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上場会見:ステラファーマ<4888>の上原社長、BNCTの適応を拡大

22日、ステラファーマが東証マザーズに上場した。初値は、公開価格(460円)を54.78%上回る712円を付け、862円で引けた。ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に使用する医薬品の開発・製造・販売を手掛ける。BNCTは、ホウ素の安定同位体である「B-10」と、エネルギーの小さな熱中性子の核分裂反応でがん細胞を選択的に破壊する放射線治療の一種。2020年3月に医薬品の製造販売承認を取得した。上原幸樹社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

1回の照射で治療が終了するなどBNCTのメリットを説明する上原社長
1回の照射で治療が終了するなどBNCTのメリットを説明する上原社長

―初値が公開価格を上回った
非常に評価されて大変ありがたい。株主のことを考えると真摯に受け止めて会社を成長させなければならないと身が引き締まる思いだ。上場したことで関心を持ってもらえたと考えており、その関心をBNCTの認知度につなげることで、がんで苦しんでいる患者に届ける一助になればと思う。

―目論見書記載価格に比べて公開価格は少し低かったが、投資家の受け止めはどうだったのか
藤井祐一取締役:技術的なポテンシャルは非常に高いという評価だった。加速器と医薬品を組み合わせたビジネスモデルは、中長期的な成長戦略の見通しを計算することが難しく、企業価値の算定が難しいという回答があった。ポテンシャルを説明したが、価格の面では市場に出てしっかり企業成長・展開して株価を向上させることを優先した。目論見書記載価格より下げた形でしっかり上場するという考えだった。

―親会社との連携は
上原社長:ステラケミファが濃縮ホウ素の生産技術を持つ。医薬品を安定的に製造するにはB-10の供給の安定が必要だ。親会社とB-10の取引契約を締結し、供給を受ける体制を構築してきた。それを基にステボロニンを安定的に製造ができる。

―なぜホウ素を濃縮する必要があるのか
天然に存在するホウ素に含まれるB-10の比率は20%であり、ステボロニンと同様にホウ素と中性子の衝突確率を100%に近づけるためにはホウ素医薬品の投与量を5倍にしなければならない。治療に寄与しない化合物を体内に大量に投与することは倫理的にも避けるべきだ。不純物となるB-11を含む薬剤をできるだけ体に入れない方針で高濃度にしている。

―高濃度濃縮ホウ素ががん細胞に特異的に取り込まれる仕組みは、LAT1という性質によってアミノ酸と間違って取り込まれるもので、厳密には正常細胞よりもがん細胞のほうがより多く取り込むという理解か
その理解で良い。LAT1はがん細胞に特異的に発現する。正常細胞にはLAT2という少し違うものがあるため、そこに差分が出てくる。

―なぜ再発したがんに使えるのか。また、中性子線は体の表面からどの程度の深さに届くのか
初発の段階で放射線治療を受ける患者は完全に治そうとするので、60グレイほどの放射線を浴びる。人間の体は生涯に受けられる放射線の総数が決まっており、100グレイほどが限界だ。初回で60~70グレイを浴びている人が、再発の際に30グレイのなかでは治療できない。BNCTの場合は正常組織が浴びる線量を30グレイ以内に抑えながらがんの組織にはそれ以上の放射線を当てることから、再発のがんに対して根治的な治療として適用できる。

現在の加速器の出力では、7センチメートルぐらいまでが熱中性子がホウ素と十分に接触する深度となる。日本人の体形では照射方向を変えることで概ねカバーできる。ホウ素薬剤をがん細胞に溜める量を増やす技術革新で、中性子と衝突する確率を増やす。または、中性子そのものの量を増やすような加速器の出力アップといった技術革新で10センチぐらいまで届かせることは可能と考えており、研究も行われている。

―胆や膵臓のがんは7センチの深さで治療できるのか
国立がんセンターの先生たちから、近い将来膵がんのほうにも研究を広げていくことは可能と聞いたことがある。

―放射線量も少ないとなると技術としては有用だが、欧州や米国で進んでいない理由は
原子炉を使って中性子を出す前提で研究されてきた。ただ、原子炉を病院に併設できるかというのは規制上不可能ということで研究が停止していた。日本で加速器を使った治療が実用化したことで、欧州も米国もBNCTに注目している。学会でも承認が取れるのか注目されていた。昨年に承認が取れたことで欧州や米国も前向きになったと感じている。

―海外での承認はいつごろか
確固たる数字はなかなか出せないが、加速器の設置を起点に臨床試験が始まる。このため、1~2年ではなくもう少し長いスパンで考えている。

―加速器が医療機器として承認されているのは日本のみか
そうだ。

―加速器を普及させる戦略は
現在、承認を取得しているのが住友重機械工業の装置で、医療機関としても住友重機に加速器の値段がどうなのか直接話すよりも、医薬品を扱う当社に対してBNCTとはどのようなものかという問い合わせが非常に多い。そこでBNCTの可能性を説明することを契機に住友重機との商談のテーブルに着いてもらう取り組みをしていく。既にそういったところからいくつか話を聞いている。

―導入目標数は
藤井取締役:住友重機の情報であるため我々が回答すべき事項ではないと考えている。ただ、住友重機側ではグローバルで100台の導入素地があるとしている。今後BNCTの実績が積み重なるにつれ、加速器の展開が広がると見ている。

―INCJ(旧産業革新機構)参加の財務・事業上の効果は
上原社長:BNCTが本当に成功するのかと思われる面もあったが、産業革新機構が入るような魅力のある技術であるということで上場まで到達できたため、1つの節目となった。非常に感謝している。

―金銭的なメリットはなかったのか
長期にわたる薬品開発のなかで、第2相試験開始後に資金が必要になる状況で出資してもらった。そこで開発の迅速化や投資経験に基づくサポートを得られたことが大きかった。

―調達資金の使途の詳細は
藤井取締役:今後適応を拡大する対象としては再発脳腫瘍やメラノーマなどがある。再発脳腫瘍の承認が取れた後にはファーストライン(手術が不可能ながんに対して初めて使う薬)の展開を考えており、初発の脳腫瘍に開発資金を割く。海外展開では、欧州や米国に展開するための資金に充当する。海外に展開する場合は規制が異なるため、それに応じた製剤を開発する必要があり、技術移管費用に充てる。

長期借入金は、日本医療研究開発機構から調達している。一般的な研究収入ではなく開発成功時に一部を返済するスキームで、製品を上市したため返済する必要がある。現在は金融機関で借りて返済資金に充てている。資金使途は、5ヵ年程度の予定で記載した。

―株主還元の考え方は
上原社長:会社の価値を高め、キャピタルゲインで還元する。ますますの価値向上のためにいろいろな展開をしたい。

―しばらくは無配か
そうなる。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]