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上場会見:ブレインズテクノロジー<4075>の濱中社長、AIをITで組み込む

28日、ブレインズテクノロジーが東証マザーズに上場した。初値は公開価格(1780円)をの2.33倍となる4165円を付け、3540円で引けた。同社は「エンタープライズAIソフトウェア事業」を手掛ける。異常検知ソリューション「Impulse」と企業内データ検索エンジン「Neuron Enterprise Search(ES)」を開発・提供する。濱中佐和子社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

異常検知ソフトのImpulseは、導入先の顧客自らが100%運用できていると話す濱中社長
異常検知ソリューションのImpulseは、導入先の顧客自らで100%運用できていると話す濱中社長

―初値が公開価格の倍以上になった感想は
オリンピックもあり、皆さんの気持ちが良い時や市況もあったが、非常に身の引き締まる思いだ。まだ46人、売上高8億円の会社であり、しっかりと成長していかなければならない。

―創業社長ではないのか
発起人も株のオーナーも私だが、創業当時にオーナー社長には牽制機能が働くべきだという考えがあった。私だけの判断で間違ったことが行われないように社長を1人依頼していた。ソフトウェア事業に切り替えた時に、大きなリスクを伴うものであるため、私が社長になった。

―上場の目的は人材採用か
研究開発と人材採用が中心だ。研究開発は今日までの時点で十分に高い投資をしてきたが、さらに強化したい。上場によって会社が知られて優秀な人が来ることを期待している。

―このタイミング(期末)に上場した狙いは
売り上げに季節性があり、どうしても3月は売り上げが高い。そこでしっかり稼げるか確認してから上場したかった。今日上場で月末決算という状況だが、第3四半期の確認をしたかった。

―前職でミドルウェア開発に携わっていたバックグランドは事業にどう活きているのか
事業を始めた2008年には人工知能やIoTという言葉がそれほど使われておらず、何を作っていこうかという段階であった。また、その頃に研究開発投資ができたのが強みではあったが、システムにしっかり組み込むうえではITの知識は重要だ。

例えば、情報通信ではネットワークのキャリア企業にImpulseをかなり使ってもらっている。メガキャリアにはほとんど使ってもらっている状況だ。数万台のネットワーク機器を監視するには大規模なインフラが必要で、そのようなものを実装できるか否かは非常に大きな問題だと考えている。

我々はITでミドルウェアを作っていたので、大量データのトランザクション処理には強みを持っていた。そのため、機械学習を応用する部分と、ITシステムの仕組みをうまく作り上げてくることができたと思う。

―Impulseの導入に必要なクライアント社内の人的リソースはどのようなものか
製造業の場合は生産技術部や技術本部というように生産現場を作る人たちが顧客になる。建設業でも同様に技術部が顧客となる。

―「未来ラボ」と「製品開発部」ではエンジニアに求められる能力が違うのか。また、構成は流動的か?
未来ラボという新しいプロダクトを作る部門は、人数比で3分の2で、新製品開発に人員をシフトしている。顧客への製品導入や小規模な改修は3分の1が担当する。

例えば、研究開発で面白い案件や、これから伸びそうな製品が出てくる場合には一時的に流動化する。元来ジョブロールとして成長のために流動させているので、うまく組み合わせて循環させ成長する組織にしている。

―PKSHA Technology<3993>やALBERT<3906>とは正面から競合するのか。また優位性は何か
ALBERTはデータ分析を提供する会社と捉えている。それに対して、我々はソフトウェアを提供する会社だ。PKSHA Technologyはアライアンスパートナーと一緒にサービスを作っていくことを中心に行っていると理解している。我々は、顧客がソフトウェアを直接使う。ソフトとして落とし込むか、顧客と一緒に作り込んでいくかの違いがある。

直接現場で顧客が使えるソフトウェアにしていることが優位性だ。多くの顧客に実際に提供できている。また、AIの技術だけがあっても、顧客のシステムに組み込めない。我々のITとAIの技術を組み込んでソフトに落としていることが強みだ。

