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上場会見:Photosynth<4379>の河瀬社長、物理空間を制する

5日、Photosynthが東証マザーズに上場した。初値は公開価格(1500円)を6%下回る1410円を付け、1394円で引けた。同社は物理的な鍵が必要ないスマートロック「Akerun(アケルン)」を中心に、クラウド型入退室管理システムを開発・提供する。ソフトウェアとハードウェアのサブスクリプションを組み合わせたHESaaS(Hardware Enabled Software as a Service)のビジネスモデルを採用。法人向け製品が主力だが、美和ロックとの合弁で住宅向けサービスにも進出している。河瀬航大社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

Akerun PROの設置例を製品を示しながら説明する河瀬社長
Akerun PROの仕組みを、製品を示しながら説明する河瀬社長

―初値が公開価格を下回ったことについて
市場からの評価と考え、真摯に受け止めている。

―事業の成長を牽引するのはオフィス向けが中心か
直近の事業計画ではオフィス向けが、体制も強化されているので業績に寄与する部分が非常に強い。将来的には、家庭向けも扉の母数が多いマーケットになっている。さらに、オフィスや家のみならず、教育機関や病院、行政など様々な空間を狙っていきたい。直近では圧倒的にオフィスと考えている。

―マーケットのなかでどの程度のシェアを占めているのか
オフィス向けでは圧倒的なナンバーワンだ。マーケットリサーチが算出しているところだが、クラウド入退室管理システムという観点では導入社数や、スマートロック導入社数、利用人数でも同様と考えている。特に法人向けに関しては、ここまでしっかりやっている会社がおらず、10倍以上の差を付けるぐらいシェアの差は大きいのではないか。

―日本国内のオフィスの鍵の何%ぐらいがスマートロックになっているのか。日本での成長余力はあるのか
電子的な鍵が入っているのは、従業員数10人以上の会社で、それ以下の人数の会社や家庭向けに関しては物理的な鍵で足りてしまう。10人以上であれば我々のターゲットになり得る。現在10人以上の会社は日本に99万社あると言われており、そのなかで我々のシェアが、日本全国で0.3%ある。成長ポテンシャルは高いと見ている。東京都では、それと比べると普及している。東京都で10人以上の会社は14万社あり、そのうち1.3%がAkerunを導入している。

―日本でもまだまだ成長可能性があるのか
10人以上の会社であれば、物理的に金属の鍵で運用するのはかなり難しい状況だ。そのような会社は、警備会社のシステムや、スクラッチでビル全体のセキュリティを保守するシステムベンダーに高い金額を支払っている状況であり、(Akerunは)競合と比べると非常に廉価で、データも活用できる。競合優位性は高いと思う。

―そのうえで海外進出の計画は
現在は、海外には進出していない。ただ、海外からも問い合わせがたくさんある状況で、セキュリティ商品、そしてハードウェアということで、メイドインジャパンが世界から注目されていることを肌で感じている。どこかのタイミングで必ず行きたい。

日本では働き方改革関連法ができ、個人情報保護法が改正されて全事業所で入退室記録を取ることが義務付けられている。特需の状態にあるマーケットなので、まずは選択と集中でマーケットにしっかり取り組みたい。

―コロナ禍で働き方が変わってテレワークなどが増えた影響はあるか
ポジティブな部分とネガティブな部分があった。中長期的に見るとかなりポジティブに働いている感覚だ。まず、短期的な話だが、ネガティブなところは、オフィスを縮小する、いらないという会社もあり、一部で解約があった。ただ、それは昨年の春や夏に落ち着いている。

ポジティブな話になるが、最近では新しい働き方によって、分散型のオフィスやコワーキングスペース、シェアオフィスで積極的に働くようなワークスタイルが一般化してきた。そこでAkerunが非常に売れているので、需要が大きい。オフィス面積が縮小しているのではなく、分散化する状況と見ているので、そのマーケットを中長期的に広げていきたい。

―住宅領域で、今後の展開として宅配や見守り業者と連携するとあるが、具体的にどのようなサービスをイメージしているのか
渡邉宏明副社長:まずは宅配事業者と提携するサービスを検討している。現時点で公表できる具体案にはなっていないが、適宜公表したい。見守りに関しても同様で、Akerunがインターネットにつながりさえすれば、居住者が帰宅した情報や鍵の開閉の状態を示す情報が分かるので、ユーザーに提供していく。

