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上場会見:TORICO<7138>の安藤社長、中高年に紙を訴求

23日、TORICOが東証マザーズに上場した。初値は公開価格の1700円を47.65%上回る2510円を付け、2115円で引けた。同社は、コミックの全巻セットに特化したネット書店の「漫画全巻ドットコム」を運営する。また、漫画やアニメのイベントを企画・運営し、限定グッズを販売するイベント事業も手掛ける。安藤拓郎社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

安藤社長は、漫画を原作とするアニメやドラマ、映画のヒットから紙媒体を購入する流れが一層増えていくとの見方から、漫画のまとめ買いの需要は強いと話した
安藤社長は、漫画を原作とするアニメやドラマ、映画のヒットから紙媒体を購入する流れが一層増えていくとの見方から、漫画のまとめ買いの需要は強いと話した

―初値と終値が公開価格を上回ったが、値動きの感想は
市場環境が大変厳しいなかで、投資家の一定の評価を受けた。とはいえ上場初日なので、この結果に一喜一憂せず、改めて中長期的な会社の成長に集中してきたい。

―直近の市場環境が荒れていて、上場を延期する会社も多かったが、この時期に上場した目的は
上場の目的は、大きく資金調達をすることではなく、最優先事項としては、社会的な信用を獲得することがメインだった。今は非常に不安定だが、早い段階で上場して、早めにスタートを切りたいと上場延期を検討せずに、自分たちのタイミングで決めた。

―創業当時はスニーカーを扱っていたが、漫画で成功した理由は
自分なりに分析すると、ニーズがあったのが率直なところだ。スニーカーに関しては、単純に作って売ってみたいという思いでスタートしたが、そこだけでは難しい。

漫画を始めたことは、自分が漫画を「1日中まとめて読みたい」というニーズが強くあって、そのような人たちが日本には少なくとも100人ぐらいいるのではないかと始めた。これだけの売り上げにつながるほど(顧客が)存在したので、自分のなかにあるニーズに従って進められたのは、漫画のほうが大きかった。単純に売りたいというものと、自分として「こういうのがあったらいいな」と思えたビジネスの違いではないか。

―今後、45歳以上の中高年層をターゲットにしていくとのことだが、読みたい作品が古いものである場合、ECサイトで品切れになっていることもある。版元の意向などはあるにせよ、流通していない作品をオンデマンドや復刊などで販売することに商機はあるのか
私も45歳以上のユーザーに入ってくるが、読んでいた作品で全巻セットが揃わないものはけっこうある。今のところ新品を提供できないが、各出版社とも話しており、まさにオンデマンドで、少数の部数を出版できるようになっている。

ユーザーの人数をある程度囲って、我々向けにも出版してもらい、それを我々のみで販売することが、当社の規模であればでき始めている。実際にそうした形で行っている作品もあるので、積極的に進めたい。

―紙媒体との親和性があまり高くないと想定される若年層対策は
今の紙のコミックにたどり着く流れを見ていると、まだ絵本の段階では紙がメインで、私も子供の親なのでいろいろ見ていると、まずは絵本から入って紙に親しむようなことが非常に大きい。その流れで漫画にたどり着いた時に、紙で読んでもらえることが大きな流れとしてあると見ている。

かつ、今の巣ごもりでは、家族で漫画を回し読みするシーンでは、紙のニーズのほうが非常に高いのではないか。この1~2年で我々が大きく伸びたことも、家族で漫画を読む、自宅でのエンターテインメントとして漫画を選んだ時に、電子か紙で読むかという場合に「やはり紙で読もう」というニーズは強くある。

―オリジナル作品も展開しているが、自社IP(知的財産)の展開の方向性は
オリジナルの作品も作成していて、続けていくが、すぐにグッズ化できるか、テレビドラマ化されるかみたいなところはまだ時間がかかる。そこは狙っていくが、IPとしての活用は、まずは既存の漫画やアニメを出している版元と組んでイベント事業を進めていく。

