CAPITAL EYE

株式・債券の発行市場にフォーカスしたニュースサイトです。

世銀の有馬財務局駐日代表が語る:IDA、新しいESG債

世界銀行グループの国際開発協会(IDA)が自身初となるベンチマークドル債(条件決定4月17日、Aaa:ムーディーズ/AAA:S&P、ブックランナー:バークレイズ/BNPパリバ/JPモルガン/野村)を4月24日に発行した。30ヵ国・110件の投資家の参加によって、発行額の3倍強となる46億ドルのオーダーを積み上げ、デビュー債を成功裏に終えた。IDA(アイダ)として知られる発行体はアフリカの39ヵ国を含む最貧国75ヵ国に資金援助を行う機関で、調達資金は支援対象加盟国での持続可能な開発プロジェクトやプログラムに充当される。IDA債での日本の役割などについて、世銀財務局駐日代表の有馬良行氏に話を聞いた。

有馬良行世界銀行財務局駐日代表

有馬良行世界銀行財務局駐日代表

<IDA債の概要>
年限:5年
発行額:15億ドル
表面利率:2.75%
発行価格:99.357
利回り:2.889%
スプレッド:米国債+19.6bp
償還日:2023年4月24日
販売地域:アジア34%、欧州34%、北米・中南米23%、中東・アフリカ9%
販売業態:中央銀行・公的43%、年金・保険25%、銀行・事業法人24%、投資顧問8%

―日本の投資家の参加状況は
3件が参加した。このうち名前が公開されているのが富国生命保険と日本生命保険。日本への配分は総額200億円程度なので、国別にすると大きな額になった。

相場感に加えて、IDA債という新しいESG債に付加価値を見いだしてくれた。ステークホルダー、つまり保険契約者のためになる投資をするのが保険会社の目標になる。一番重要なのは安全に適切なリターンを取っていくことだが、保険契約者のお金を有効活用し、かつトリプルAという安全なクレジットできちんと運用する。その事実を保険契約者に対して発表し、契約者のためになることをきちんとやっているということを示す。その観点でIDA債に価値を見いだしたと思う。

日本生命はCSRレポートを毎年出していて、世銀債の過去の投資について定期的に発表している。全国にある支社などに対して社会貢献投資について情報を還元している。社会全般的にESG、SRIに対する認識が上がっている。そうしたところで、IDA債は新たなESG銘柄として人気を博した。そうした意味では、投資家の反応は日本も海外も全く同じだ。

多くの機関投資家はもともと個人の顧客を代表している。顧客は単に儲かればいいという投資に満足しなくなっているという流れが背景にある。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と世銀がESGの共同研究を行っているが、グローバルな必然性で背中を押されている。社会が求める投資銘柄がIDA債という形で実現し、GPIFも共同研究を契機に債券のESG投資を拡大していく方向性に間違いなくなっていくだろう。全てが同じ方向に流れていると実感する起債だった。

―地銀はIDA債を購入しなかった
地銀からすると5年債は長すぎたのかもしれないし、ドル債に対してあまり興味がなかったのかもしれない。残念な結果ではあるが、裏を返せばそれが今後の伸びしろと前向きに捉えている。

―今後の取り組みについて
グローバル債は成功に終わり、次はテーラーメイドの私募債ということになるが、これはまだ態勢が整っていない。IDAの資金需要が逼迫していないため。IDAはもともと自己資本比率100%であり、世銀のようにお金を借りなければいけないという財務体質ではない。ただ、今後は資金需要が徐々に伸びる。じっくり投資家の話を聞きつつ、お互いのニーズが合えば随時起債を行っていくことになる。

実際のところ、グローバルでIDAのテーラーメイド債に対するニーズが非常に高まっていて、引き合いも受けている。欧州の投資家の関心は高い。ESG投資の発祥だし、IDA債の追加投資への関心が高い。一方、日本勢も負けず劣らず意欲的。どこで私募債の発行に踏み切るかだが、今後数ヵ月のうちに動きが出てくるかもしれない。日本の投資家が私募債の第一号を購入することになったら非常に嬉しい。

■私募債の定義変わる
これまでの私募債は、自分の手の内をほかの投資家に明かさないためのものだったが、最近は世銀債で定義が変わってきており、IDA債についてもそう。内緒でやるというのではなく、単独の投資家のために発行体が手作りの債券を発行するという特別なものという位置付けで、その投資について発表するという流れになってきている。世銀がここ10年ほどグリーンボンド(GB)を中心に取り組んできたことで、「私募債=発表する」という潮流がグローバルに広がっている。

Photo: Caroline Suzman / World Bank

Photo: Caroline Suzman / World Bank

この流れのきっかけを作ったのは日本。世銀が最初に発行したGBの私募債は愛媛県の伊予銀行が購入した。せっかくなので大々的に発表しようということになり、伊予銀と主幹事のJPモルガン、世銀が共同でプレスリリースを出した。これを見たほかの地銀が色めき立ち、怒涛のごとくGBの私募債を買い、早稲田大学まで買う流れができた。

この傾向がグローバルでも出た。カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)が世銀のGBを買い、世銀に発表してほしいという、過去に思いつかないようなニーズが出てきた。ESG投資の標準化の流れで買ったことを発表するというのは、IDA債でも今後通じてくると容易に想像できる。そうしたなかで、日本の機関投資家が世界の機関投資家をリードしていくような投資行動を取ることが期待される。

■日本だからこそのサポート態勢
―日本の役割について
世銀が財務の拠点を置いているのは、資金調達拠点としてはワシントンD.C.以外で日本だけ。世銀の世界的な資金調達戦略について一定の方向性や新しい戦略など、日本市場が要所で役割を果たしてきた。IDA債についても、日本市場がリーダーシップを取れるよう我々が全面的にサポートしていきたい。

Photo: Arne Hoel / World Bank

Photo: Arne Hoel / World Bank

投資家と発行体が協力して起債を作る必要性が以前より増えている。その象徴的なものが共同でのプレスリリースで、投資家が自分たちのお金がどのようにグローバルな社会貢献をしているか、どういう形で発表したいかというのは、日本に拠点のある我々だと綿密にニーズを把握することができる。そういう意味で対話はより重要になっている。

―生保や地銀以外で期待するセクターは
投信業界だ。途上国支援を目的としたESGファンドを組成しているし、その対象アセットとして世銀債を組み入れていることが多く、継続している。日興アセットマネジメントは世銀債の名前のついたファンドを10年以上前から取り組んでいる。収益の一部をIDAに寄付している。民間でやっているのは日興アセットだけ。IDA債の投資には動いていないが、新たなESG銘柄の登場は投信業界のESG投資を益々刺激することになるだろう。GPIFと世銀の共同研究の内容はそれを後押しする可能性がある。

ESG投資が5年後や10年後という将来、当たり前になることを予想している。それにIDA債が一定の役割を果たすことが重要になる。最先端を走り、方向性をつけ、日本の債券市場の発展に寄与したい。

[聞き手:キャピタルアイ・ニュース 比後 樹宏]


CAPITAL EYE © 2016
本情報の正確性には万全を期しておりますが、情報は変更になる場合があります。 また、第三者による人為的改ざん、機器の誤作動などの理由により本情報に誤りが生じる可能性があります。 本情報は、情報の提供のみを目的としており、金融商品の販売又は勧誘を目的としたものではありません。 投資にあたっての最終決定は利用者ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。 本情報に基づいて行われる判断について、株式会社キャピタルアイは一切の責任を負いません。 なお、本情報の著作権は、株式会社キャピタルアイ及び情報提供者に帰属します。本情報の転用、複製、販売等の一切を固く禁じております。