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財務担当に聞く:神奈川県、1回200億円・ぶれない姿勢

紅葉(神奈川県・大山)

紅葉(神奈川県・大山)

今年度は2900億円の市場公募債を予定し、11月に発行体として初めて定時償還債を起債した神奈川県。総務局財政部財政課資金・公営事業組合担当課長の西村浩氏と、同課資金グループ主任主事の櫻井典助氏に話を聞いた。

神奈川県 総務局財政部財政課 資金・公営事業組合担当 課長 西村 浩 氏

神奈川県 総務局財政部財政課
資金・公営事業組合担当
課長 西村 浩 氏

■人口2位、GDP4位

–神奈川県の概要について

人口は912万人(2015年国勢調査人口等基本集計結果)で、東京都に次ぐ規模。横浜と川崎、相模原という3つの政令指定都市がある影響が大きい。人口増加数も全国第2位。川崎市の武蔵小杉地区を中心に伸びている。三浦半島や県西地域は減少が進んでおり、地域的な差があるが、全体としての人口はまだ増えている。生産年齢人口も第2位で、人口的にはかなり大きい。日本全体で人口減少が進んでいるなかでも、本県はまだ増えている。

 

2015年当時に作成した総合計画の第2期実施計画では、国勢調査をベースに2018年に913万人で県の人口がピークを迎えると推計したが、総務省の住民基本台帳に基づく人口動態及び世帯数では2017年9月に約916万人という数字が出ているので、まだまだ増えることも想定される。 神奈川県1

県内総生産は30.3兆円で、東京都、大阪府、愛知県に次ぐ第4位。また、国際比較ではフィリピンとフィンランドの各1国ぐらいに匹敵する。製造品出荷額等は17.4兆円で第2位と、愛知県に次ぐ。この製造品出荷額等で、県内で大きいのは川崎市と横浜市。そのほかにも、湘南地域や県央地域においても県内ほぼまんべんなく工業が発展している。 神奈川県2

県では3つの特区が国から指定されている。1つ目は京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区。国の経済成長のエンジンとなる産業機能の集積拠点として特区に指定されている。川崎市の多摩川沿いの河口に近い地域。ここで革新的な医療や医療機器の開発製造、健康関連産業の創出などが目指されている。2つ目のさがみロボット産業特区は、さがみ縦貫道路(圏央道)の周辺を中心に12市町が指定されている。そこでは生活支援や介護関係のロボットなどの実用化や普及促進を目指している。

もうひとつは東京圏国家戦略特区。未病という、病気と健康の途中に相当する状態のことだが、未病に対応した様々な健康事業を実施したり、医療機器を発達させていく。これによって、健康で長生きできる社会を目指すとともに、将来的な医療費の高騰を抑制する。黒岩祐治県知事が「人生100歳時代」を打ち出していることもあって、健康産業関連の施策を積極的に打ち出していくなかで県の全域が指定されている。これら3つの特区を活用して県内経済の活性化を図っている。

■江ノ島がセーリング会場

「かながわグランドデザイン」という名称の総合計画を策定しており、第2期計画を実施している。超高齢化社会への備えや、東日本大震災の教訓を生かした防災対策の強化など様々な課題に対して、2012年3月に基本構想と実施計画をまとめた。この第1期計画が2014年度に終わったので、改めて2015年7月にそこから4年間の取り組み・施策を第2期の実施計画としてまとめた。政策のまとまりごとに、健康長寿からまちづくりまで5つの柱を立てて23のプロジェクトを進めている。

重点施策を横断的にまとめ、ヘルスケア・ニューフロンティアの推進、ロボットと共生する社会の実現、グローバル戦略の推進、地方創生の推進、オリンピック・パラリンピックの開催成功を戦略として示している。オリンピックの種目でセーリングの会場が江ノ島に決まっており、開催に向けて様々な課題や対応が出てくると思うが、国家的事業でもあるので、積極的に、予算措置面も含めて頑張っていこうと思っている。

