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財務担当に聞く:北九州市、公害克服した「環境未来都市」

北九州市財務部財政課 財源調整係長 吉本 正継氏

北九州市財務部財政課
財源調整係長
吉本 正継氏

公害克服の技術と経験を活かし、環境未来都市計画を掲げる北九州市。財政局財務部財政課財源調整係長の吉本正継氏と同財源調整係の北島大基氏に話を聞いた。

–北九州市の概要について
1963年(昭和38年)2月に5市の合併によって誕生した全国6番目の政令市だ。門司、小倉、若松、八幡、戸畑の旧市名は現在でも区の名前として残っている。鉄道と港湾の門司、軍需産業で栄えた小倉、石炭の集散する若松、製鉄業の八幡、紡績と水産で栄えた戸畑。それぞれ個性あるエリアが合併しているので、北九州市のイメージを一言で表すのはなかなか難しい。北九州市には多様な個性が生み出すダイナミズムがある。官営八幡製鉄所が1901年にできて以来ものづくりのまちとして日本の近代化、高度成長を支えてきた。現在は、それに加えて公害克服の技術と経験を活かして世界の環境首都を目指したまちづくりを推進している。

八幡製鐵所(北九州市提供)

八幡製鐵所(北九州市提供)

人口は2017年1月1日現在で96万6628人。自然動態については少子高齢化の進行で2003年にマイナスに転じて以降、減少幅は拡大傾向にある。一方、社会動態については製造業の雇用吸収力の低下や機能集約などによって、過去多いときには年間1万5000人ほどの転出超過もあったが、これまでの取り組みによって、外国人を含めた転出超過は過去5年間の年平均で1000人台に落ちてきている。交流人口についても2015年の国勢調査で約2万2000人の流入超過となっていて、現在もこの傾向が続いていると考えられる。

■新規雇用創出2万人
–地方創生について
「北九州市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定して取り組んでいる。2019年度までに、市内新規雇用の創出約2万人や、北九州空港の利用200万人、外国人観光客数40万人などを実現し、社会動態をプラスにしていき、地方創生の成功モデル都市を目指す。

新規雇用者数は2015~2016年度の2年累計で8510人ほど。有効求人倍率については2014年3月に0.97だったものが2018年2月には1.65まで回復している。北九州空港の利用者数は2017年度に164万4000人で前年度比17.2%増加した。2017年の外国人の観光客数は過去最高の68万2000人で、前年に比べてほぼ倍となっている。

皿倉山夜景(北九州市提供)

皿倉山夜景(北九州市提供)

–外国人観光客について
市を訪れる外国人観光客数は、国・地域別では韓国が最も多く、2017年は33万1000人と前年比147%増加した。釜山・仁川に定期便が就航していることが貢献している。次いで台湾の16万8000人で前年比40%の増加。3位が中国で13万4000人。小倉城や皿倉山の夜景などが人気スポットになっている。地元の百貨店の免税部門の売り上げが前年比5割ほど増加するなど、経済効果が大きい。

また、2017年11月に開催し、2日間で約1万人が参加したKitaQフェスin TOKYO、北九州メディア芸術創造拠点推進事業の国による採択といった新たな取り組みも展開している。

戸畑祇園(北九州市提供)

戸畑祇園(北九州市提供)

成功モデル都市を目指すテーマの一つとして「しごとをつくる」がある。北九州市に仕事を作って安心して働けるようにするためにはどうするか。例えば、生涯賃金や衣食住の経費シミュレーションを作成しPRする。福岡市内の大学生へのアプローチを強化し、U・Iターンの事業を実施したり、奨学金返済を支援して地元就職を促進する。

北九州空港では、国際定期3路線、これは中国の大連、韓国の釜山、仁川との路線の定着化や国内線の利用促進に取り組んでいる。空港貨物取扱量の回復や、貨物定期便の誘致の推進などによって空港の利用を促進する。

■理工系の人材
次に「新しいひとの流れをつくる」。例えば、首都圏からの本社機能の移転を促す取り組み。首都圏に集積するIT・情報通信系企業に対して、北九州市には理工系大学の優秀な人材がおり、それを採用できる環境であることをPRし、誘致企業の採用を強力に支援する。市内には北九州市立大学と九州工業大学、西日本工業大学が、県内には九州大学がある。市立大学のデータでは、2016年度の就職率が過去最高で98.8%。そのうち市内への就職者数は前年度比12人増えて203人で、これも過去最高を更新している。

また、奨学金の返還支援制度を2017年度から実施している。貸与型奨学金の利用者が、市が認定する企業の総合職、研究職、開発職、技術職、また介護福祉士、保育士・幼稚園教諭に就職し、市内に居住した場合、就職後2~4年目に年間最大18万円を3年間補助する。対象者は300人程度となっている。

