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上場会見:ビジョナル<4194>の南社長、人材の流動化を支える

22日、ビジョナルが東証マザーズに上場した。初値は、公開価格(5000円)を43%上回る7150円を付け、7000円で引けた。プロフェッショナル人材に特化した会員制転職プラットフォームである「ビズリーチ」を運営。登録会員数は今年の1月末時点で123万人。このほかに採用管理や人材活用を支援するSaaS型サービスである「HRMOS(ハーモス)」などを提供する。南壮一郎社長が東京都内で上場会見を行った。

南社長は質問に答える形で金融機関の中途採用に対する姿勢の変化について言及した。
南社長は質問に答える形で金融機関の中途採用に対する姿勢の変化について言及した。

―7150円の初値についてどのように感じているのか
現時点で何かできるものでもないし、個人・機関投資家に対して「評価してもらってありがとうございます」というのが率直な感想だ。

―日本のIPOでは公開価格と初値の乖離が大きいという声が高まっているが、公開価格の値付けについてどう見るか
市場は生き物なので発行体としては、自分たちがこれまで作ってきた会社や事業、業績に応じた適切な株価で上場する以外にない。上場後の株価については投資家と対話しながら作るものと考えている。我々ができることは株価を上げたり下げたりすることではない。

事業を未来に向けて作りながら、業績を通じて投資家に正確な情報を伝えていく。これが我々にしかできないことで、共同主幹事の野村と三菱UFJモルガン・スタンレーの多大なサポートを受けながらビジョナルとしての適切な株価をワンチームで決めた。経営としては非常に適切な公開価格と考えており、上場後の株価は、どうしたらより向上させられるか投資家と対話を続けたい。

―グローバルオファリングで、IoI(意思表明)の提出など複数のマーケティング施策を打った。そのなかで効果的だったものは何か
上場のプロセスを振り返って自分なりに消化すると、日本ナンバーワンの証券会社の野村と、世界のリーディング証券会社のモルガン・スタンレーの共同主幹事でグローバルオファリングができたことが、このIPOの最大の成功要因だった。2社と我々でワンチームとして組み、1つひとつの施策は誰かから生まれたというものではなくチームから生まれて実行してきた。

海外の投資家にきっちりプレゼンテーションしたおかげで意思表明を得られたと思う。例えば、日本市場でも既存の株主であるZホールディングスが親引けという仕組みを使い、IPO時にさらに買い増した。また、本来であれば世界中を回って投資家に会いながらプレゼンテーションをするところ、全てオンラインで行った。

オファリングの88.5%を海外投資家向けに売り出すことになったが、自分たちがグローバル展開したいからとか世界が良いからということが理由ではない。我々は中長期的な目線で経営戦略を立ててきた。世界には中長期的な目線で投資をする投資ファンドが数多く見受けられ、彼らの後ろには投資家が存在する。中長期的な目線で企業価値向上を信じて買ってもらえる世界での比率を高めることで、良いパートナーと上場というスタートラインに立てるのではないかと思い88.5%にたどり着いた。

―海外投資家からどのような期待や課題が示されたのか
ロードショーを通じて機関投資家に伝えたことは1つだ。我々は息をするように自然体で事業を作り成長させてきた。リーマンショック直後に始めたスタートアップであるがゆえに、ベンチャーキャピタルのマーケットが成熟しておらず資金調達がなかなかできず、ほぼ12年間黒字経営をしてきた。

自分たちが生み出した利益を未来の企業価値向上に投資してきたが、今後も規律ある経営を続けてもらいたいと投資家から強く要望された。その代わりに我々が生み出した利益は、中長期的な企業価値向上に向けた投資に徹底的に使う。既存事業の成長のためにも、新しい事業を生み出すためにも利益を投資していく。このスタンスに共感した投資家に多く支援してもらったと思うので、2つのスタンスを続けたい。

―HRMOSのシステムの普及で、日本の働き方や転職市場がどのように変わっていくか、変えていきたいか
この12年間で日本の働き方は大きく変わってきた。転職がこんなに当たり前になるとは誰も考えていなかったと思う。経営者としても、人が辞めるという非常に難易度の高い変数が増えた。これまでは何があっても辞めないというなかで経営してきたが、人が辞め、新しい人が入ってくる。入ったり出たりが当たり前になる。

従業員と向き合う企業、従業員にとって働きがいがある企業、働いてみたいと思う企業に人材が集まってくる。そして従業員と向き合う企業と、向き合えない企業の二極化が進む。優秀な企業に優秀な人材が集まる。それがこの国のあるべき姿だと思うし、我々は既に起こり始めている流れを支えるマーケットプレイスとクラウドのプラットフォームを作ることで、人材活用のエコシステムを作りたい。

―HRMOSを3~5年間でどの程度の規模に育てたいのか定量的に聞きたい。今は全体の10%未満と思うが、どのぐらいのポテンシャルがあるのか
上場企業になるに当たり何を言って良いか良くないか厳しく教育を受けてきたので、3~5年後の定量的な形での未来予測は言えない。ただ、一気通貫型の人材活用プラットフォームを作ることは明示しており、徹底的に作り上げていく。

―今は10%未満で2本目の柱とは言えないが、中長期的には2本目の柱になることを目指していくのか
もちろんだ。ビジョナルグループの2本目の大きな柱は確実にHRMOS事業だ。ビジネスモデルによって売り上げの見方は全然違う。昨今のSaaS企業の上場や業績を見ても、プラットフォーム型ビジネスの利益の立ち上がり方と、SaaS型事業の損益の組み方は違う。