–企業誘致について

アオバト(神奈川県・大磯)

アオバト(神奈川県・大磯)

グランドデザインの2つ目の柱として「経済のエンジン」を回す。これは知事が強調していることだが、そのために企業誘致に積極的に取り組んでいる。2004年度から「インベスト神奈川」、2010年度から「インベスト神奈川2ndステップ」、今現在は「セレクト神奈川100」という誘致施策を設定して取り組んでいる。

「セレクト神奈川100」では、未病関連やロボットといった産業のほか、エネルギー、観光などを中心に4年間で100件誘致するという目標を設定しており、誘致によって経済の活性化、雇用創出を目指している。そのために、最大で10億円の補助金や不動産取得税を2分の1にするような優遇税制、低利融資といった支援措置を講じている。今のところ認定した企業は39件、投資額は予定を含めて1019億円を見込んでいる。

–「いのち輝くマグネット神奈川」というスローガンの意味は?

Jsフィッシング(神奈川県・城ヶ島・三崎)

Jsフィッシング(神奈川県・城ヶ島・三崎)

産業も人も呼び寄せる磁石。そうした施策を総称してマグネットと知事が打ち出した。いろいろなものを神奈川県に吸い寄せようという意味。企業が増えれば、投資してもらって、個人的な収入にも響いてくる。そうなると税収も上がるから、様々な施策や事業を打っていける。

企業誘致のほかに、例えば観光では、鎌倉や横浜、箱根は世界的に有名だが、この3地域に続く観光地づくりとして、城ヶ島・三崎、大山、大磯で地域主体の魅力づくりを支援している。こうした施策などで2016年に1億7429万人の県内入込観光客数を2018年に2億人にすることを目標としている。

旧吉田茂邸(神奈川県・大磯)

旧吉田茂邸(神奈川県・大磯)

–2016年度決算について

一般会計の実質収支は、2016年度見込みで51億7600万円の黒字。実質収支は2000年度以降ずっと黒字で、17年連続となっている。主要な3事業の企業会計では、病院事業は2015年度末をもって病院を民間移譲したので廃止した。水道事業会計、電気事業会計は継続して黒字を計上している。

神奈川県3

2016年度決算の速報値での健全化判断比率は、まず、実質公債費比率が前年度から0.6ポイント改善して11.4%と、都道府県平均の11.9%を下回っている。全国の都道府県のなかでは15位と比較的上位に位置している。将来負担比率が127.0%であり、前年度から5.3ポイント改善した。早期健全化基準の400%を大きく下回って、全国7位。実質赤字比率と連結実質赤字比率は、実質収支がプラスなので該当なし。企業会計の資金不足比率では、病院事業会計で2.8%となっているが、民間移譲にかかる売却代金を前受金として計上したので、一時的に出たが来年度は消える。各種財政指標の全国順位では、財政力指数、人口1人当たり人件費・物件費等決算額、人口1人当たり地方債現在高、人口10万人当たり職員数の順位がかなり高い。ただ、経常収支比率だけは、硬直的な歳出構造を反映して第44位と低い。この歳出構造については後ほど説明する。

■自主財源、義務的経費の割合高い

歳入のうち県税を中心とした自主財源が71.8%。普通会計決算でほかの都道府県と比較すると、神奈川県の自主財源の比率は高く。とりわけ地方税は、都道府県平均が39.2%なのに対して、61.5%とかなり高い。特性としては、法人関係税があるので景気の影響を受けやすい。財源の構造としてはほかの県も同じなのだが、産業系に財源を求めている自治体はこうした構造にある。個人県民税も景気が後退すれば翌年度の税収に反映される。 神奈川県4