3つ目としては「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」。2017年8月に設立した北九州イクボス同盟や、多様な人材を活かし、能力が最大限に発揮できる機会を設けるダイバーシティ行動宣言への登録を推進する。民間が中心になって立ち上げた「北九州市女性創業支援ひなの会」は女性が起業した企業を支援する。この4月27日にはビジネスプランコンテストが開催された。

合計特殊出生率は2015年に1.59であり政令市のなかで第2位。トップクラスの合計特殊出生率の維持に向け、子育て環境を充実させる。

成功モデル都市に向けた最後のテーマが「時代に合った魅力的な都市をつくる」。市の多様な魅力を内外に情報発信して魅力的な都市イメージを定着させ、シビックプライド(Civic Pride)を醸成する。防犯活動にも力を入れており、刑法犯の認知件数が減少している。ピークの2002年に約4万件あったが、2017年には5分の1の約8000件となった。

■50歳からのハローワーク
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–高齢化、少子化対策について
20年ほど前からシニア世代を意識した街づくりをめざしている。病院や介護施設が充実しているほか、再就職支援セミナーやシニア向けのお試し居住を実施している。こういった取り組みの一つとしてシニアハローワーク戸畑を設置した。これは50歳以上向けの専門の就職支援を行っているハローワーク。国際戦略特区で認定を受けて運営している。50歳以上向けの求人情報を集めており、この情報は東京事務所でも閲覧できる。東京の人が北九州に住み仕事をしたいというニーズに応えている。

近年、北九州市の暮らしやすさに注目が集まっている。まず、物価が安い。全国平均を100とすると北九州市は97.2。家賃に関しても、2017年度の小売物価統計調査によると、1ヵ月1坪あたりの民営賃貸住宅の家賃は東京都区部の8562円に対し、北九州市は3990円と半額以下。東京の平均的な通勤時間は片道43.8分だが、北九州市は26分と通勤しやすい。医療機関も充実しており、90の病院と961の一般診療所が存在し、人口10万人あたりの病床数は20政令市中で2番目となっている。

子育て教育環境の整備については、放課後児童クラブを、希望する全ての児童に開放したり、保育士配置基準を1歳児5人に対して保育士1人として質の高い保育サービスを提供するなどの施策を実施している。

2016年5月に「ウーマンワークカフェ北九州」を開設した。国と県と市が連携した全国初の女性就業支援施設。女性の就業のカウンセリング、求人のサポート、保育情報、キャリアアップや企業の支援といったサービスをワンストップで提供している。
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こうした取り組みが第三者から評価されている。NPO法人エガリテ大手前による「次世代育成環境ランキング」では6年連続で政令市1位。2005年度の調査開始後12年のうち11年間、政令市で総合ランキング1位となっている。小児医療において平日や夜間・土日祝日の診療が充実している、乳幼児保育では待機児童が少ない、出産の環境においては病院・診療所が充実している–といったことが評価されている。「共働きしやすい街ランキング」では2016年度に政令市1位。宝島社の「田舎暮らしの本」では、住みたいまち総合・シニアの2部門で全国1位となった。

■SDGsアワード特別賞を受賞
–「環境首都」について
SDGs(持続可能な開発目標)推進本部が、SDGsを達成する取り組みを行っている団体・企業などに贈るジャパンSDGsアワードで、北九州市は特別賞(パートナーシップ賞)を受賞した。自治体の受賞としては北海道の下川町と北九州市だけ。市場公募債発行団体としては最初の受賞。

SDGsは、2015年の国連サミットで全加盟国193ヵ国の全会一致で採択された。2030年を目標とする世界共通の目標で、17のゴールと169のターゲットから構成されている。日本政府については、内閣総理大臣を本部長とするSDGs推進本部を2016年5月に設置し、同年12月には実施方針を公表している。2017年12月にSDGsアクションプラン2018の公表とあわせて第1回SDGsアワードを選定した。

環境の国際協力や環境国際ビジネスによるアジアへの貢献であるとか、公害を克服した経験から得た「市民力」、さらに次世代エネルギー拠点化による低炭素社会の実現といった形で、環境のまちとしての北九州市の歩みがSDGsの理念に一致するということで評価された。

■公設公営のメガソーラー
環境国際協力・環境国際ビジネスに関しては、海外の水ビジネスが挙げられる。カンボジアやベトナム、インドネシアなどに長年にわたって技術協力をしており、信頼関係ができて非常に頼りにされている。公害を克服してきた「市民力」というのは、市民、企業、大学、行政の垣根を越えた連携。次世代エネルギーについては、全国でも珍しい公設公営のメガソーラー「市民太陽光発電所」がある。出資するときに北九州市で市制50周年記念債という住民参加型市場公募債を5億円発行して市民に購入してもらい、資金は市民太陽光発電所の設営に使われた。最近ではバイオマス発電所や洋上風力発電の施設の設置運営事業が決定して整備が進んでいる。今回の受賞を弾みにしてさらなる成長と都市ブランドの育成を発信していきたい。

