乖離が出にくい。我々は単価が大きくその差が多いことが1番のポイントだろう。

一方で、無料会員になってもらうことは、サービスに興味関心を持ってもらうことに加え、最近は、レンタル用資産をエコセールとして販売するが、その販売への興味から無料会員になる人がいる。そういう人たちに月額会員になってもらう施策も大事だ。

我々が継続して打つ施策で、「おかえりなさい」と呼んでいる再登録の人が一定の割合で存在する。いろいろな施策を打っており、例えば、無料会員から有料会員になって1度退会した人には、DMやメルマガで再度連絡する。退会理由に沿って、例えば、洋服のバリエーションが気になって退会した人には、種類が増えたことを伝えるなど、ナーチャリングに関しても、できるだけPDCAを回している。

―原料高で、クリーニングコストや洋服の値段もいずれ上がるだろうが、月額固定の会費なので、値上げは難しく、広告費も一定の比率で上がるなか、黒字化のシナリオやメドは
両面あり、限界利益の観点で、悪化する要因がリスクとしてどのぐらいあるのかと、限界利益が変わらないのであれば会員数を増やしていくことで、当然利益体質に変わってくる。そこは変わらない。

現状、円安や原価高、インフレの影響もリスクを孕んでいる。経営上、各ブランドの企業とかなり密にコミュニケーションを取り、リスクとしては、レンタル用資産の仕入れがコスト高になる部分がある。

クリーニングに関しては、パートナー企業と話すなかでは、まだ大きな影響はないが、配送に関しては、燃料費の高騰による費用の上昇はリスクとして捉えている。各企業とリスクがどの程度高まるかつぶさにコミュニケーションを取り、現状では大きく変わることはないが、今後のリスクとしては想定しながら推進する必要がある。

例えば、欧米のサブスクリプションの月額制の事業は、値段を柔軟に変える。したがって、もしかすると今後は我々も戦略の選択肢の1つとして捉えることもあると思う。

―黒字化の目線やメドは
黒字化の目線は非常にシンプルで、一定の会員のラインや、顧客1人当たりの限界利益が常に分かっている。人件費や本部部門は効率化できたので、どのタイミングまで会員を増やすかという目線が、我々のほうでは見えている部分がある。しっかり目標として持つ部分があり、そこに向けて歩を進めることが1番だ。月額会員をしっかり高めていく。限界利益をこれまでのように高めるよりは、積み上げをしっかり作る。

―有料会員数がどのぐらいになれば黒字になるのか
森本執行役員:現状は、会計上の計算式や減価償却の部分なども期間が少し変わるものもあるので、今、明確に数字を発表する段階ではない。

―中長期的な目標は。5~10年後の会員数や売上高など数値的な目標は
今後の決算発表でも、そういった数値の発表について意思決定できれば良いが、現状、我々が公開する数値としては置いていない。

―黒字化は何年後か
明確には立っていない。

―レンタル資産である洋服1つの循環サイクルはどのようなものか。また、サービスの対象でなくなった商品の使い道は
天沼社長:捉え方がすごく難しい。カテゴリーによっても平均利用回数や耐久性も変わってくる。ファッション・アパレルのものづくりの観点から、例えば、ニットのほうがダメージを受けやすく、数値がばらつく。平均すると6~7回がレンタルとして回転すると考えてもらえるとブレない。使われるシーズンと使われないシーズンがあるので、2~3年ほどの回転と捉えてもらえばイメージとずれない。

常に検品品質を超える物をレンタルするが、なかには汚れも含めて品質から外れるものがある。加えて、データを見るとトレンドアウトするアイテムもある。これらを自社で行うエコセールで、また、リユース業者に販売する。着用も難しい洋服はリサイクル業者に出して、サーキュラー(エコノミー)の実現に動いている。