歳出では、義務的経費が83.3%(一般会計)と非常に高い。特徴的なのは人件費の26.8%で、一般職員のほかに教育職員と警察職員がある。教育職員については、政令市を含んだ市町村立の小中学校の教職員についても全部県が負担して市町村は負担していない。警察職員の負担も大きい。教育職員の政令市部分については移譲があって、来年度からは政令市の教職員の人件費は政令市で持ってもらうことになった。 神奈川県5

普通会計での人件費は36.3%、全国の27.3%を上回っている。県の一般職員は、これまで行財政改革のなかで給与も定数も削減してきているが、教育職員は児童生徒数に反映するような形になっており、法律によって定数が決められ、その人員を措置しなくてはいけない。警察官の数も政令で定数が決められる。そうなると、都市部においては犯罪件数や人口が多いので、必要人数も多くなる。教職員と警察職員は、人口の多い都市部の県であればあるほど大きな割合を占めてくる。これが歳出構造のうちの硬直的な部分。県の裁量ではなかなか減らせない。

–税収について

2007年度に所得税(国税)から個人住民税に税源が移譲されたので、若干税制の状況が変わってきている。2007年度の県税収入は1兆2837億円と税源移譲で増えている。ただし、法人税の割合が高いので景気変動の影響を受けやすい構造。2009年度に大幅に減っているのはリーマンショックの影響がある。それと、法人事業税の一部を地方法人特別税という形で国に吸い上げられた結果が反映されている。それ以降の税収は少しずつ回復している。神奈川県6 県下の市町村に配る税交付金を除いた実質収入額は、2014年度に消費税が5%から8%に引き上げになって、このときにも法人住民税の税率を下げて、地方法人税という国税に持っていった。同じように地方税の法人県民税から国税に持っていって、それを地方交付税として国が配るという措置があって2015年度が少し減っている。これは(消費税を)10%に引き上げるときにもさらに税率を引き下げて国税の方に持っていこうと国が言っているので、その時点ではさらに法人県民税の額は減って国税に吸い上げられていくという方向が今から見えている。

政令市の教職員の人件費は、2017年度からは政令市が負担することとなり、この分の税源は2018年度から個人県民税の所得割で2%を移譲することになっている。2017年度当初予算では税交付金で暫定的に対応することになった。このため、2017年度の実質収入が一時的に下がっているが、来年度には戻る。

■3兆5677億円神奈川県7県債の残高は、2014年度をピークに2年連続で減らすことができた。県債管理目標を設定して、発行抑制に取り組んできた。それでも2016年度は3兆5677億円という依然として巨額なものになっている。ただ、臨時財政対策債を除く現在高は2010年度以降一貫して減っている。臨時財政対策債は、地方交付税の代替措置として発行を余儀なくされており、国の借金の肩代わりと言えるものだが、これが大幅に増えている。2015年度には全体の半分以上を占めるぐらいまで大きくなっている。臨時財政対策債をどうするかが県債の現在高に影響を及ぼすと考えている。

神奈川県・城ヶ島公園

神奈川県・城ヶ島公園

財政状況をまとめると、景気変動の影響を受けやすい歳入構造と、義務的経費が大きく硬直的な歳出構造になっている。それから、臨時財政対策債が高水準な残高になっているので、こうした問題をいかに解決するかというのが重要な課題になっている。

中期財政見通しを2016年3月に取りまとめ、2016年度から2020年度までの5年間の中期推計をした。歳出では、介護・医療・児童関係費が一貫して増えていき、公債費も若干増えてくる。対して、税収の増加は追いつかないだろうという見通しで、2020年度には財源不足額が3750億円になるだろうと推計した。

この対策の基本方向としてはまず、国に対して、地方交付税の総額を確保してもらいたい。臨時財政対策債は、2001年度に制度ができたが、それまでは全部地方交付税という形で交付されていた。2001年度から一部を自治体で借り入れなさいとなったものを、復元してほしい。また、事業を実施する部分においては国が4で地方が6ぐらいあるが、税収の構造は逆になっている。国税が6で地方が4という形。この事業と税収とのギャップの解消を国に求めていく。それから、税を中心とした未済金の圧縮や県有財産の有効活用にも取り組む。既存の事業も徹底的に見直していく必要がある。