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つい先日、OECDが「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」としてアジア地域で初めて北九州市を選定した。ドイツのボン市、イタリアのトスカーナ州など、北九州市を含めて世界で6都市・地域が選ばれている。この6都市を含めて最終的には10から12程度のモデル都市を選定して、モデル都市を対象として調査・分析・評価を行って、都市・地域レベルでの取り組みを世界中で広げていくためのプロジェクトを実施する。

北九州市では市長を本部長とする「北九州市『SDGs未来都市』庁内推進本部」を設置し、全庁的な体制を作って推進している。

■グリーン公共事業
–2018年度予算について
2018年度は市制が始まって55周年の節目の年になる。4つの柱として、「にぎわいを創出し、新しい人の流れをつくる」、「魅力あるしごとを創出し、活力あるまちをつくる」、「安心して子どもを生み育てることのできるまちをつくる」、「誰もが安心して暮らせるまちをつくる」を掲げ重点的に推進する。一般会計予算として5630億円を計上している。

なかでも、グリーン公共事業については、市長の公約である「環境とアジア!北九州を元気にする緑の成長戦略」の一環として2011年度から重点化している。グリーン公共事業は北九州市で定義付けしているもので、投資的経費のうち、環境負荷の低減や資産の有効活用、環境保全、再生・創造を目的として実施される事業。建築物や設備の長寿命化、省エネルギー化、交通の円滑化、交通システムの効率化、公園の整備などが対象。2018年度の一般会計予算においては投資的経費の約26%(147億円)を占めている。

–2018年度の発行計画は
合計で1000億円を発行する。5月に30年の定時償還債を100億円程度、20年の定償債100億円と、20年の満期一括債100億円を6月に予定している。また、9月に5年物を150億円、12月に10年債の150億円を発行する。最近の金利の低下を受けて困難視されている住民参加型市場公募債だが、北九州市は2002年度以降毎年度継続して発行している。低金利ではあるが、市民の皆様から多くの支援をもらって、発行できている。方針としては、できるだけフレックス枠や年間主幹事制を活用し、柔軟な運営をして投資家の声に応えたい。

財源調整係 北島 大基氏

財源調整係
北島 大基氏

–東京都がグリーンボンドを発行したが、発行する考えは
認証をとらなくてもグリーンボンドとして発行はできると聞いているが、現時点ではグリーンボンドという形での発行は考えていない。ただ、以前からグリーン公共事業や、古くから環境への取り組みをしてきている自治体であるし、そうした事業を行なうための市債という性格を持っている。IR資料に盛り込むなどでSDGsやグリーン事業、環境の事業に市債が役立っているということ発信していきたい。

–市の財政状況について
歳入・歳出の決算額は5000億円台の規模。歳出のうち、人件費と扶助費、公債費を合わせた義務的経費は2500~2600億円程度。人件費に関しては職員数の削減などで徐々に減っているが、扶助費は増加傾向にある。ただ、高齢者が元気になってもらうとか、増加額を減らすよう取り組んでいる。

2015年度に埋立地造成会計を廃止するために三セク債を404億円を発行した。この償還は、毎年度約20億円ずつとなるが、それを含めても公債費はおおむね年度に650億円から700億円規模で推移している。実質公債費比率は13.7%で早期健全化基準を大きく下回っている。

キャプチャ4貸借対照表の一般企業で言う自己資本である純資産は1兆3862億円で、全体に占めるうちの50%を超えている。民間の損益計算書にあたる行政コスト計算書のなかの純行政コストについては3654億円に対して、税収と国県等補助金が3667億円であり、純行政コストが財源で賄われている。こういった形でも財政の健全性が確保できている。

小倉城(北九州市提供)

小倉城(北九州市提供)

公営企業については、単年度資金収支で、上水、工業用水道は黒字を確保している。赤字の交通事業は、民間では賄えない部分を行政でやっているため、不採算路線が存在する。病院は高度医療を行政で行っていることなどで経営的には難しい部分もある。ただ、年度末資金剰余で一定額の資金を確保できていれば運営的には問題ない。

地方3公社(住宅供給、道路、福岡北九州高速道路)に関しては、いずれも経常黒字を毎年同じぐらいの規模でコンスタントに確保している。土地開発公社は2014年3月に全額自己資金で清算を済ませている。

[聞き手:キャピタルアイ・ニュース 菊地 健之]


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