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上場会見:モイ<5031>の赤松社長、ラジコンからツイキャス

27日、モイが東証グロースに上場した。初値は公開価格の470円を91.91%上回る902円を付け、1028円で引けた。同社は、SNSとの親和性が高いライブ配信プラットフォーム事業を手掛ける。PCやスマートフォン、タブレットなどでウェブブラウザや専用アプリを使い、動画や静止画・音声を配信する「ツイキャス」を提供。配信者と視聴者との間の円滑なコミュニケーションに注力する。10~20代前半の男女を中心にユーザーを獲得し、2021年7月末時点の累積登録ユーザーは3360万人。赤松洋介社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

赤松社長によれば、一方通行になりがちなライブ配信を、遅延のないシステムを独自に持つことで、双方向のコミュニケーションを促すことに注力しているという
赤松社長によれば、一方通行になりがちなライブ配信を、遅延のないシステムを独自に持つことで、双方向のコミュニケーションを促すことに注力しているという

―初値が公開価格を上回ったが感想を
株主を作ることはある意味ファンを作ることに等しいと思っており、コンシューマー向けサービスを行う企業は個人投資家もたくさんいると聞いているので、たくさんの人に注目してもらい、それに見合う形で業績を伸ばしていきたい。現時点で高い期待を受けているのは本当にありがたい。

―この時期に上場した狙いは。最近は市場環境も悪く、延期する企業もある
当然ながら市場環境が悪く、上場に関しては資金調達の計画はいくつかあったが、最適なプランを取れているかというとそうではないのが事実だ。

ただ、その上で、ライブ配信サービスは、実際に我々のプラットホーム上で生活している人がいるぐらいに規模が大きくなっていて、そのなかで会社の透明性を高めると同時に、社会的信頼を得るために上場という手段を早めに取るほうが結果的に大きく成長できるだろうという考えがあった。

競合が多いなか、事業計画をしっかり立て、その上で社会的信頼を早めに勝ち取って、それを糧に、コミュニケーションが快適な唯一のプラットフォームに成長していきたいと、このタイミングでの上場を選んだ。

―社名の由来は
このサービスを作る前にフィンランドに1ヵ月ほど住んでいた。モイという言葉は挨拶で、おはようや、こんにちはとして使われている。その響きが良かった。ライブ配信をする時は、Twitterに投稿するので、モイという表現がとても可愛いので採用した。

―創業メンバーにサイボウズでの在籍経験者が多い様子だが、ライブ配信に乗り出したきっかけや転機は何か
創業メンバーでは私ともう1人がサイボウズから来ていた。元々、インターネットのサービスをたくさん出していこうといろいろ提供していた。少し古い話だが、ラジコンをインターネット上で操作するサービスを出していた。インターネットのサービスは参入障壁が低く、「いくらサービスを出しても勝負にならない」ため、参入障壁の高いハードウェアをやってみようした。

障壁は高かったが、30分に1回バッテリーを交換しなければいけないなど(頻繁に)メンテナンスが必要で、事業として成立させることが難しかった。ただ、その時にラジコンをリアルタイムで、遠隔で操作することは、遅延をものすごく低くするライブ配信の技術が必要だったので、これをそのままiPhoneに転用すれば新しい物ができるのではないかと始めたのがツイキャスだった。

元々、遅延が少ないことはラジコンの操作から来ている。事業を進めるなかで、ユーザーが数十万人の規模になった時に、サイボウズを辞めたメンバーが多かったのは、非常に面白いことをしていると話したところ、参加してきたという経緯があった。

―経営陣にフリークアウトホールディングスの関係者がいることは、事業上どのような強みにつながっているのか
外部からの視点が欲しいというのが1つあり、インターネットのサービス、フリークアウトは広告がメインだと思うが、ライブ配信と広告は相性がかなり悪いと話したが、新しい事業を支えていく上で、そういった広告での新しいモデルが、新しいユーザーとの接点を作る点で共通しているので、フリークアウトHDの本田謙社長に社外取締役として入ってもらった。プラスアルファとして本田社長はシリアルアントレプレナーとしていくつも企業を運営しており、我々は創業から10年ほど経っているが成長過程にあるため、本田社長の経験を聞かせてもらうという意味でも入ってもらった。

