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上場会見:坪田ラボ<4890>の坪田社長、 パイプラインに寄り添う

23日、坪田ラボが東証グロースに上場した。初値は公開価格の470円を68.94%上回る794円を付け、849円で引けた。近視予防や進行抑制に関する研究成果をパイプラインとして、医薬品のみならず一般製品を世に出すために20社・団体以上のパートナーと協業している。共同研究開発契約や実施許諾契約による契約一時金や、マイルストーン収入、製品の上市後のロイヤリティで収益化し、得た収益を新しい研究に投資する。坪田一男社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

坪田社長は、各国の医薬品に関する規制に対応するレギュラトリー・サイエンスにも強みがあると話した。
坪田社長は、各国の医薬品に関する規制に対応するレギュラトリー・サイエンスにも強みがあると話した。

―初値794円の受け止めは
市場が我々のポテンシャルを非常に評価してくれて、非常にありがたく思っている。しっかり黒字を出しながら将来の利益の増大が理解された。理解されるかどうか不安だったところもあるが、安心して一息ついたところだ。

―パイプライン「TLG-001」の、近視の進行を抑制するバイオレットライトを照射する眼鏡型デバイスに関して、海外市場ではどのあたりに大きくポテンシャルがあるのか
最も大きいのは近視の率が高い東南アジアだ。中国や日本も含む。ただ、世界中で近視が増えていて、WHO(世界保健機関)も2050年には全人口の半分の50億人が近視になり、そのうちの20%に当たる10億人が高度近視といって失明につながる可能性があるとしている。最初のターゲットはアジアだが、既に米国や欧州から我々に引き合いが来ているし、関心の高まりを非常に感じている。

―日本の位置づけとしては、日本がアジアのなかで最大の市場なのか
中国のほうが大きい。

―中国が最初は有望なのか
ただ、我々の戦略は、日本でしっかり治験を成功させて、それを世界に持っていくビジネスモデルだ。日本は小さいマーケットだから、日本ではなく米国で治験をしろという議論がしばしばあるが、研究者・医者の私からすると、「理解していないな」と思う。

我々がプロダクトについて最もよく知っていて、我々の近い所で、全ての力を入れてプロトコルを組み、当局と相談し、治験を行うことが成功確率を上げる。コストは少し高いかもしれないし、マーケットは、最初は小さいかもしれないが、そこで成功させることが次の大きなグローバルな会社との契約にも結び付くし、非常に大切だ。

―パートナーにBALMUDAの名前があり、デスクライトの件だと思うが、コモディティ(医薬品・医療機器以外の製品)への広がりについて、どう進めていくのか
バイオレットライトが足りない、現代では失われているというのが我々の大前提だが、バイオレットライトを供給するには様々な方法があり、1つは我々が医療機器として開発している眼鏡型タイプのものがある。しかし、もう1つ、簡単に言うと、皆さんが使っているPCの画面からバイオレットライトが出てきてもいい。

今、実際にPCからバイオレットを出すコモディティの開発を行いつつある。本当は「バイオレットLED」を開発したほうがよい。バイオレットLEDはあるのだが、エネルギー効率が悪過ぎて、それで白い光は作りにくい。ブルーLEDのほうが効率がよいので、そこは今の課題になっている。ただ、コモディティとしては、PCやスマートフォンからバイオレットライトを出すという考え方はあるし、その方法でやっている。

―サイエンスに関する話だが、そのような技術や知見は、人間の知覚の研究に還元され得るのか
どちらかといえば、バイオレットについて言えば、その反対になる。人間は9つの光受容体を持っている。光を感知する(器官)が9つあって、知覚(見ること)に使われているのは、そのうち4つだけだ。見えない光受容体が5つあり、これがほとんどブルー(青色)に関するものだ。今までに、ブルーライト問題について聞いたことがあると思うが、あれは色の問題ではなく、これらの非知覚系光受容体が、特に夜などに活性化することが問題だ。

この5つのうちの「OPN5」という受容体が、バイオレットライトでしか活性化しない。研究が完全に進んでいないので、少しは見ることに関係しているかもしれないが、知覚されていない可能性が高い。知覚はしていないが、我々の健康にはとても重要な領域だ。自意識には上っていないが、脳は理解しているといった新しい分野だと思っている。

―資金使途での研究開発費の具体的な内訳を知りたい
研究開発費の治験費用というのは、今まで全て契約があって、治験していたので黒字だった。どんどん治験を行ってしまうと赤字になってしまう。パイプラインのなかで、まだ契約が取れていないものもある。とはいえ、我々にとってみれば非常にポテンシャルがあるし、これは途中で開発を断念するわけにはいかないというものを、自社でもう少し開発を進めて、契約金を高く取るところまで持っていこうというために、治験費用がある。

基礎研究費としては、現在は慶応義塾大学医学部の信濃町キャンパスと、理工学部の矢上キャンパス、順天堂大学、この3つに研究室を持っているが、ここだけでなく、日本全国の優秀な大学の研究室と組んで、新しいパイプラインのシードになるものを入れていく。そういうものを企画するために入っている。

特筆すべきは、ボストンに出ていこうと前々から考えていたことで、既に人材も確保しているし、是非進めていきたい。

―導出先が決まっていないが自社でぜひ進めたいパイプラインはどれか
「TLG003」の円錐角膜進行抑制VL(バイオレットライト)メガネで、パートナーが未定だ。円錐角膜は失明につながる疾患で、最終的には角膜移植しないと救えない病気。これは人道的にはとても価値があるが、市場が小さくて契約先が見つからないので、我々はこれをもう1歩進めてから新たに契約先を探そうと考えている。

―ボストンの話はどんなタイムライン・規模でどんなことをしたいのか
今考えているのは、2年後の2024年に、MIT(マサチューセッツ工科大学)の隣にあるインキュベーションをするビルのCIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)にオフィスを借りて、米国での契約拠点、レギュラトリー・サイエンス、米国ではFDA(米国食品医薬品局)というレギュレーションの下に治験を進めなければならないので、それをしっかりやれる拠点にしたい。

我々のモデルは、導出したら相手の会社が開発するのを待つ、日本ではそういう会社が多いが、我々はそうではなく寄り添う。自分のプロダクトや医薬品を最もよく知っているのは我々だし、米国に導出したら米国の会社に寄り添って開発していく立場なので、ボストンはどうしても必要だ。ボストンに置けば、少なくとも欧州と米国はカバーできる。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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