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財務担当に聞く:神奈川県住宅公社、少子高齢化と再生

神奈川県住宅供給公社は、2014年12月に社債の発行を始め、次回は初めての20年債を4月に予定している。総務部部長の吉田隆信氏と同部財務経理課課長の伊藤正史氏に、少子高齢化に対応した事業や、財務内容などを聞いた。

総務部部長 吉田隆信氏

総務部部長 吉田隆信氏

■賃貸、再投資、超少子高齢化、地方創生

–公社の概要は

1950(昭和25)年に神奈川県の出資で設立され、その後に横浜市と川崎市が加わり、県が2分の1、両市が各25%出資している。役職員数89人(2017年4月1日現在)で、2016年度の事業収益は約160億円、経常利益は25億円弱、資産合計が約2000億円の規模。発行体の信用格付けはダブルAフラット(JCR)。見通しはネガティブだがこの格付けを1月23日に更新することができた。

賃貸住宅がメインの事業で、安定した収益を確保できている。資産のうち一般賃貸住宅が90%以上あり、戸数は1万3630。これを神奈川県全域に配置している。入居率は92%以上を確保している。2つ目の基幹事業として、自立型有料老人ホームであるケア付高齢者住宅を所有している。全部で5施設あり、合計818戸で入居率は95%。また、要介護状態になった場合に移り住んでもらう介護専用型の有料老人ホームを2施設・151室所有している。さらに、サービス付き高齢者向け住宅も1施設・62戸ある。住宅だけの開発ではなくて、団地全体、例えば小中学校を含めた開発をしてきたので、併設する店舗や駐車場も所有している。経常利益は2007年度から10期連続で20億円以上を確保している。

キャプチャ1安定した売り上げを長期的に維持・向上していくため、再投資を実施している。賃貸住宅、高齢者住宅、賃貸施設を対象とし、長寿命化や集約化を図る。例えば、横浜・川崎地区では老朽化した団地を中心に建て替えている。階段室型のマッチ箱タイプの団地を廃止し、そこに新しいものを建てる。年間1団地程度を実施しており、これによって、収益が4倍程度に跳ね上がる。ただ、横浜・川崎地区では、面積当たりの単価が取れないと難しいので市場性を重視する。それ以外の神奈川県内の郊外型団地では段階的に長寿命化や集約化を実施している。建物自体の長寿命化とともに、需要・供給のバランスが崩れ始めている地域があるので、それらは、例えば30棟あったものを半分にするといったように集約している。また、神奈川県耐震改修促進計画に基く改修をしている。

総務部財務経理課課長伊藤正史氏

総務部財務経理課課長伊藤正史氏

超少子高齢化に対応したプロジェクトも展開している。高齢者事業では、生涯自立というコンセプトを打ち上げ、食事・運動・生きがいの取り組みを継続している。団地内での訪問介護を実施し、自治会や管理会社、一般企業と連携協定を結んで見守りによる孤立死防止も行っている。建て替え後の賃貸物件では立地性に合わせて併設の事業所を設けている。川崎の建て替え物件には認可保育所を併設した。郊外型団地については、人口の減少が始まっている二宮地区で地方創生にも取り組んでいる。

神奈川県の住宅政策の一翼を担っているという社会的企業として、公営住宅を補完するセーフティネットの役割を果たしている。大震災などの際に被災者へ住宅を提供している。直近では東日本大震災や阪神・淡路大震災で実施した。遊休地はほとんどを売却したが残った土地があり、そこでメガソーラー事業を神奈川県とともに展開している。

■高齢者世帯で家賃収入安定、孤立死対策も

–一般賃貸住宅事業について詳しく

安定して92%以上の入居率を確保している。そのなかでも横浜・川崎地区が中心となるマンションタイプは94%以上だ。入居者からの家賃の収納率は99%以上で推移。入居者にお年寄りが多く、年金などの安定した収入があるため家賃収入も安定している。地区別に見た横浜・川崎地区の割合は、戸数で半分、売り上げで3分の2を占めている。

耐震化について、実施率95%以上に向けて取り組んでいるところだ。神奈川県の耐震改修促進計画だが、2015年度に90%以上、2020年度に95%以上という目標があり、ここまで全てクリアできており、今後も問題なく進む予定。例えば、横浜市の若葉台団地では、柱を切断して中間に高減衰のゴムをはさんだ免震工法や制振ブレースを設置する耐震化を行っている。

