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上場会見:イーディーピー<7794>の藤森社長、宝石から半導体まで

27日、イーディーピーが東証グロースに上場した。初値は公開価格の5000円を64%上回る8200円を付け、9010円で引けた。人工ダイヤモンドを製造・販売し、宝飾品向けが売り上げの9割近くを占める。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)が開発した技術を特許利用契約し、炭化水素ガスを活性化して反応させる気相合成法で、薄い板状のダイヤモンド単結晶を製造する。藤森直治社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

薄いダイヤの板を作り、その上でダイヤを成長させる技術について説明する藤森社長
種となるダイヤの薄い板を作り、その上でダイヤを成長させた後にカットするという製造工程を説明する藤森社長

―初値についてひとこと
ある程度評価してもらえたと思っている。機関投資家への説明の段階では、非常に利益率が高いところは評価してもらえたので、その線に沿った初値ではないか。

―産総研発ベンチャーとして上場したのは何社目か
2社目だ。ただし、1社目はある大学の人が産総研に来て、コンソーシアム的なことを少ししてから設立して、「産総研発ベンチャー」ということになっている。我々は産総研が作った技術で始めているので、純正の産総研発ベンチャーとして初の上場と考えている。

―単結晶を製造するといえば、昨年4月に上場したオキサイド<6521>が浮かぶが、デバイス分野などで競合するのか
オキサイドも単結晶を製造しており、いろいろな種類の、特に酸化物(オキサイド)の単結晶に取り組んでいる。我々はダイヤモンドの専業であり、ダイヤモンドの単結晶で半導体に使ってもらうという、オキサイドと似たようなビジネスモデルもあるが、研究の段階としては、オキサイドが手掛ける結晶ほどは、まだ売れていない。開発段階といえる。ダイヤモンドも実用化が次第に近づいてくると素材としての市場ができてくる。逆に言えば我々が市場を作っていかなければならない。

ただし、オキサイドの取り組みを軽視するものではないが、宝石の市場はとても大きい。1億1000万カラットは、価格で言えば7兆円という市場になる。宝飾品市場まで広げると30兆円にもなるので、単結晶ウェハーの市場規模とケタが違い過ぎる。いずれは、ダイヤモンドも真珠と同様に、全て人工の物に代わると見ており、巨大なマーケットが工業として、今後できてくると想定している。宝石のビジネスは、非常に面白い。

―新しい工場によって生産能力がどの程度上がるのか。また稼働予定はいつか
建設が始まったのが先月からだが、10月には工場としてできあがる。設備のセットアップを経て、11月から稼働したい。当社では設備が早くフルに動くが、全て動くとダイヤモンドを作るだけであれば、能力が30%ほど上がる。製品の売り上げがそのように上がるわけではなく、それ以上に上がる。構成によって価格や単価など(複数の要素)があるので、表現しにくいが、ダイヤモンドの生産能力だけでは、30%上がる。工場全体の装置を入れていくと、3~4倍に上昇する。

―海外の取引先が多いが、将来的に海外に工場を作ることはないのか
それを考えるうえで考慮しなければならないのは、製造コストがどのようになっているかだ。当社の製造コスト全体のなかで人件費が占める割合は10%内外でそれほど多くない。大きいのは電力費だ。

ダイヤモンドを作るためのガスはメタンガスで、少量だが、ほとんどは水素を流す。水素は水を電気分解して工場内で作る。電気を使って設備を動かすだけでなく原料も作っている状況だ。電力費はどこに行けば安いか考えると、水力発電のあるカナダの西側や、米国の北西部はすごく安い。日本の製造業がよく出ていく中国やベトナム、インドでは基本的には電力費は下がらない。大きなメリットが考えにくい。我々が出ていく決断をして意味があるかということになる。為替レートが上がると様相が変わるかもしれないが、現時点では、ほとんど輸出なので円安のメリットを享受できている。ひどく円高になってくれば考えを変える必要が出てくるかもしれないが、今はあまり考えていない。

それから、この会社を設立したのは、日本で製造業がどんどんなくなっており、何とかしなければという気持ちがあるので、日本で製造業をやっても利益率が低かったら最終的に負けてしまう。当社は幸いにして利益率が非常に高いので、これからも世界に伍してやっていけるのではないかと今のところは考えている。

―人工ダイヤモンドは、いわゆるエシカル消費などの文脈からSDGsにつながっていると推測されるが、消費者に受け入れられている感覚はあるのか
人工宝石に関して、日本は少し特別で、あまり売られていない。というのは、売る側が積極的に売っていない側面がある。米国や欧州では普通にネットでも購入する人がたくさんいる。そのようなことに対するアレルギーもほとんどない。これから変わってくると思う。どのぐらいのスピードで変わるかはなかなか分かりにくい。

やはり、装飾品になるので、自分が楽しいと思って装飾できなければ意味がない。とかく日本では、資産を購入するという気持ちで買う人が多いが、欧米ではそうではない。飾るあるいは芸術的な物として買われているので(人工か天然かを)別に気にすることではないという感じだ。

―上場したことで産総研には何らかのキャピタルゲインはあるのか
産総研の知財を使っているので、その意味では、半年ごとに知財権に対してロイヤリティを支払っている関係はずっと続いている。我々は産総研と共同研究もしているので、相互の行き来も活発にしている。今後もそれを続けるつもりだが、産総研が直接的に当社をバックアップしたという関係にはない。昔はそのような制度がなかったというほうが良いかもしれない。

技術は、私が産総研にいた時のダイヤモンド研究センターというユニット(組織)でできたものを持って出てきた。その技術をよく分かっていてこの会社を始めた。

―産総研発ベンチャーも大学発ベンチャーもあるので、一般化は難しいかもしれないが、成功の秘訣は
まだ成功したと言えるかどうか、自信を持って言えないが、あえて言えば、大学発ベンチャーや国立研究所から出てくるベンチャーは、実業を知らないでスタートする人が多い。私は28年間民間企業にいて、自分で製品を作って売ってきたので、経験が基礎にある。何をやることが必要なのか予め分かったうえでスタートした。それはかなり意味があるように思う。

日本は労働流動性に乏しいので産業界に行ってから研究所に行く、あるいはその逆のケースがあまりない。大学や研究所や産業界に行く人の流れができれば、うまくいくケースもたくさん出てくるのではないか。私は国研にいて、経営者としてここまできて上場したが、かなり珍しいケースに当たると思う。それは経験の問題が非常に大きいのではないかと感じている。

今、骨太の方針でスタートアップをちゃんとやると書いてあることは正しいので、最初の10年にいかにお金を投ずるかが基本となる。我々製造業は先に設備がないと物が売れないので、資金調達は物凄く苦労した。幸いにしていろいろな人の協力を得てある程度の資金を得たことでここまで発展することができた。それも大事かと思う。

―株主のベンチャーキャピタル(VC)が保有株式を売却するタイミングについて
ロックアップという制度があるが、今日既に株価が50%以上上昇したので、ロックアップは解けてしまった。売りたいというところは売ると思うが、今まで聞いている範囲ではすぐに売却したい意志があるところはそれほど多くない。しばらくは保有する。いろいろな制限条項があり、取得したばかりで制度的にはすぐに売れないVCもある。(VCの保有比率は)全体でも20%程度なので、それほど大きな影響があるとは見ていない。

―配当政策は
これまでは上場していなかったので配当していなかった。むしろ設備投資を継続的に行っているので、そちらに回してきた。ただ、上場したので株主ときちんとした関係を持つことは必要で、今年度の最後のあたりから、それなりの配当政策を掲げたい。現時点では決定したことが何もないので、これ以上言えることはない。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]