19日、AB&Companyが東証マザーズに上場した。初値は公開価格(1490円)を6%下回る1400円を付け、1477円で引けた。同社は美容室チェーン「Agu.」を直営とフランチャイズ(FC)で運営し、9月末時点で655店舗を全国展開する。2018年3月に香港系投資ファンドのCLSAが資本参加した。市瀬一浩社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―初値が公開価格を下回ったが、受け止めは
今日の結果を真摯に受け止めていかなければいけないと考えている。明日からやることは変わらないので社会貢献や美容業界をより良くしていくために店舗を作って、人をしっかり育ててサービスを47都道府県に届けていくことに、これから先もしっかり尽力したい。
―美容室運営企業の上場は少なく、6社目と思うが、上場で「Agu.」で働くスタイリストや、ほかの店舗で働く美容師に伝えたいこと、見せたい姿があれば教えてほしい
店舗数をもっと増やして、たくさんの人にこんな働き方があって、皆さんが非常に働きやすい環境で、かつ今まで低賃金に悩まされてきたスタイリストの人たちが、やりがいのある環境で仕事をしてもらえると信じている。店舗数を増やしながら、この働き方を47都道府県で認知してもらえるように啓蒙活動をしたい。FCのオーナーと協力しながら尽力したい。
働き手をどんどん増やしていくことが私の職責だと思っているので、若い人たちに入ってきてもらえるような魅力のある業界にしていきたい。
―ハイスピードでの出店計画があったが、売上高や店舗数で目指すシェアがあれば教えてほしい
市瀬社長:経営陣でベンチマークしている会社は今のところない。売り上げと利益率、店舗数に関しても、ここを目指したいと掲げている会社は特にない。ただ、Fast Fitness Japan<7092>といった会社は、似ているビジネスモデルと理解している。ロケーションも非常に似ているところから、そういったところをターゲットに我々もしっかり勉強させてもらいながら成長したい。
―美容師は比較的独立心が強くのれん分けのような制度で店舗を増やす会社もあったが、それほどのびていない。近しい点があると思うが、FCの活用で伸びている理由はなにか。
競合他社でFCを展開する会社もあると思うが、当社が違うところはオーガニックで、1スタイリストだった人を社内でしっかり育てていくことが大きな違いと思う。だからこそFCのオーナーになった先も離反につながりにくい。グループの方向感や考えていることをしっかり理解したうえで仕事をしてもらえる、経営者として頑張ってもらえるところが、同じモデルかもしれないが、他社と多少違う点ではないか。
―今はFCオーナーが31人だが、どのように育成しているのか
毎年FCのオーナーが4~5人増えているが、まず、オーナー同士で自社のマネージャーや、FCオーナーになり得る人たちを1年間に1~2人育てる。そのような人たちが毎年20~30人日本全国から集まる。そのメンバーから、実績を基に、全FCオーナーの判断とサポート、最終的には私の判断で3~5人が独立するスキームになっている。今後も大きく変えていく必要性はないので、毎年20~30人のなかから3~5人を輩出したい。
―業務委託モデルを採ることによる損益計算書や貸借対照表への貢献、例えば社会保険料負担の問題などいろいろあると思うが、どのように有利に働いているのか
永島光CFO:当社が、顧客に対してリーズナブルな価格で提供できて、かつ、スタイリストの人たちに業界水準を上回る報酬を還元でき、当社も利益を出せるポイントは2つある。
規模の利益を最大限活用することで原材料費などを大幅に削減している。もう1つは、ネット集客を巧みに活用することで、空中店舗にも出店が可能であるため、家賃を大幅に削減している。結果として一店舗当たりの収益をきちんと維持しながら、人件費を最大限還元することができている。正社員サロンと比べると業務委託としての報酬を20~25%ぐらい多く支払っている。
―業務委託という形式で、正社員ではないと福利厚生や保険を気にする人がいると思うが、どう対応しているのか
業務委託なので、自身で社会保険に入らなければならないため、その分を上回る報酬をきちんと還元している。そのほかに、確定申告の支援も、システムを作り込んで対応している。社内でアンケートを取っているが、「困る」といった意見をスタイリストから受け取ることは非常に稀だ。皆さんおおむね満足している。
―2023年にインボイス制度が導入されるが、影響についてどのように認識しているか。あるとすればどのように対応していくのか
一義的にはスタイリストの納税額が増えることになるが、当社は確定申告システムというインフラを持っているので、それを拡張して、スタイリストがきちんと消費税申告できるものをシステム化して、問題なくファイリングできる仕組みを開発する。また、スタイリストの実収入が少し減る可能性が高いので、どう還元していくかを社内で議論している。ただ、連結損益計算書への影響は比較的軽微と考えている。
―新型コロナウイルス感染症の影響が長引いて今後もどうなるか分からないなかで、影響をどう見通しているか