―競合とシェアの認識は
ライブ配信には2方向あって、1つはエンターテイメント的ないわゆるライブ配信という課金を楽しむようなもので、そういったアプリがたくさん出ている状況にある。その一方で、 YouTubeやTwitch(Amazon)など海外の大手のプラットフォームが手掛けているライブ配信がある。我々は海外のプラットフォームを競合として見ている。

エンタメ系のものは、運営がお膳立てして楽しむ要素が非常に強いので独自の文化が育ちにくい。我々はプラットフォームとしてたくさんの人のコミュニケーションを支える意味では、YouTubeなどが競合となる。

ただ、YouTubeと真正面に戦っても、先の長いというか非常に難しい話になる。YouTubeはコンテンツはすごく強いが、コミュニケーションの部分に少し弱いところがあるので、配信者や活動者が我々のプラットフォームを使うことでさらに成長できるように連携していくことで、YouTubeの活動者が増えれば我々も成長していくモデルを築いている。

―全年齢に広げていくために取り組むことは
今は、全年齢とはいっても、若い人には若い人の楽しみ方、年齢が高い人は、いわゆる有料ライブ配信を楽しんでおり、大きな接点はない。大きな接点がないというのは、親子で使うサービスがなかなかないので、SNSのなかでは重要だ。

カテゴリーといういろいろな(配信種別毎の)ハコを用意しているので、今後はそのハコのなかでいろいろな層の人たちが混ざれるようにしていきたい。ユーザー層を広げつつ、かつ、SNSでは混ぜ過ぎることも好ましくないこともあるので、文化のハコを作って、セグメントを分けながら全体的な成長を図る。

―海外売り上げはあるのか。今後の展開可能性は
今は非常に少ない。ただ、最近は、日本のVtuber文化は東南アジアに対してもアピールというか流入があるので、今後海外展開を考えている。我々(のプラットフォームで)は声やキャラクター文化が育っており、それを東南アジアに向けて出していき、新しいシェアを作っていく。

―最近のTwitterをめぐる動向が、業績などに及ぼし得る影響に関する見通しは
Twitterがプライベート化するという話だと思う。我々はTwitter と一緒に成長してきているところはあるが、最近はTwitterだけではなく、YouTubeやほかのソーシャルネットワークのプラットフォームと一緒に成長してきており、実際にTwitterからの流入だけが成長を駆動する要素ではない。

もちろんTwitterがとても必要なプラットフォームであることは変わりなく、それが大きく変わることは1つのリスクになる可能性はある。ただ、現状としては、Twitterがなければ、ライブ配信のユーザーがつながれないのかというと、その部分に関しては、3000万人以上のユーザーのなかに強大なプラットフォームを作っており、あまり大きな影響はないのではないか。有料化などいろいろと言われているので、なかなか読みにくいところだが、今のところ大きなリスクはないと感じている。

―資金使途についてもう少し詳しく聞きたい
調達額が6億円ほどで、そのうちインフラ投資がおよそ3億8000万円で、マーケティングが2億1000万円ほどになっている。インフラとして停止してはいけないのでBCP対応(を行う)。先行してインフラ投資を進めたいので、その投資分が入っている。

マーケティングのほうは、ユーザー満足度の向上を継続的にやっていく。これはプロモーションの一環だが、上場を機に会社もかなり透明になっているので、社会的信頼を得る、きっちりと事業としてライブ配信でプラットフォームを提供していることをブランディングするための投資をしていきたい。

―株主還元の方針は
現段階では成長過程なので、内部で次の投資に回すほうが、結果的に還元になると考えている。その時期が来れば利益に対して、株主に適切な配分を行うことが企業の使命と思うので、今後は配当も含めて株主還元を検討していきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]