―競合はどこか。在籍していたフューチャーアーキテクトか
米国のDataRobotの製品が競合の1つだ。日本に進出していないが、米国のC3 IoTという会社も同じようなコンセプトで、顧客が一気通貫で使えるソフトを提供している。この2社が製品としては近い。AI市場はまだ緩く、同じ会社と常に競合することはない。

DataRobotとは競合として当たっても5回ぐらいで、ベンチャー企業と当たることもあまりない。実際には日立製作所やIBM、NECとぶつかったり、分析だけの会社や、ハードウェアメーカーとぶつかり、競合が落ち着いていない。フューチャーは基幹システムの刷新を行うため、コンペで当たったことは1度もない。将来的にはあり得るが現在のところ競合ではない。

―解約率は
Impulseは、ある顧客から「設備のラインのサポート終了の25年間使うつもりで作っているが、あなたの会社は25年持ちますか」という質問があったぐらいであり、一度組み込まれると解約にはつながりにくい。

―来期は増収総益を見込んでいるようだがその要因は
市場で多くのニーズが得られており、我々が解決できることが増えている。十分な需要と、我々が供給できるサービスが成長の段階にあると思っている。現状に近い形で成長できれば良い。

―来期以降、中長期的にトップラインは10~15%の割合で伸びていくのか
売り上げの成長率を137%と開示しているが、まだ市場のニーズや顧客の環境で我々のサービス提供の可能性はあるので、130%を維持しながら伸ばしていきたい。利益に関しては、ソフトウェアで売り上げる分、高い利益を出しやすい。研究開発を続けていくが、営業利益率20%に向かってしっかり伸ばしていく。

―アライアンスの具体的な収益化の状況は。また、それらは業績予想に織り込まれているのか
竹中工務店の「建設ロボットプラットフォーム」は、現在同社内で動いており、まだ(取引先の)工務店には使ってもらっていない。売り上げはその一部だ。工務店に使ってもらうのが一番大事なところだが、今は含まれていないし、来期も大きくは含まれていない。

NTTドコモとの協業は、今期に3件ほど動き始めたところだ。ただ、5G関連なので基地局が整備されているかによる。売り上げがしっかり立っていくのは、基地局が整う3年後ぐらいではないか。

―沿革上、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は必要だったのか
2013年まではITコンサルで得た利益でソフトウェアを作っていた。ソフトのリリースを皮切りにソフトウェア事業に切り替えた。完全に切り替えたところで、その時の資金状況や融資に限界があって、2015~2016年に資金調達した。ただ、その時点で将来どのように調達していくか決め切れていなかったので、VCからの調達額は低い状況で、できるだけ融資で凌いでいた。

―ROEの考え方は
河田哲CFO:会社としては、まず利益をしっかり出していかなければならない。トップラインを伸ばす観点で考えている。株主還元も含めてというのはもう少し先のステージで向き合っていければと思う。市場の期待に対しては、しっかりと成長して安定的な利益を生み出す構造を優先したい。

―株主還元は
この数年は配当を予定していない。市場からの期待に応えられるように成長し、利益率を上げていくことが最優先だ。獲得した資金をさらなる投資に充てることが現時点では株主の期待に応えられることだと思っている。

―将来的にどんな会社にしたいか、ゴールがあれば聞きたい
濱中社長:2014年のImpulseのリリース当初は顧客に見向きもされなかった。「異常検知って何に使えるの?」という反応だった。そこでしっかり作り込めて顧客も乗ってきた。データ分析の世界は実証実験で止まってしまい、稼働まで到達しないことが大きな悩みだが、それをクリアできたのは早い段階で顧客をしっかり捕まえられたからだと思っている。早い取り組みが我々の強みだ。

どのような会社を目指すかということが大きくあるわけではないが、Amazon Web Servicesが1つの目標だ。彼らは創業以来、製品価格を下げ続けている。私が知っているだけで680回値下げしており、だからこそ市場のマスをしっかり取れていると思う。今はしっかり作り込んで使える状況にする。「使える」ということは、製品の機能やサービスに加えて価格の要素も大きいと考えており、そのような部分にもチャレンジしていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]