2021年も2020年も軽微だったと理解しているが、インパクトはあった。ただ、2022年からは、段階的に感染者も減っていき、緩和されていく計画を想定しているので、店舗では衛生管理面も強化し続けなければと考えている。数字の面では、計画を練っているのでそれにコミットできるように尽力したい。
―コロナ禍の影響に関して、2021年10月期の既存店売り上げは、前期比や前年同月比ではどの程度の水準だったのか。
駒田道洋執行役員:既存店推移については現時点で開示していない。一方で、12月以降は開示する予定がある。
―コロナ禍前と比べての2021年10月期での回復率はどうか
永島CFO:比較という意味では第1波の影響は非常に大きかった。第2波以降はあまり影響がないが、100%には戻っていない。第5波でマイナス15%ほどとなり、またその前ぐらいに戻っている。マイナス5%ぐらいで、しばらくだらだら続くのではないかと想定している。
―売り上げや利益、成長率など数字を絡めた中長期展望は
市瀬社長:2023年10月のタイミングで、950~1000店舗で推移したいと考えている。美容室は現在26万店舗あると言われているが、1%の2600店舗までは巡航スピードで成長できると考えており有言実行したい。
駒田執行役員:中長期では売上高営業利益率で20%程度を目指したい。
永島CFO:FC事業をやっているので、ロイヤリティー収入には直接紐づく原価がない。その割合が増えていくため、営業利益率という点では連結ベースでは毎年改善する傾向がある。今開示している2022年10月期予想の営業利益率は16.5%だが、2021年10月期の13.7%に比べて3ポイントほど改善している。今後もそのような傾向が続いていく。
―毎年140~150店舗プラス5~10店舗上積みしたいとのことだが、そのペースで順調に伸びた場合、営業利益率の成長率はどうなるのか
毎年140店舗ほど出店しているうち、直営は20店舗ほどなので、圧倒的にFCの出店率が高い。その割合でいくと営業利益率は毎年2ポイントずつ改善するイメージだ。
―母数が大きくなれば成長率は落ちてくると思うが、この2~3年間の営業利益の成長率はどの程度か
駒田執行役員:30%程度と考えている。2022年10月期の着地見込みでは、営業利益ベースでは対前期増減率は46%だが、母数が増えると営業利益の成長率は若干下がるが、この2~3年でざっくり30%程度は引き続き成長させたい。
―グループ内にあるインテリアデザインの会社が手掛けている事業は内部向けのものなのか、外販もしているのか
市瀬社長:9割が内部向けで、1割は外販となっている。
―純粋に外販なのか
永島CFO:純粋な外販が10%程度だ。内販のなかでもフランチャイジーは外部取引になる。その意味では、内販のうちの8割ほどがいわゆる社外への売り上げになる。ただ、グループ内のインフラとして持っている会社でもあるので、グループ内であってもそれほど利益を出していこうというスタンスではない。
―今後、どのような形で展開させるのか。
市瀬社長:インテリアデザイン事業では、外販も内部向けも、母数を増やしトップラインを上げていきたい。インテリアデザイン事業でしか横に展開できていないものを、もう1つから2つ増やしていきたい。CRM、顧客データ分析に投資をしており、1to1のサービスをできるように、また、物販を強化していけるように分析して事業を作っていこうとしている。
―1to1で美容以外のものを建.LABOから販売することもあり得るのか
あり得る。年間365万人の顧客が訪れているのと、スタイリストが3000人強になっているが、4000~5000人と増えるなかで、我々のチャネルを持ち、少しでも販売ツールを持つことで強みになればと考えている。
―美容室チェーンが集約化されることになると考えているようだが、アライアンスの考え方は
永島CFO:いろいろな形式が想定されるが、同業をどんどんM&Aしていくことは、現在は検討していない。我々の出店力、ビジネスモデルに適合させながら出店していくことを考えると、自分たちで出店してしまったほうが効率が良く、利益も出せる。ただ、将来的にはあり得る。
一方で、美容室事業以外のところと、資本関係の有無は別として、いろいろな事業展開をしていくことは積極的に議論しているところで、親和性の高いところでは健康やフィットネス、美容、コスメティック関連は、上場してから本格的に動こうと考えている。
―株主については
IPOで売り出しを行なった。その前はCLSAというファンドが7割ほど保有していたが、半分を売り出した。残りの株の売却は、ファンドの意向次第だが、3年半ぐらい一緒に経営を行っており、当社の成長余力をよく理解している株主なので、短期に売却したいという意向は受けていない。
―株主還元は
2021年10月期末の株主が上場前の株主なので、配当は行わない予定だ。2022年10月期は、配当性向30%を目標に還元を検討する。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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