―会員の獲得に従い、より多くのレンタル資産が必要になるが、それを保管する施設や投資が必要ではないか
サービス拡張に向けて、貸し出す物がないとレンタルできないので、レンタル用資産の確保が非常に重要で、それに対して物流と、その効率性と、例えば、クリーニングの規模拡大をこれまで積極的に行ってきた。

物流面で最も大事なのは、保管の広さに加えて、どのぐらいの人数がいると効率よく何点の洋服が、1日にフローとして運用できるのかが重要なノウハウになる。そのPDCAを回して研究開発するチームがある。このノウハウを使うことで、ビジネス上では、事業計画に合わせて一定のタイミングで倉庫を拡張し、クリーニングの規模を拡大していく。規模を把握して拡大してきたので、同様にペースを捉えながら進めていく。

―大和ハウス工業との包括的業務提携の現状は。関係が切れたのか、業務提携は継続中なのか
資本提携とともに業務提携も解消した。現状、倉庫物流は別のパートナー企業と作っている。大きい転機としては、倉庫物流の未来に向けて、大和ハウス工業とシェアリング物流と銘打ち、ロボティクスの積極的な活用を模索していたが、物流の場所をシェアすると、人材を柔軟に配分する利点は強いが、1社が力強く成長すると他社が迷惑を被る、また、一時的に他社の需要が高まると倉庫物流の業務品質が下がるアンバランスな部分もあった。

サブスクリプションの事業で安定が非常に大事なので、倉庫やクリーニングを共同から専有に切り替えた。ECや他社のビジネス形態を踏まえても共同より専有が良いということではなく、我々との相性から戦略上そのほうが良いだろうと決定した。

―株主に寺田倉庫があるのは、エアークローゼットに理解を示してパートナーになったのか
パートナーになってもらった順番は、大和ハウス工業よりも寺田倉庫が先だった。寺田倉庫の倉庫は、初期に使っていた。(事業の)ゼロイチを作っていくことは寺田倉庫の得意領域だが、その先の拡張は、他社とパートナーシップをしっかり組み、当社のメインの物流チームが企画するほうが良いと協議した。資本関係としては引き続き支えてもらっているが、業務での直接的な関係はない。

―メンズラインに進むとマーケティングも変わってくるだろうが、コストをどう捉えるか
メンズやそのほかの領域に広げていく際のマーケティング手法の変化に関しては、基本的なレディースに向けてWeb広告を中心に行ってきた。特にPDCAを回すマーケティングチームの組織作りに注力してきた。

レディースも、訴求内容を変えて効率化を図っている。メンズに関しても同じように、Web広告やSNSへの広告展開はフィットすると見ており、手法を大きく変えるよりは、これまでレディースで効率化してきたように、中身の訴求の方向をPDCAを回してしっかりと変えて効率化したい。

―少子高齢化のなかで、保育関係と手を組み、子供服のレンタルサービスの可能性はあるのか
可能性という意味では大いにある。2014年にサービスの構想をリリースした時も、メンズ、シニア、キッズ、マタニティと書いた。当初から、取り扱うアイテムが変わっても、普遍的・汎用的にシステムと倉庫物流の部分を作っておくことで、そのようなニーズが生まれた時に柔軟に対応できるようにしようと考えていた。

―現時点では
具体的には何かということはなく、メンズのサービスのほうが、ニーズが大きい。

―ファッション系の企業がメタバース関連に進出するトレンドがあるが、XRやMRといったものへの関心は
今、当社では具体的な事業として、その部分には触れていない。一方で、メタバースやWeb3.0を含めて、まずはファッション業界全体で具体的なそのメタバースでの取り組みの手前のものかもしれないが、NFTを活用するような取り組みが増えてきいるのは、我々も非常に注視している。

今後、その経済圏がどれぐらい生まれていくのか、メタバースの方向性をしっかりと見据えながら、例えば、我々が参入するのであれば、どこに参入するべきか、今は少しタイミングが早いのではないか。非常に大事なポイントなので情報を収集している。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]