人口減が始まっている三浦地区にある浦賀団地では、高層階の入居を促進している。近くに神奈川県立保健福祉大学があるので、連携協定を締結して学生に入居してもらっている。賃料を半分にする代わりに自治会活動をサポートしたり、高齢化している団地の住民を助けてもらうといったことを協定のもとに実施している。

様々なところと連携協定を結んで孤立死の問題にも取り組んでいる。例えば、団地の住人の家族が電話をしてきて「連絡が取れない」だとか、周辺の住人が「新聞が溜まっている」といった連絡に応じ、我々が駆けつけることもあるが、連携先に連絡して見てもらうなどを行っている。実際に倒れていた人もおり、そのまま病院に連れていき命を助けたという事例も多くなってきている。

若葉台の団地内にある商業施設に宅配便ロッカーを設置した。我々は商店街も所有しており、できるだけ利便性を高めて、売り上げアップにつなげるという取り組みもある。

■食事・運動・生きがい

ヴィンテージ・ヴィラ横浜

ヴィンテージ・ヴィラ横浜

「ヴィンテージ・ヴィラ」と呼んでいる入居時自立型有料老人ホームでは、「生涯自立」に向けた健康寿命の延伸に取り組み、入居者へ食事・運動・生きがいの3つのプログラムを提供している。食事については、グループ法人であるシニアライフ振興財団とともに直営化を実施した。それまでは給食会社に委託していたが、健康な生活を送れるよう、365日、朝昼晩提供する。具体的にはヴィンテージ・ヴィラ相模原で直営化しており、4月からはヴィンテージ・ヴィラ向ヶ丘遊園で2つ目の施設として直営化する予定だ。

運動については、株式会社ミズノと連携協定を結んで、活動量計を導入している。入居者に配布して腰につけてもらい、歩数と中強度運動時間を見える化している。食事と運動のバランスを取ってもらうため、3ヵ月に1回程度、個人面談で健康相談も行っている。さらに大事なのは生きがいで、これについては、一つは歌がある。歌は直接耳から入って脳にストレートに影響する。歌の発表会を2015年から行っており、5施設で30人ほどのコーラス隊がいて、その人たちが練習した成果を1年に1度、神奈川県立音楽堂などで発表してもらっている。陶芸や絵画といったアートの発表会も年に1回程度行っている。非常に上手な人がおり、作品をホールなどで展示して、見てもらう。多くの家族も応援に駆けつけてくる。

フロール新川崎

フロール新川崎

少子化対策の一つとしては、昨年に建て替えた「フロール新川崎」で、1階に認可保育所を併設している。これはミキハウス子育て総研から、「子育てにやさしい住まいと環境」の認定を取得した。防災や子育てに関するイベントも実施している。174戸の住宅があるが、満室の状態だ。

■シャッターを開けよう

–団地再生の具体例は

郊外型の大規模団地である横浜市旭区の若葉台団地での事例を紹介すると、昭和50年代に開発した団地だが、住民の高齢化が進んでいる。住民や、管轄する横浜市、旭区役所、学識経験者が参加する会議を実施し、この団地の未来を考えた「みらいづくりプラン」を作成した。

団地の中央に公社が所有する商店街があり、この区画を利用して「わかば親と子の広場そらまめ」という子育て支援施設を整備した。団地内のNPO法人が運営している。小さい子どもを持つ母親たちが、この場で様々なコミュニケーションを取れるような場となっている。この施設があることで、一人で子育てに困っていた母親などが訪れ、商店街にベビーバギーが溢れるような状況になっている。同様に、商店街の区画を公社でリフォームし、イベントの開催や情報発信を行える「コミュニティ・オフィス&ダイニング春」という施設も整備した。

相模原市南区にある相武台団地では、団地の再生に資する人を募集し、家賃を半額程度にして運営してもらっている。空き店舗だったところに、これまでにカフェ、学童保育、エステサロン、親子向け食品雑貨の4店舗がオープンした。団地が高齢化して衰退している状況のなか、活性化の取り組みに共感してくれた人限定でやってもらっているので、単なる利益追求の商店ではない。このため、家賃を半額程度にしている。

キャプチャ2また、「けやきこども食堂」というのも実施している。これも空き店舗を利用して、団地の子どもたちに2ヵ月に1回程度料理を作ってもらい、子供には1食100円程度で提供する。商店街に子どもたちが集まり、活気が溢れてきている。何も手を打たないと商店街のシャッターは閉まったまま。まずはシャッターを開けて活気を取り戻そうという取り組みだ。