―その場合には、例えば、賃貸業者との連携も可能になるのか
我々はエンドユーザーに営業していく面もあるが、物件を建てるデベロッパーや賃貸物件の管理事業者と一緒に広げていくことを想定しているので、そのような協業はあり得る。

―物理空間のシングルサインオン(単一の認証方法で複数の鍵やIDなどを利用・管理すること)を実現したいとのことだが、電子の世界ではHENNGE<4475>などが手掛けている。そういった企業との関係は
河瀬社長:特に競合関係とはなり得ない。我々が取り組んでいるシステムは、扉をインターネットにつなげていかないと、プラットフォームを構築できない。オフィスで圧倒的なシェアを持っているし、家庭向けでも美和ロックとジョイントベンチャーを作ることによって、加速度的に展開させていきたい。扉をインターネットにつなげて、誰がどこの扉を開けるか権限を持っているかというアクセス認証データベースを開発している会社なので、概念的には近い部分があるが、領域が全く違い、アプローチ方法やアセット、戦略が変わってくるので、オリジナリティのある攻め方をしたい。

―物理空間と電子空間の両方に進むというよりは物理空間を重視するのか
物理空間を制していうことに力を入れていきたい。

―最終的には全て「開けゴマ」という状況にしていきたいのではないのか
まずはオフラインの物理的な空間を、「開けゴマ」で全部出入りすることができる世界が一番美しいと思っており、そこにHENNGEのようにIDを紐付けることもできる。Akerun IDでもHENNGE IDでもどちらでもよいが、いずれかがあればAPIを経由しながらWEBサイトでもオフライン空間でもログインできるように、いろいろな組み方がある。ただ、僕らはリアル空間につなげられる会社なので、強みはそこで、あとはいろいろな連携をしたい。

―HESaaSではハードウェアを扱い、物流などが出てくると想定されるが、管理上の課題や目指すところはあるか
熊谷悠哉取締役:世界的に電子部品を含めたいろいろな部品の供給不足が課題と考えている。各社苦労していると見ており、当社も例外ではないが、2022年度の分は既に手配していて、計画通り生産したい。また、美和ロックとのアライアンスも大きく、当社で製造するハードウェア以外にも他社の鍵をAkerunで認証してクラウドにつなげるサービスとして展開することで、自社のハードウェア製造に依存しない形で自社サービスを広げていきたい。

―ファブレス的な動きにもつながり得るということか
当社は創業してからファブレスで、設計は全て社内で行っているが、国内外の委託先の工場に協力してもらいながら製造している。

―美和ロックとの合弁会社でソフトの部分を、美和ロックがハードの部分を作ったが、今後もソフト部分だけを提供して他社と組む可能性はあるのか
渡邉副社長:Akerunのソフトウェアをいろいろなハードウェアと組み合わせてクラウド制御する技術がブラッシュアップされ、ほかのハードウェアに展開しやすくなっている状況なので、将来的にタイミングを見て展開したい。

―入退室データをかなり収集するが、今後プライバシーの問題が現れることが想定される。基本方針は
熊谷取締役:誰がどこにいたのか分かるデータになっており、プライバシー性が非常に高い。さらには、個人情報に紐付く側面があるので厳重に管理する必要がある。基本的な方針としては、個人のプライバシーを守ることが大原則と考えている。

今は法人向けに販売しているが、今後は家庭向けに広がっていく。自宅で使われたり、管理会社がシステムを使って鍵を付与するように、いろいろな関係者が絡んでくるシステムがクラウド上でつながりながら鍵を取り扱う。個人の利用履歴やプロフィール情報がしっかりと守られるシステムにすることが大事で、それを我々の強みにしたい。

―現状では、プラットフォーム上では具体的な対策が整っているという認識でよいか
もちろんだ。管理会社が個人に対して鍵を発行する場合にも個人情報を見ることができないというような対策を取っている。

―資本効率の考え方は
河瀬社長:SaaSかつハードウェアを扱う観点では、投資したものがすぐに売り上げとして帰ってこない特性はある。解約率が非常に低い会社なので、適正なMRR(月間経常収益)のストックを獲得できれば、将来的にはしっかりとした利益を確保できる。粗利率が非常に高い商品であり、投資効率は適正と見ている。

―ROICやROEは
開示していないが、LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得費用)との関係で、しっかりした判断基準を持って引き続き投資したい。それを通して利益体質の会社となっていく指標と理解しており、規律ある投資をしていきたい。

―株主還元の方向性は
投資フェーズになっており、事業の成長にコミットしたいが、どこかのタイミングできっちり利益を出し、株主還元を行いたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]