全く違うビジネスモデルが混在していると思ってもらえると良い。赤字を続けながらもトップラインを伸ばすSaaS事業は上場企業にも見受けられる。HRMOSにふさわしいリソースの組み方や業績の向上のさせ方がある。ビズリーチは今後も成長を続けたいが、必ずしもパーセンテージで比べる必要はない。

HRMOSは人材活用クラウド領域で唯一無二の一気通貫型プラットフォームを目指す。どこまでマーケットができるか、12年前の転職市場と同じような伸び方をすると信じている。マーケットとともに成長したい。

―この何年かのビズリーチの登録者数の推移を見ると伸びが緩やかになっているように見える。今後の登録者数の伸びや伸ばし方のイメージは
鈍化しているかどうか、新規登録について言っているのか実際の登録者数についてなのか定かではないが、鈍化しているとは思えない。1回登録して数年して戻ってくる人たちもいる。累計の会員数だけが重要ではなく、アクティブに使っている会員が、ある時点でどのぐらい存在するのかを大事にしている。

同時に、我々のビジネスモデルを見ると、売上高はサブスクリプションで受け取る売り上げと成功報酬の売り上げで構成されている。企業を支援しながら採用の活性化を支援することで中途採用が決まる。この数字のほうが我々にとっては大事だ。プラットフォーム上で何人の人に仕事が見つかるか、何社の企業やヘッドハンターが採用できるかを追っている。鈍化しているようには感じておらず、人材紹介業全体のマーケットは確実に拡大してきたし、今後も拡大していくのではないか。

―海外展開は
特に予定していない。過去を振り返って日本企業の海外展開の成功パターンを見ると、国内で収益が上がる事業を複数作ることでまずは礎を作る。大きな利益を国内で生み出し、今後の成長のために海外市場への展開が必要と感じた場合には検討したい。

―調達資金の使途は
IPO後に200億円以上の現金が当社の手元にあることになる。元々100億円強あったものに、IPOで新たに100億円を調達する。今後の事業展開に必要な投資を各事業で行いたい。その事業のみならず、成長を支える人材採用をさらに強化したい。既存事業の成長を支えるためのM&Aや、新しい事業領域に参入する際のM&Aの資金などで活用したい。

―調達資金の使途に事業拡大に向けた人件費という項目がある。中長期の労働分配性に関するビジョンは
難しい問題で厳密に労働分配の公式が合っているかということもあるが、5~10年後の事業の姿や、その時に業績に対してどのような組織があるべきかを見極め、財務モデルに落としながら管理しているつもりだ。

プラットフォーム型とクラウド型のビジネスがあり、クラウド型のビジネスモデルは、多くの成長企業は赤字を続けている。特に評価が高い会社はそうだ。これは人件費をどう見るかで、セールスとマーケティングのみならず、5年後や10年後にソフトウェアによる売り上げが積み上がり、このような業績になった時にはどのような労働分配なのか、人件費の構成になるのか逆算しながら先行投資している。

ビジネスモデルによって労働分配が変わることを捉えながら、事業を個別に丁寧にモデル化して丁寧に成長させることを12年間続けてきた。今後も続けたい。

―沿革上、新規事業を分社化してグループ内にとどめる場合と外部に譲渡する場合があるが、両者の判断基準は
我々は投資会社でもベンチャーキャピタルでもない。社会の課題解決をする事業を作り続けることを経営のど真ん中に置いている。必ずしも売りたいから事業を作っているわけではない。ただし、第三者のパートナーと組むことで事業がより大きく成長し、さらに言えば事業が社会により大きなインパクトを与えられるという選択肢が出た時には、もちろん検討する。売却するために事業を作っているわけではない。

求人検索エンジンのスタンバイに関しては、ZHDという素晴らしいパートナーと組むことができ、我々が40%を保有し続けている。ヤフーやLINEを中心としたZグループのリソースを活用しながら合弁会社を成功させていく。マス向けやブルーカラー向けの求人広告市場で、新しいデータを活用したプラットフォーム事業が作れるのではないかという志を持って合弁会社を作った。同様に第三者のパートナーが現れて我々の事業をより加速できると判断したら、そのような選択肢を検討する。

―日本の労働生産性はなぜ低いのか
1つの問題ではない。国の歴史を振り返っても江戸から明治に移った時に、多分江戸時代はこの国は非常に貧乏だったと思う。外からの情報が入ってこなかったし、新しい技術や考え方を経済活動に活かしてこなかった。開国して新技術を世界から取り入れて、そもそもの仕組みを変えていった。日本は世界の列強と肩を並べるぐらいの経済大国になっていった。

今の日本も技術の活用が課題だと思う。情報技術は情報を速く多く安く届ける技術で、全ての業務フローのなかでそれを活かし切れているかという点で非常に遅れているのではないか。また、この国の高度成長を支えてきた終身雇用や年功序列という言葉に代表される働き方は、製造業にとって非常に有意義だったし、この国の底力になってきた。ただし、現在はGDPを見ると製造業はほぼ2割で、8割を第3次産業が担っている。

米国も1980年代まで製造業が基幹産業で、終身雇用や年功序列を中心とした働き方だった。経済のグローバル化や物流技術の発展で製造業がどんどん衰退し、90年代から柔軟な働き方にギアチェンジした。サービス産業を基幹産業とした働き方がどうあるべきか米国自身が定義し、30年間の成長につなげてきた。日本もそのような岐路に立たされているのではないか。

この国は今でも世界3位の経済大国なので過去を否定するつもりはない。ここからさらに大きく成長し、労働生産性がさらに上昇していくためには、今の時代や経済に見合った働き方を各企業がベストだと思う形で作っていくことが大事だと思う。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]