■さとやまを活かす

神奈川県西部の小田原に近い二宮団地では、地域の特色を活かし、「さとやま」をキーワードとして魅力を高めようとしている。この地域では人口減が始まっており、集約化も進めている。団地のコンパクト化ということで、28棟のうち10棟を廃止する。住民に対する説明会などを実施して賛同を得られたので、徐々に移り住んでもらっている。

セルフリノベーション(Before)

セルフリノベーション(Before)

セルフリノベーション(After)

セルフリノベーション(After)

移り住んでもらうだけでなくて、改装のメニューを用意している。公社のプランから選択できるセレクトリノベーションでは、小田原産の杉を内装に多用し、材料の仕入れやデザインなどを地域内で賄って地域経済にも寄与している。入居者自身が自由に改装するセルフリノベーションでは、自分なりの住まいを追求できる。これらによって、新しく団地外から流入する顧客の入居も推進している。新規の入居者を1年間に50件という目標を持っており、徐々に新しい人が増加している。

また、水田を公社が未利用地として所有しており、そこでの田植え体験や作物の収穫体験を実施している。商店街の区画を利用してダイニングを併設して、ここで若葉台団地と同じような展開をしたり、二宮町が所有している古民家でのコンサートやホールでの「こども音楽祭」の開催といったイベントも実施している。

■前倒しで利子補給終了

–経営計画について

神奈川県の指導の下、公社が策定し、2013年6月に掲げた10ヵ年計画がある。年間経常利益の20億円以上確保が目標の一つにあり、2007年度から10期連続で達成できている。借入金は、住宅を供給しているので非常に大きな額があったが、毎年度返済し、2013年度に1199億円だったものが、直近では1091億円まで削減することができた。2022年度までに800億円台にまで減らすことが目標。県からの利子補給は年間3億円程度で推移し、本来であれば2024年度まで受けられるが、これを2年間前倒しで終了させる。

それから、ケア付高齢者住宅が年間を通すと3億円ほどの赤字だが、これを2022年度までに黒字化させることも目標の1つ。入居促進や介護費用などの抑制により収支改善の取組みを継続中。こうした計画に沿って経営しており、毎年設立団体の監査があるが、その監査を全てパスし、A~CのなかでAの評価を得ている。

■将来的に社債と借入を1:1に

–財務状況について

貸借対照表を見ると、団地の集約などで資産は少しずつ減っており、2016年度は1985億円。このうち賃貸事業資産が4分の3以上を占めている。負債のなかでは、次期返済長期借入金と社債、長期借入金、この3つの合計が約1000億円の借入金総額。社債についてはこれまで累計で325億円を発行した。資本では、毎年の当期純利益を積み増しして直近では577億円の余剰金がある。自己資本比率は2012年度の23.2%に対して2016年度は29.1%と、30%近くまで高めることができた。

次に損益計算書。直近の2016年度は157億4300万円の売り上げ(事業収益)だった。大きな目標があって、160億円を目指している。基幹事業である一般賃貸住宅の家賃収入が大きな割合を占めている。事業原価は124億7700万円だが、再投資の金額が大きい。一般管理費は人件費など。経常利益は24億7100万円だった。20億円以上という目標の達成を続けているが、再投資の内容が違うので年度による増減がある。

キャプチャ3借入金は徐々に減らすことができている。2012年度末に1234億円だったものが、2016年度末が1091億円。2017年度には1038億円まで削減する目標を掲げている。構成を見ると、社債が325億円で30%、金融機関からの借入金が737億円で68%。将来的には、社債で50%、金融機関から50%というバランスに持っていきたい。社債は2014年12月に5年物で初めて発行し、2回目と3回目は10年債だった。

・社債の発行実績

条件決定 回号 年限 発行額 表面利率 対国債 主幹事社名
2014/12/5 1 5 55 0.321 25 みずほ/三菱UFJMS
2015/12/4 2 10 100 0.679 35 大和/三菱UFJMS/みずほ
2016/4/15 3 10 170 0.320 41# 大和/三菱UFJMS/みずほ/SMBC日興

*発行額:億円/表面利率:%/対国債:+bp(#付きはC-EYE算出)

–都市再生機構や県営住宅との競合は無いのか

月収基準がある。単純に言うと、県営住宅は15万8000円以下、公社の住宅は15万8000円以上の人が入居できる。都市機構は月収額が家賃の4倍または33万円以上となっており、それぞれの棲み分けができている。民間の賃貸住宅も当然存在し、駅に近いワンルームであったりするが、我々が供給してきたのは過半数以上がファミリータイプの住宅であり、民間との棲み分けもできている。

[聞き手:キャピタルアイ・ニュース 菊地 健之]


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