―オリジナルグッズは他社IPを使うものもあるが、最近、いわゆるトレース問題がいろいろなところで取り沙汰されている。その点の認識や、気を付けていることはあるか
我々が行っているイベントや、制作してるグッズは、版元と二人三脚で出している。作品になる前の時点でトレースされていると、我々のほうでも追えないが、彼らが適正に管理してトレースがない状態で作品を出版しているのであれば、そこから何か問題が起こることはあまりないと考えている。今のところ出版社との関係性において、そういったリスクは大方排除できている。

―コロナの影響と、今後のメディアミックスでの紙に対するニーズ増加の影響をそれぞれ見た時に、コロナ禍が終息する際に紙コミックの需要が落ちることもあるかもしれないが、どちらが大きいか
コロナ禍に関しては、プラスとマイナスの部分がある。イベントに関しては、終息していくと、プラスに振れていき、インバウンドも含めて追い風になってくると見ている。ECの部分では、コロナによる在宅時間の延長で漫画を選んでもらったような部分は、多少は薄れていくのではないか。自宅で漫画を読む楽しみを一度知ってもらった人たちの多くは、引き続き読んでもらえる可能性は大きい。

―配送料の値上げで送料を上げると思うが、ユーザーへの影響は
鯉沼充専務:仕入れに関しては現時点で値上げの段階に至っていないので、今のところ仕入れ(に関する送料)の値上げはない。顧客から受け取るものは、2年前から送料をいただくことに舵を切り直している。そのぐらいの時期から、ユーザー側も送料を払うことに違和感がだいぶ薄れているのが実感だった。今後、仕入れの送料が上がった時に、顧客に一部負担してもらう方針を取っても、驚くほどのインパクトにはならないのではないか。

―自社のECサイトと仮想モール内の店舗の売り上げの比率は
安藤社長:自社サイトが3割ぐらいで、残りの7割がモールからの売り上げになっている。今後も自社サイトを伸ばしていことはもちろんだが、まだ店舗を開いていないチャネルが
いくつか存在していて、進めているものもある。そこでの売り上げも同時に期待している。

我々ほど全巻セットの作品数を持っている会社は存在せず、当社でしか買えないものもある。いろいろなチャネルで店舗を出せれば、売り上げの拡大も狙える。自社サイトを伸ばしつつチャネルも広げていくことを両輪として回している。

―コロナ禍の終息で行動制限が緩和されることでイベント事業が成長の軸となり、ECもこれから知名度が上がることで、ある程度の成長が期待できるが、今後、配送にきめ細かく対応するために在庫を扱う店舗や倉庫といった拠点を増やす計画は
鯉沼専務:当社の物流拠点は東京に2拠点と埼玉に1拠点の3拠点で、現状では、月商ベースで対応できるキャパシティーで一昨年に準備しているので、直近で急に増床する予定はない。ただ、物流に関してはECではかなり大きなキモになることを重々承知している。増床のスピードやDXは、地道に研究しながら状況に合わせて迅速な対応を取れる体制を今から準備している。

安藤社長:店舗に関しては、今のところ毎年1~2店舗ずつ増やしていきたい。特に、海外が戦場になってくる。名古屋まで開店できたので、次は台湾、その後は中華圏やASEANのいずれかの都市で開くことを想定している。

―M&Aや業務提携の青写真は
上場したこともあり、今後はM&Aもより積極的に考えたい。異業種よりは漫画やアニメ、エンターテインメント周辺でのM&Aや協業も含めて、1社だけでは伸び得ないところまで伸びていきたい。

―海外売り上げは現状であまりないのか
まだ1%にも達していないレベルだ。

―日本語のものを売るのか
今の売り上げでは、「MANGA.CLUB」というサービスの売り上げが大きいが、今後に関してはグッズの販売だ。当社でしか買えないグッズを世界中に売っていくことがメインとなる。

―ベンチャーキャピタルが入ることで、資金や助言的なことは成長に対して意義があったか
いろいろな会社を紹介してもらい、そこからビジネスに発展したことはけっこうあった。非常にありがたい助言もあり、協業先の紹介も積極的にしてもらった。

―配当政策は
利益は事業成長に投資していくことがスタートで、ステージによっては配当を当然考えていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]