–起債運営について

起債運営の健全性を確保していく。県債の管理目標を掲げて現在高を縮小していき、満期一括債については償還財源を確保するため県債管理基金(減債基金)をしっかり積み立てる。今後とも開かれた市場を通じて安定的に資金調達を進めたい。このため、市場との対話、信頼関係の構築を重視した起債をしていく。年間を通じた計画的な発行による買いやすい県債を目指している。 神奈川県8県債管理目標は、1997年度以来様々な設定で取り組んできた。2013年2月に2つの目標を設定して取り組み、「2018年度までにプライマリーバランスを黒字化」は2014年度最終予算で、「2023年度までに県債全体の残高を減少」は2015年度最終予算で達成した。しかし、まだ3兆5677億円という巨額の県債残高があり、これを縮小する必要がある。2016年3月には、県債残高を2023年度までに2兆円台に減らすという目標を設定した。かなり厳しい目標だが、なんとか達成したい。

達成は、基本的に税収の状況によると思う。この先経済のエンジンを回すことによって税収がどれぐらい増えていくか。税収が増えれば県債の発行額を減らせる。あとは臨時財政対策債をどうするかが大きな要素を占める。

■「積んだ」=「返した」神奈川県9満期一括償還債の償還財源は基金に積み立てている。借り換えを含めて原則30年で償還することを念頭にして積み立てている。地方債など債券を中心に運用して利ざやを稼いでおり、これらも償還の財源として活用している。あくまで基金は「積んだ」ことをもって、投資家に「返した」と認識し—-実質的にはこれから返すのだが—-この考え方を堅持していて、ほかの財源には使わない。基金残高、投資家に返済する償還残高は確実に担保されている。資金収支の不足を基金で賄うようなことは一切やらないで、全部残高を確保している。

2001年度は、市場公募、銀行等引受債、公的資金がほぼ3分の1ずつの割合だったが、2002年度から市場公募化を積極的に進め、2017年度には3分の2以上、2860億円が市場公募債となっている。資金調達を多様化し、公債費負担を軽減するため、銀行等引受債も一定程度の調達はしている。

–今年度の市場公募債発行計画について神奈川県1010年債と5年債を基幹債と位置付けており、20年債についても予め発行計画を公表している。予算編成が終わった3月の下旬に発表し、定期的・計画的に発行している。1回の発行額は年間を通じて200億円と一律にしている。事前に発表して、定型化することによって投資家の資金運用計画に組み入れてもらいやすくしている。また、神奈川県の市場公募債は、いずれの年限も国債と償還日を合わせているため、カーブ論は不要。この面でも分かりやすい債券になっている。

神奈川県 総務局財政部財政課 資金・公営事業組合担当 課長 西村 浩 氏(左) 同課資金グループ主任主事 櫻井 典助 氏

神奈川県 総務局財政部財政課
資金・公営事業組合担当
課長 西村 浩 氏(左)
同課資金グループ主任主事
櫻井 典助 氏

本県で初めての20年定時償還債を11月に起債した。管理が難しいという点で投資家の抵抗感があると聞いていたが、最近ではそうではなくなっている。今回初めてなので様々な投資家に検討してもらったのであればありがたい。来年度は状況を見て判断する。

そのときの市場環境によって投資家ニーズが違うと思う。6月に予定していたものを環境によって7月にずらすといったことは一切考えていない。高い利率になると県の負担が大きくなるが、状況に応じることなく、計画通り、利率の上下があったにせよ発行していく。こうしたぶれない姿勢を堅持し、投資家については、資金運用計画に組み入れやすいという部分で、しっかり応えていこうと思っている。

[キャピタルアイ・ニュース 菊地 健之]


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